第467話「もしイェレミアスさんと巡り合えたら、ぜひ話してみたいと、リオネルは思う」

『……汝らに、めぐみよ、あれ!』


その瞬間!


ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱっっっっっっっっ!!!!!


リオネルの言霊に応えるよう、ドラゴンゾンビが出現した湿地帯全体が、

正視不可能なくらい、まばゆい白光に包まれた。


すると!


湿地帯を覆っていた、酷い汚れとおぞましき瘴気があっという間に、

かき消えて行った……


汚れと瘴気が消えるのと同じく、まばゆい白光も徐々に治まっていく。


白光が消えるとともに現れたのは……

本来の土と水の香りに満ち満ちた湿地帯だ。

いずれ、植物も復活し、花、草の香りも加わるだろう。


補足しよう。


湿地とは、地下水位が高くて湿潤な土地の事。

こけに覆われた湿原や湖、マングローブ湿地や泥沼、泥炭地や河川、

干潟、草に覆われた氾濫原の低湿地帯などを指す。


湿地帯は、温室効果ガスである二酸化炭素を吸収。

炭素を蓄積することで気候を調整している。

他にも、水質の浄化や水量調整などを行なってもいる。


また、多種多様な生物が生育する環境であり、

数多の生物にとっての食糧供給源にもなっているのだ。


地の最上級精霊ティエラから受けた加護に、

破邪を加えたリオネルの『地の浄化魔法』は、見事成功したのである。


やがて白光は、完全に消えた。


瘴気同様、汚れと悪臭も同じく完全に消え、湿地帯は本来の活力を取り戻していた。


もしも、人間の第三者が見守っていたら、

「これは……奇跡だ!」と大声で叫んだに違いない。


おぞましい瘴気さえなければ、

隣接する竜……ドラゴンの墓場も、

安らかな眠りを提供する、永遠の境地となるだろう。


『地の浄化魔法』発動の成功を見届けた、魔獣兄弟ケルベロス、オルトロスが、

リオネルへ話しかけて来る。


無論、念話だ。


『おお! あるじよ! 見事だ! 今使った地の浄化魔法は素晴らしかった。完璧だぞ!』


『ああ! 主に手ほどきされたティエラ様は当然だが、ティエラ様のお父上、高貴なる地界王アマイモン様も大いにお喜びとなるだろう!』


魔獣兄弟の声は喜びに満ちあふれていた。

彼ら兄弟は、地界王アマイモン配下たる地の眷属であり、アマイモン愛娘のティエラにも絶対の服従、忠誠を誓っている。


主リオネルが地の魔法を行使する頻度は勿論、

高位魔法の習得と発動成功にはとてもこだわる。


地以外3つの属性魔法への対抗心に他ならない。


「!!!!!!!!」


「!!!!!!!!」


魔獣兄弟が歓喜するのを見て、

こちらも対抗心を燃やしたのか、火竜ファイアドレイクが火の魔法を、

鳥の王ジズも風の魔法も「使ってくれ!」と頼み込んで来る。


そして、今は異界に居る凍竜フロストドレイクも、

水の魔法使用を強く望むに違いない。


「分かった」と念話で返事をしつつ、

リオネルは笑顔で頷いていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ティエラから授かった地の加護により、汚染された湿地帯を浄化したリオネル。


魔獣ケルベロスを始めとした仲間達と、引き続き、地下121階層の探索を続ける。


相変わらず、シーフ職スキルを駆使し、


『隠形』『忍び足』で、すっ、すっ、すっ、と空気の如く進む。


リオネルは、ドラゴンスケルトン、ドラゴンゾンビを倒した後、

再び敵と遭遇。


オーガの最上位種オーガキング、妖精の成れの果てと言われるトロルを倒した。


オーガキングは既に戦った事があり楽勝。

トロルも強敵ではあったが、魔法が使えず、オーガキングとほぼ同じスペック。

全く問題としなかった。


両者とも、ランカー冒険者が相対しても命を懸けるくらいの強敵ではあるが、

今のリオネルと仲間にとっては余裕で倒せる相手だ。


探索を続けつつ、リオネルは改めて辺りを見回す。


天井まで100m以上もある巨大洞窟のような広い空間


その天井から、日光のような高魔力の暖かな明るい光がふりそそぎ、

さわやかな風が吹き込む。


地上は大木が「うっそう」と生い茂った深い密林。

ところどころ、川に沼があり、峡谷のような岩場や荒涼な原野、砂漠も混在して見える。


やはり、複雑で不可思議な地下庭園である。


驚いた事に、この地下121階層には、

魔物以外にも、普通の獣も暮らしていた。


探索する中で、リオネルは『うさぎ』『鹿』『猪』など普通の獣も目撃したのである。


「本当に地上と、変わらないよなあ。日の出、日の入りがないだけ。水もたっぷりあるし、花も咲き、食えそうな木の実もなってる。ここで手に入らない生活物資さえ充分あれば、しばらく暮らせるんじゃあないか」


独り言をつぶやくリオネル。


そういえば、と思い出す。


フォルミーカの地下街にある『魔道具店 クピディタース』の主、

ボトヴィッド・エウレニウス。


そのボトヴィッドの相棒となったミスリル製のゴーレム、アートスを、

友情の印として贈ったのが、

フォルミーカ迷宮の深層に棲むアールヴ、イェレミアスだ。


もしもイェレミアスが、まだ生きているのなら、

このフォルミーカ迷宮のどこかに居るはずである。


もしイェレミアスさんと巡り合えたら、ぜひ話してみたいと、リオネルは思う。

ボトヴィッドから預かっている伝言もある。


また、地下140階層からは、謎めいた古代遺跡がこの地下庭園の中に混在すると、

ボトヴィッドは言っていた。


その遺跡のひとつで、ボトヴィッドは、「指輪を発見した」とも教えてくれたのだ。


……そうリオネルが巡り合い、身に着けた至宝ゼバオトの指輪を。


「この先も、探索が大いに楽しみだ」


微笑んだリオネルは、気合を入れ直し、探索を続けたのである。

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