第527話「なんとなく、自分とイェレミアスは気が合うのではとも思う」

転移魔法が発動した思われる不可思議な光景はそのまま続いていた。


それを見て、自分が行使するものとは違う系統の転移魔法だと、

リオネルは実感した。


……やはり、魔法は奥深いものだとも思う。

そして、様々な転移魔法を習得してみたいとも思う。


さてさて!

古代遺跡ストーンサークル周囲の空間は、「ぱかっ」と開いたままの状態である。

しかし割れた空間の中はといえば、景色が見えるわけでもなく真っ暗だ。


リオネルは確信する。


ゴーレム達ともに、イェレミアスが現れたこの開いた空間が、

迷宮独自の転移魔法により、開かれた階下への出入り口だと。


そう!

この先には間違いなく、地下151階層以降の世界へとつながっている。


その出入り口へ向かい、多士済々のメンバーが歩いていた。


屈強なタイプのゴーレム2体に守られた、

アールヴ族の魔法使いイェレミアスが先頭を歩き、


続いてリオネルに忠実な仲間達、冥界の魔獣ケルベロス、

そして火の精霊サラマンダーに擬態した火竜ファイアドレイクが、


そして最後方には、

肩へ妖精ピクシーのジャンを乗せた人間族の冒険者リオネルが歩いていた。


ケルベロスとファイアドレイクが先んじるのは、

当然、主リオネルの盾となり守る為である。


さあ!

いよいよ空間の裂け目へ突入だ。


まず、ゴーレム2体に守られたイェレミアスが開いた空間の中へ消えた。

更に、躊躇する事無く、ケルベロスとファイアドレイクも消える。


ケルベロスとファイアドレイクからは、特にSOSや警戒を発する波動もなかった。

なので、リオネルもそのまま足を踏み入れた。


その瞬間!


ぶわわわっっっっっっ!!!


と身体が持ち上がった不可思議な感覚と共に、


ぱっ!と、リオネルの周囲の景色が思い切り変わったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


切り替わった景色を見て、


「おお!」


と、リオネルから思わず感嘆の声が出た。


自分が今まで居た古びた石壁が続く通路と、

扉のない、いくつもの部屋で構成された無味乾燥な迷宮の寒々しい風景が、

フォルミーカの地下街で見たような、広大な都市の光景に切り替わっていのだ。


視野へ入る都市の様相は、やはりというかリオネルが普段目にするものではない。


凄く美しいし、素敵な街並みなのだが……

とてもレトロというか、クラシカルというか、重厚感があるというか、


でも……初めて目にするのではなく、どこかで見た事はある風景。


リオネルは一生懸命に記憶をたぐった。


!!!!


しばし経って……思い出した。


この風景は、魔法学校や冒険者ギルドの図書館で見た古文書に描かれていた、

伝説たる滅びた魔法古代都市の風景であると。


リオネルは改めて周囲を念入りに見回す。


都市には結構な数の『群衆』が、

……リオネルの周囲には、数多の人型が居た。


そのほとんどが、自分達へ視線を注いでいる。


無関心ではなく、リオネル達一行を注視していた。


『群衆』はざっと数えても、数は100体以上になるだろう。

そしてその人型の外見は人間族でも、アールヴ族でもなかった。


そう!

人間には模してはいるが、全てが疑似生命体、

イェレミアスが使役しているのとほぼ同型の、

自動人形オートマタのようなゴーレム達なのである。


リオネルは念入りに確認したが、放つ波動で分かる。


生身の者は一切皆無……


全くといって良いほど見当たらない。


そんなゴーレム達を見ながら、イェレミアスは言う。


「ふふふふ、地下にこのような広大な街並みがあり、こんなにゴーレム達が居て驚いたかね、リオネル君」


「はあ、驚きました」


「うむうむ! これらの彼ら、彼女達は皆、私の国民であり家族だぞ。ちなみにこの場に居る以外にも大勢居る」


「成る程ですね」


もしかしたら、イェレミアスはたったひとり、このフォルミーカ迷宮へ引きこもって、数多のゴーレム達と一緒に暮らしているのか……


同族のアールヴや人間を始め、他種族が嫌いなのだろうか?

たとえてよく言うのが『人間嫌い』って奴。


そういえば、親しくしていた魔道具店店主ボトヴィッドさんも、

「自分を棚上げして言えないがよ、イェレミアスは頑固で相当な変人だぞ」

と言っていたし。


まあ、たったひとりの『ぼっち』で、

魔物達と迷宮を奥深く探索する自分も、他人の事は変人だと絶対に言えないが。


でも……

なんとなく、自分とイェレミアスは気が合うのではとも思う。


そんな思いを顔には出さず、内心苦笑しながら、リオネルは聞いてみる。


「おっしゃる通り素晴らしい街ですね。そしてイェレミアスさん、ところでここはどこなんでしょうか?」


そんなリオネルの問いかけに対し、イェレミアスは即答する。


「うむ、ここはな、私の住まう階層だ」


幸い機嫌が良さそうなイェレミアスだが、

転移して来たこの階層がどこなのか、何階層なのか、具体的に言わなかった。


ただ自身が住まう階層というコメントだけである。


う~ん。

さっきまで居た1階層下たる直近の151階層なのか、

もしくはそれ以外のもっともっと深い階層なのか……


まあ、いっか!


更にやりとりして、後でおいおい分かるだろう。


イェレミアスが隠すのは、意図的なもので、そして理由もあるだろうが、

リオネルは敢えてその場では尋ねなかったのである。

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