第539話「あら! たった1億枚よ、イェレミアス」
「うむ、よろしい! ……と、いう事でうふふ♡ リオ、お願い♡」
大きく頷いたティエラは、悪戯っぽく笑い、
ウインクして、可愛らしくおねだりした。
リオネルが、イェレミアスとともに、エルフことアールヴ族の国イエーラへ向かい、
彼らが見下す人間族である自身の能力を見せ……
排他的なアールヴ族の目を、世界に向けるよう協力し、
新たな一歩を踏み出すようにする。
……という話は、ティエラの中では既に、決定事項のようだ。
リオネルを完全に信じ切っているというのか……
微笑みかけるティエラの表情は、リオネルからNGを出され断られる事など、
露ほども考えていないらしい。
まあ、ティエラから、ここまで言われ、ぜひにと頼まれたから、
リオネルも、今回の一件を引き受けるつもりである。
いろいろな意味で、世話になったティエラには逆らえない。
習得した転移魔法が開花するべく手助けをして貰った事。
地属性の眷属ケルベロス、オルトロスが忠実に仕えているのは、
ティエラのお陰でもある事。
その他にも、節目節目で助けて貰った事等々……数えきれない。
大好きだと、あからさまな好意を向けて来るティエラだが、
……確かに自分もティエラの事は大好きである。
容姿も性格もティエラの持ちうる全てが魅力的だとリオネルは思う。
地の最上級精霊で、地母神になるべく修行中のティエラには、
無限大ともいえる、底知れぬ母性を感じる。
母のように、姉のように、時には恋人のように接して来て、
そして年下の妹のようにも甘えて来るティエラは、とんでもなく魅力的なのだ。
ただ、ティエラは、さすがに恋愛対象ではないと思う。
彼女の言う通り、寿命が近い人間族の想い人と巡り合えれば良いと思う。
さてさて!
引き受ける事を決めたのだが、
そもそもリオネルに、アールヴ族を助けるいわれは全くない。
アールヴ族のつながりは皆無とは言わないが、相当希薄だから。
18年の人生において、懇意にしたのは、
ただひとり、目の前に居る、前ソウェルのイェレミアスのみである。
過去に、各所の冒険者ギルドで出会った冒険者仲間で、
アールヴ族の知り合いは何人か居た。
だが、最も知っている相手でも、
単に互いに名前と顔を知っている『顔見知り』という程度だ。
ちょっち、すれ違うレベル程度の出会いだったし、
時間と手間をかけ、助ける義理も道理もない。
そこまで、アールヴ族とは縁もゆかりもないリオネルだが、
今回の件を引き受ける気になったのは……
ティエラからのたっての頼みに加え、
邂逅し、近しく感じた、魔法オタクたるイェレミアスの性格と彼の持つ事情、
更に、アールヴ族自体への好奇心という要素もあったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
つらつらと考えたリオネルは、ティエラのおねだりに対し、
返事をする。
「分かりました、ティエラ様。お引き受けします。但し、申し訳ありませんが、成功の確約は出来ません。それでよろしければですが、精一杯の全力を尽くします」
と、了解の言葉を告げた。
対してティエラは、
「わあ~お! ありがと! リオ!」
と礼を言い、リオネルの手を、ぎゅ!と握り、イェレミアスへ言う。
「……という事で話は決まったわ。イェレミアス、貴方や孫娘、一族が満足する形での、成功の確約はしない。まずはこれが大前提。それで構わないわね?」
「は、はい! か、構いません!」
「それと、この案件はギブアンドテイクよ、イェレミアス。リオも貴方も同じ冒険者。依頼には報酬が必要よ。分かるでしょ?」
「依頼には報酬! は、はい! そ、それは当然! り、理解しております!」
「よろしい! ああ、念の為、冒険者ギルドを介在しない、リオへの直依頼よ」
「は、はい!」
「まずは、契約期間はリオにお任せ。良いわね?」
「は、はい! 構いません!」
「OK! 解決時期の判断、決着の内容までリオへ全てお任せ。完遂まで、1か月でも、もしくは1年か、それ以上でも、リオの判断次第よ」
「は、はい!」
「うふふふ、金額は、はずんでね?」
「は、はい!」
「う~ん、そうだなあ。契約金のみで、金貨
契約金のみで、金貨1億枚、それ以外、必要経費は別途。
しれっと言うティエラ。
え!? 金貨
と、リオネルは驚いたが、
『しっ! 黙ってて! 私に任せて!』
とティエラから内々の念話で制され、リオネルは無言。
当然、契約金の金額を聞き、イェレミアスも驚く。
「ええええ!!!??? い、い、1億枚!?」
驚くイェレミアスへ、相変わらずティエラはしれっと、
「あら! たった1億枚よ、イェレミアス。貴方の所有する財産からすれば、やっすいものでしょ? 貴方のポケットマネーレベルで、長年の悩みを解消した上、イエーラ1国を救う報酬なのよ」
「は、はいっ! わ、分かりましたっ!」
金貨1億枚……とんでもなく高額の報酬である。
ただ、ティエラが言う例えで考えると、納得しないでもない。
イェレミアスが抱える数多の悩みを解決し、国を1国救うのだ。
超が付く高難度である。
金貨1億枚は妥当かもしれない。
確約は出来ないと告げて、了解を貰ってあるし、自分は全力を尽くすのみ。
つらつら考えるリオネル。
一方、ティエラの話は続いている。
「ああ、そうそう、さっきも言ったけど、契約の基本料金以外に、オプションサービス、イエーラへの旅費、各所の滞在費、食費等々、もろもろの必要経費は別途だからね」
「は、はい!」
「リオの意向、希望には、貴方以下、アールヴ族は、どんな手を尽くしても、絶対に従う事。リオは優しくて慎重だから、無茶ぶりとか、愚かな指示、行動はしないから大丈夫よ」
「わ、分かりました」
「リオの能力については基本的に厳秘よ。彼の許可がない限り絶対に明かさない事。そして無理に行使を求めない事」
「はい!」
「リオはね、人間族の数多な町や村を様々な手を尽くして救った実績があるわ。アールヴ族相手だと、ちょっと勝手が違うかもしれないけど、基本的には同じだと思うよ」
「な、成る程ですね」
「よろしい! 私が今言った事は、書面の契約書にしておくわ。人間語とアールヴ語で各2通ずつ作るわね。リオも何か、希望があったら、いつでも言いなさい、追加しておくから」
そう言うとティエラは「うふふ」と笑い、指をぴん!と鳴らした。
するとすると!
目の前のテーブル上に、紙製の契約書が4枚出現した。
交渉役としても、超有能なティエラには、
さすがのイェレミアスも、たじたじとなってしまったのである。
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