第540話「瞬殺で却下! 言ったばかりでしょ! でもでもだって、だがしかしは、もう禁止よ!」

交渉役としても、超有能なティエラには、

さすがのイェレミアスも、たじたじとなってしまった。


いくら精霊を崇拝するアールヴ族だからといって、

ティエラの押しの強さは半端ない。


イェレミアスと契約するにあたり、

契約金、金貨1億枚を始めとして、契約期間、条件面等々、

リオネルにとって、超が付く有利な条件を、次々に決めてしまったからだ。


魔法で現れた、目の前に並ぶ契約書は、

チラ見したら、人間語とアールヴ語で同内容が記載されていた。

リオネルとイェレミアスの所持分が、各二通で、計4枚あるらしい。


……そういえば、ティエラは、

「契約内容にリオネルの希望があれば、遠慮なく述べよ」と、言っていた。


しばし考えたリオネルは……

今後の予定を加味した上で、いくつか希望を述べた。


じ~っと自分を見つめている、ティエラとイェレミアスへ告げる。


リオネルが、箇条書き形式で述べた希望は、下記の通り。


ひとつ、本日から約1か月間、このフォルミーカ迷宮へとどまり、

イェレミアスの案内、手ほどきで、リオネルが迷宮の古代知識を学び、実践する事。


ふたつ、上記と並行して、差し支えない範囲内での、

リオネル、イェレミアス双方の個人能力情報の共有を行う事。


みっつ、同じく、上記と並行して、

現ソウェル、イェレミアスの孫娘の差し支えない範囲内での個人能力情報開示、

及びイエーラの事情を取材、

以上を鑑みて、具体的なイエーラ改革案の立案を行う事。


よっつ、上記、改革案の着地点をおおまかに決めておく事。


いつつ、この依頼完遂後引き止めず、リオネルは完全に自由行動となる事。


「以上5つか……ええっと、こんなものかな?」


リオネルから希望が出て、ティエラは、イェレミアスへ問いかける。


「どうお? イェレミアス? 今回の契約において、リオの出した追加希望に関しては?」


「は、はい! ティエラ様、特に問題はないと思われます」


「うふふ♡ イェレミアスはOKだってさ! リオはもう希望はない?」


ティエラから問われ、リオネルが、もう漏れはないか?と首をひねれば……

特に思い当たらない。


すると、


「はいは~い! リオに何も無いのなら、私から、追加希望がありま~す」


にこにこ顔のティエラが、元気よく挙手をしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


果たして、ティエラの追加希望とは……一体どういうものなのか?


リオネルと、イェレミアスが注目していると、それはいきなりさく裂する。


「うふふ♡ これも入れとこ! この機会に、アールヴ族はドワーフことドヴェルグ族と完全に和解し、国交断絶を廃止、積極的に交流する事お!」


「な!?」


アールヴ族はドワーフことドヴェルグ族と完全に和解し、国交断絶を廃止、

積極的に交流する。


ティエラの追加希望を聞き、イェレミアスはとても驚いた。

目を大きく見開く。


「い、いえ! ティエラ様! そ、それだけは飲めません!」


イェレミアスが抵抗、断固反対するのも無理はない。


古来から、森に住むエルフことアールヴ族と、

地の底に住むドワーフことドヴェルグ族は、

犬猿の仲を遥かに超えるくらい、非常に仲が悪いのは有名なのだ。


古文書の記載によれば、原因はいろいろあるらしい。

しかし、単なる行き違いからという説が最も有力のようだ。


しかし、ティエラはイェレミアスの反対をあっさり退ける。


「ぶっぶ~! ダメよ、イェレミアス! 問答無用で却下!」


「うお!? 問答無用で却下!? ……ですか?」


「そうよ! イェレミアス! 貴方以下、アールヴ族はね、プライドばかり高くて、理屈ばっかり! つまらないこだわりや御託ごたくが多すぎるわ!」


「で、でも……」


「シャラップ! 黙れ! でもじゃない! いい加減、つまんないわだかまりを捨てて、ドヴェルグ族と仲良くしなさい!」 


歯に衣着せぬ、ティエラの物言い。


しかし、これまでの話の流れから、イェレミアスは全く反論出来ない。

言葉すら出て来ないのだ。


「むぐぐぐ……」


反論不可能なイェレミアスへ、ティエラは更に追撃する。


「こら! イェレミアス! でもでもだって、とか、だがしかしは、もううんざり! きっぱりと決断しなさい! リオが上層でドヴェルグ達と仲良くなったのも、貴方は見たでしょ? 双方と交流のあるリオに間に立って貰い、ドヴェルグ族と仲直りするベストチャンスじゃない」


一気にまくしたてるティエラだが、イェレミアスはまだ煮え切らない。


はたから見て、聞いていて、リオネルは、何となく分かる。


ドヴェルグ族を下に見るアールヴ族は、

こちらから頭を下げ、歩み寄るのが嫌なのだと。


かといって、ドヴェルグ族が歩み寄っても、

アールヴ族は、そう簡単には受け入れないだろう。


「しかしですね、ティエラ様。ドヴェルグ族との長年の確執は……そう簡単には……」


「瞬殺で却下! 言ったばかりでしょ! でもでもだって、だがしかしは、もう禁止よ!」


「ううう」


「ほら! ぐだぐだ言わない! 私も協力するから、ね? イェレミアス」


やりとりを聞きながら、リオネルにはティエラの思惑が見えて来た。


ドヴェルグ族が崇拝するのは、ティエラの父、地界王アマイモン。

つまりドヴェルグ族は、地の眷属である。


地の配下たるドヴェルグ族が、諍いを収め、アールヴ族と和解すれば、

父君アマイモンの覚えめでたく、愛娘ティエラの手柄となるのであろう。


そして、人間族のリオネルを送り、祖国イエーラが発展して、豊かになり、

宿敵だったドヴェルグ族と和解すれば、

従来、風と水の属性を重んじていたアールヴ族は、

恩を感じて、感謝し、ティエラ、イコール地の属性も重んじるようにもなる。


まさに一石二鳥。

ティエラには、大きな箔がつく。


ゆくゆくは地母神になるにあたり、箔はいくらあってもOK。


困難な問題を、悪意なく、一気に解決しようとする、

計算高い、やり手のティエラ。


やっぱり、さすがだなあ……ティエラ様は。


リオネルは感嘆し、笑みを浮かべるティエラの可憐な横顔を、

じっと見つめたのである。

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