第550話「とんでもない人間……否、超が付く魔人だ!!!」

若干18歳にして……

冒険者ギルドの最高峰たるランクSに上り詰めたリオネル・ロートレック。


いかなるオファーも受けず、アールヴ族の国イエーラへ赴くと分かり、

フォルミーカ支部のギルドマスター、アウグスト・ブラードからは、

根掘り葉掘り散々尋ねられたが……


対して、リオネルはといえば、


「冒険者の大先輩で、あくまでも親しい友人であるイェレミアス・エテラヴオリの帰郷に同行するだけ」


「イェレミアスから、どうしてもと求められれば、アドバイスや協力ぐらいはするかもしれない」


と答えたのである。


アウグストとしては、もしかしたら直接の依頼を受けているのかもと気にはなったが、

ギルドの規定で直接の依頼や副業を禁止しているわけでもなく、これ以上の詮索は、

悪い影響をもたらすかもしれないと判断し、泣く泣く追及を諦めたのである。


そして、リオネルがランクSに昇格した翌日。


ようやく、イェレミアスの孫娘で現ソウェル、ヒルデガルド・エテラヴオリとの日程調整がつき、1週間後以降ならば、いつでも訪問OKとの連絡が来たのである。


リオネルとイェレミアスは、改めて打合せをし、1週間後に転移魔法でイエーラの都フェフへ赴く事と決めた。


地界王アマイモンの孫娘ティエラと待ち合せをしているが、彼女との連絡手段に確固たるものがない。


リオネルが念話で、事前連絡を入れておこうという話となったのである。


日程が決まった事で、リオネルはイエーラの国に関して、

そして、ヒルデガルドについてもおさらいをした。


購入リストもチェックし、不足だと思う物資も多めに追加した。


今回、イエーラへ赴き、イェレミアスへ協力する事を伝えてあるのは、

イェレミアスの親友で『魔道具店 クピディタース』の店主である、

ボトヴィッド・エウレニウスだけだ。


そのボトヴィッドは、「まあ、頑張って来い。いつでも遊びに来いよ」

と、エールを送ってくれた。


ボトヴィッド以外の人間は、誰も何も知らない。


そんなこんなで、フォルミーカ出発の日が来た。


正門で見送ろうと言われたが、リオネルが固辞した為、

宿屋・山猫亭の店先で、店主のダニエラ・ビルトとブレンダの母娘、

そして、連絡を受け、駆けつけた、冒険者ギルドの専任業務担当者であるエミリア・オースルンドが別れを惜しんでくれた。


エミリアからは、イエーラの後、どこへ行くのかと尋ねられたが、

「未定」と答えるしかなかった。


イェレミアスがリオネルへ微笑み、


「では、リオネル君、行こうか」


「はい! 行きましょう!」


リオネルも元気よく返事をし、微笑み返す。


という事で、リオネルとイェレミアスは出発したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


フォルミーカの街を出たリオネルとイェレミアス。


……ふたりとも久々の旅である。


久々と言っても比べ物にはならないが。


なぜなら、リオネルは数か月と少しぶりだが、

イェレミアスは40年以上迷宮にこもっていたから、相当なものである。


まあ、数千年を生きるアールヴ族にとって、

40年など人生の中では、ほんの短い時間かもしれないが。


さてさて!

フォルミーカから延びる北へ向かう街道を、ふたりは歩く。


人間族とアールヴ族の組み合わせだが、通行人はじろじろと見てきたりはしない。


ふたりは革鎧に武器を装備した冒険者のいでたち。


このように種族が異なる冒険者のコンビ……というのは、良くあるケースだからだ。


ここでリオネルが、ぼそっと話しかける。


「イェレミアスさん」


「うむ」


「万が一、誰かに聞かれ、わあわあ、騒がれても嫌なので、会話は基本、念話でお願いします」


「分かった」


という事で、リオネルとイェレミアスのやりとりは、

心と心の会話、念話へと切り替わる。


『もう少し街道を歩きます』


『うむ』


『人影がなくなった頃合いを見て、少しずつ転移で飛びます。イエーラの都フェフまで、ここから約5,000㎞と少しあります。俺はまだまだ修行中なんで、一気に5,000㎞は無理ゲーです』


明るく微笑むリオネルだが、悲観の色はない。

修行を重ね、いつの日にか、5,000㎞を一気に跳ぶ!という固い決意が感じられる。


末怖ろしい子だ……と思いながら、イェレミアスは言う。


『うむ、構わない。というか、私はストーンサークルの装置なしで、転移魔法は無理だ。全面的にリオネル君へ任せるよ』


『了解です。転移魔法の修行を兼ね、距離を延ばしながら、跳びます。最初は現在の限界距離の約500㎞から行きますね』


『う、うむ……転移魔法の限界距離が500㎞か……』


『はい! もしも限界距離が延びなくても、単純計算で、11回も跳べば、5,500㎞。フェフへ確実に到着します。初めての転移先なんで、少し誤差が出るかもしれませんが、ご容赦ください』


『多少の誤差くらい構わんが……魔力を相当消費するであろう転移魔法を11回も繰り返して、体内魔力は……もちそうかね? 魔力枯渇はしないのかい?』


『はい、多分大丈夫です。もしやばくなっても、1分も休憩すれば、体内魔力は満タンになりますし、最悪、魔力ポーションもあります』


『!!!!!????』


リオネルの言葉を聞き、イェレミアスは絶句した。


体内魔力が枯渇寸前でも、1分休憩で満タン!!??


そんな奴、聞いた事も見た事もない。


とんでもない人間……否、超が付く魔人だ!!!


イェレミアスは大きく目を見開き、あんぐりと口を開け、

まじまじとリオネルを見てしまったのである。

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