第611話「本日のランチは、こちらで希望致します! いかがでしょう?」

本日の買い物は、衣食住の内、『食』

ホテルのショッピングモール内には、肉屋、魚屋、八百屋などの専門店はないので、

行先は様々な食材を扱う総合食料品店である。


昨日立てた予定の通り、午前中に必要な食材の買い物を行い、

午後は宿泊している部屋で、『リオネルの手料理』が作られる事となっていた。


総合食料品店の規模は大きく、家具店に匹敵する広さである。


3人が、一歩店内へ入ると、肉、魚、野菜、果実、調味料等々、

カテゴリー別に区分されたお洒落な陳列棚に、ポップ付きの様々な食材が並べられており、まるでワンダーランドのような趣きであった。


先の買い物時と同様、ヒルデガルドは興味津々。

あちこちをきょろきょろ見てしまう。


「うわあ! リオネル様! この店には本当にいろいろな食材があるのですねえ! 素敵です! 我がイエーラにここまで大規模な店はありませんわ!」


「そうですか、以前ワレバッドに居た時たまに来ましたが、いろいろなものが一度にまとめて購入出来るのが便利です」


「成る程」


「決められた食材を扱う専門店にも良さがありますけど、最初の『食』に関しては、品ぞろえが段違いに多いここで買い物をするのが良いと思います」


「分かりました」


3人が入ったすぐ脇には運搬用のショッピングカートが置かれており、

買い物かごも高く積み上げられていた。


「ええっと、リオネル様、これは何をどうするものでしょう? 手押しの荷車のようですが」


「はい、ヒルデガルドさんの言う通り、手押しの荷車に近いものです。購入したものが多いと、抱えて店内で移動するのが大変ですから、運搬出来るショッピングカートと、購入品をまとめられる買い物かごを使って広い店内を回ります」


「な、成る程! それで、これだけたくさんある食材の中から、リオネル様は何をお買い求めになりますか?」


「はい、今日作るメニューは昨夜のうちに決めています。なので、それに沿って食材を購入します。ちなみにこれが午後作るメニュー一覧と食材のメモです」


リオネルはそう言い、一枚の紙を見せた。


提示された紙を見たヒルデガルドは、目を輝かせる。

紙には、びっしりと文字が記載されていた。


「わあ! レシピ入りのメニューがたくさん、レストランのメニュー表みたいです! 準備万端ですね!」


備えあればうれいなしとばかりに、リオネルは店内で迷わないよう、

無駄な時間を使わないように、準備を整えていたのだ。


というわけで、リオネルはさっさと、ショッピングカートを確保し、

上部に買い物かごをセッティング。


「買い足しがあれば、臨機応変にやります。では、早速行きますか」


しかしヒルデガルドは、じ~っとショッピングカートを凝視。


「リオネル様! 私にぜひ、そのショッピングカートを押させてください!」


「分かりました、ヒルデガルドさん、了解です。そしてエステルさん、申し訳ありませんが、今日もフォローを宜しくお願いします」


「はいっ! かしこまりましたあ! リオネル様。何かあれば、私へお気軽にお申し付けください。おふたりのお買い物の、お手伝いをさせて頂きます」


……という事で、大盛り上がりのヒルデガルドを中心に、

エステルにケアして貰いながら、リオネルは買い物を開始したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


冒険者ギルド総本部のホテル、ショッピングモールにある、

総合食料品店の店内は広大だ。


ただ店内をまんべんなくヒルデガルドに見せ、いちいち食材の説明をしたら、

とんでもない時間がかかってしまう。


更にランチ後には、夕食を作る調理も控えている。


そこでリオネルは、振舞う料理をレシピ付きで一覧とし、

買い物と食材の説明を効率的に行う事を考えたのだ。


そんなこんなで、ヒルデガルドの希望通り、

彼女にショッピングカートを押して貰い、

設置した買い物かごへ、選んだ食材を簡単な説明とともに次々と放り込んで行く。


エステルも食材の受け渡しを手伝う。


「あの、リオネル様、この食材は? こちらは?」


というヒルデガルドの矢継ぎ早な質問に対し、

リオネルの説明は例によって簡潔明瞭。


食材の名前、用途、特徴、産地、他にどのような料理に使うかなど、

的確かつ丁寧な物言いで伝えた。


やがて……リオネルが作る料理の買い物は終わり、ランチまでの残った時間は、

店内のあちこちを改めて回った。


そんなこんなで、時間も昼前。

タイムリミットが迫って来たので、

「ランチをどうしうようか? ホテルのレストラン?」という事になった。


リオネルとヒルデガルドは相談し、

その後の、料理の時間を有意義に使う為、部屋で摂ろうという意見で一致。


当然、ふたりの『デート』を、恋路を邪魔をしたくないと、

気を遣ったエステルだが、


ヒルデガルドから、


「余計なお気遣いは無用ですわ、エステル様。3人で一緒にランチを摂り、その後、リオネル様から一緒に料理も習いましょう。当然その後は、一緒に夕食ですね」


と結構強引に誘われてしまった。


気の置けない同性の友人が居なかったヒルデガルドは、

エステルと、もっと交流を楽しみたいようだ。


「ええっと、それはさすがに、私はお邪魔虫ですから……」


と言い、断ろうとしたエステルであったが、リオネルも、


「いやいや、お邪魔虫ではないし、ヒルデガルドさんが望んでいるのなら全く問題はありません」


「そ、そうでしょうか」


「はい、エステルさんには今回は勿論、以前お世話になったお礼もあるし、俺の拙い料理で良ければ、気軽に食べて行ってください。ブレーズ様やクローディーヌさんには俺から言いますし、夕食が終わったら自宅まで帰れるよう馬車も手配しますよ」


と誘ったのである。


そこまで言われたら、エステルも断れない。


「わっかりました! ではお言葉に甘えて本日は夕食までお供いたしま~す!」


ここで「はい!」と挙手をしたのはヒルデガルドである。


「リオネル様! エステルさん! 私、さっきからず~っと気になっていて、ちょっと宜しいですか!」


と言い、足早にショッピングカートを押しながら、とあるコーナーへ、

リオネルとエステルをいざなった。


……ヒルデガルドが気になっていたのは、『お弁当』『お惣菜』のコーナーである。


店内を回っていて、しっかりチェックしていたらしい。


「私、お弁当って食べた事がなくて! 凄く美味しそうですわ! 本日のランチは、こちらで希望致します! いかがでしょう?」


対してリオネルとエステルは、


「問題ありません。いろいろ買って持ち帰りましょう」


「大賛成でっす! サラダ、フルーツ、飲み物も買いましょう!」


と言い、3人はあれがいい、これがいいと、楽しく買い物をしたのである。

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