第521話「イェレミアスが何故、現れないのか、考えてみた」
地下150階層、最初のストーンサークルを後にしたリオネル。
引き続き、フロアの探索を行う。
ケルベロス、ファイアドレイク、ジャンが先行し、
背後をアスプ達20体が固める隊列だ。
魔導光球が照らす通路を、シーフ職スキルを駆使し、
『隠形』『忍び足』で、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。
昨日のうち、冒険者ギルドの地図を頭へ叩き込んで、
フロアの構造を把握していたリオネルは、先導もあって、
スムーズに探索を進めて行く。
索敵……魔力感知も最大限に張り巡らせてはいるが、相変わらず反応はない。
先行するケルベロス、ファイアドレイク、ジャン、
後方を固めるアスプ達からも危険や異常を報せる連絡はなく、
現状では、リオネル一行以外、このフロアに存在する者は居ない。
……やがて一行は、ふたつめのストーンサークルへ到着した。
リオネルから少し離れた場所で、仲間達は警戒にあたる。
一方、リオネルは、やはり……これまでと同じように調べてみた。
じっくりと、丹念に……
あ!?
このストーンサークルでも感じる!
……わずかだが、魔力の残滓を感じた……
イェレミアス本人か、ゴーレムかは分からないが、
このストーンサークルを『異界門』として、
『移動手段』として、使用した痕跡がある。
「もしかしたら……」と思い、
リオネルは、30分ほど待ったが……
残念ながらイェレミアスが現れる気配はなかった。
むうう、ここもダメか……
地図とケルベリス達の報告によれば、まだまだこのフロアに、
ストーンサークルは3つある。
よし!
次のストーンサークルへ……行こう。
リオネルは、ケルベロス達へ命じ、移動する事に決めた。
通路と空き部屋の繰り返しで、敵は出現しない。
極めて単調な探索ではあるが、リオネルは気を抜かず、静かに慎重に進む。
罠も見当たらず、安全面ではほぼ問題がない。
到達した人間族冒険者の先人達にとっては、苦労してたどり着いたゴール地点。
気が休まる安全地帯であったに違いない。
そして先人達は、未知たる地下151階層への出入り口を必死に探しただろう。
リオネルはそんな思いを持ちながら、3つめ、4つめのストーンサークルへ到達し、
それぞれに魔力残滓を確認し、その場でイェレミアスを待ってみた。
……しかし、残念ながらイェレミアスが現れる気配はなかった。
どうして、イェレミアスさんは現れないのだろう?
首を傾げたリオネルは、5つめ……
この地下150階層フロア、最後のストーンサークルへ向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ケルベロス、ファイアドレイク、ジャンを先行させ、
アスプ達に後方を固めさせ……
通路と空き部屋の繰り返しで、敵は出現しないという探索を続け……
遂にリオネルは、5つめ……
この地下150階層フロア、最後のストーンサークルへ到着した。
これまでのストーンサークルと全く同じ繰り返し、
リオネルは、これまでと同じように調べてみた。
じっくりと、丹念に……
最後のストーンサークルでも、わずかだが、魔力の残滓を感じた……
これまでと全く同じ。
リオネルは、同じく約30分間その場で待機した。
……やはり、イェレミアスが現れる気配はなかった。
仕方なくリオネルは、残った未踏エリアを全て探索し、
5つ目のストーンサークルへ戻って来た。
既にリオネルは、決めていた。
この5つ目のストーンサークルのそばで、待機しようと。
リオネルは、改めて愛用の魔導懐中時計を見た。
時計の針を確認すれば、時間は午後2時過ぎ。
探索終了時刻まで、あと3時間弱もある。
無人で、敵も出ないシンプルな構造の探索にしては、
いつものペースよりだいぶ遅いが、じっくりと用心深く、そしてストーンサークルの確認待機もあったから、致し方ない。
キャンプの用意をし、
ケルベロス、ファイアドレイク、ジズ、ジャン、アスプ達を呼び寄せ、
休憩に入らせた。
そのまま、周囲に配置し、『スタンバイ状態』へ入る。
午後5時になったら、食事の支度をし、与えてから……
待機組のオルトロス達と交代させる予定である。
リオネル自身は、休憩をしながら……
イェレミアスが何故、現れないのか、考えてみた。
手紙を託した『魔道具店 クピディタース』のオーナー店主、
ボトヴィッド・エウレニウスから聞いた、イェレミアスの人となりを考えると、
約束を簡単に反古にするとは思えない。
ゴーレム経由とはいえ……
イェレミアスと面会の約束をした際、
騙そうとか、ふざけているような波動ではなかった。
現れないのは、何か理由がある。
リオネルは、いくつかを推測をしたが、確かめるすべはない。
焦っても無駄である。
地下150階層は全て探索したし、ここは待つしかないだろう。
少し、休むか……
リオネルは、仲間達へ見張りを頼み、寝袋にて仮眠へ入ったのである。
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