第441話「いや、どうしもしない。俺の基本スタンスは地道に反復」

地上へ戻るバルトロメイ達ドヴェルグ10人へ、

魔獣兄弟の兄ケルベロスを護衛につけて別れると、地下81階層へ降りたリオネル。


リオネルは、残った魔獣兄弟の弟オルトロスを、ケルベロスの代役とし……

迷宮で小回りが利く火の精霊サラマンダーへ擬態させた、火竜ファイアドレイクも召喚した。


この2者と妖精ピクシーのジャンを組ませて『勢子役』『戦闘役』とし、

先行させ、地下81階層を進んで行くのだ。


……昨日は順調にゴーレムを捕獲し、地下88階層まで探索したが、

バルトロメイ達のケアの為、地下80階層にまで、逆戻りしてしまった。

予定では、地下90階層まで到達するつもりだったが。


しかし、リオネルは気にしない。


予定は未定。

困った時は、お互い様。

袖すり合うも多生の縁である。


更に、リオネルは現状のフォーメーションをチャンスだとも考える。

いつもと違う相手と組めば、新味が出て来る可能性がある。


特に、憎まれ口を叩きながら、普段は結構兄ケルベロスに頼りがちな、

弟オルトロスの「自立を促す」良い機会だとも思ったのだ。


また、ファイアドレイク、ジャンとのコンビネーション訓練を行える。


「雨降って地固まる」「禍を転じて福となす」「怪我の功名」とも言う。


リオネルは、オルトロス、ファイアドレイク、ジャンへ、

念話で指示を入れながら、地下81階層を進んで行った。


……しかし、最初はオルトロス、ファイアドレイク、ジャンの息は中々、合わなかった。

原野で戦闘訓練、偵察訓練は、結構な回数をこなしたのだが、

閉ざされた特殊な空間で、地上とは全く違う迷宮の魔物と戦うのは、

勝手がまるっきり違ったのである。


しかし、リオネルは焦らない。


オルトロス、ファイアドレイク、ジャンを励まし、

3者のペースにリオネルが合わせたりもした。


何度も何度も、何度も何度も、戦っているうちに、

徐々にオルトロス、ファイアドレイク、ジャンの息が合うようになった。


勢子役として各種ゴーレムを追い出し、ガーゴイルのみを倒す事が可能となり、

熟練度も増して行く……


ついには!

オルトロス、ファイアドレイク、ジャンの息がぴったりと合うようになったのである。


こうなると、リオネルのゴーレム捕獲作業も拍車がかかる。


地下90階層へ到達するまでに……


岩石製100体、鋼鉄製100体、青銅製200体、ミスリル製200体、銀製100体、水晶製100体、計800体もの軍団へ、

更に青銅製100体、ミスリル製100体、銀製100体、水晶製100体が加わり、


岩石製100体、鋼鉄製100体、青銅製300体、ミスリル製300体、銀製200体、

水晶製200体、計1,200体もの大軍団となったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


という事で、地下90階層へ到達したリオネルは、

『小ホール』へイン。


やはりというか、地下90階層の小ホールは無人。

誰も居ない……


軽く息を吐いたリオネル。


懐中魔導時計を見れば、時間は午後4時。

まだ早い時間かもしれないが、リオネルはキャンプの準備を始めた。


巡回役はそのまま、オルトロスとファイアドレイク、そしてジャン。


3者は息が合いすぎるくらい、合い……

接近する敵を倒したり、追い払ったりする。


と、ここでケルベロスが戻って来た。


しばし経ってから『小ホール』へ現れる。

ケルベロスの表情は満足げだ。


あるじよ。ドヴェルグどもは、無事地下20階層へ到達したぞ。奴らは、もう大丈夫だと、強気になっていた』


『おお、お疲れさん。 良くやってくれたよ』


『うむ! 主、こちらこそ感謝する。良くぞ我が弟を鍛えてくれた。あの火竜、妖精と息がぴったりではないか』


ケルベロスは、巡回中のオルトロスとファイアドレイク、ジャンのトリオと会い、

弟とだけ、話をしたようだ。


『ああ、オルトロス、ファイアドレイク、ジャンのトリオは上手く行きそうだよ』


『ふむ、主はさぞかし厳しく鍛えたのだろうな? それとも我が言ったようにガンガン、力押しで働かせたのか?』


『いや、そのどちらでもないよ』


『ふ~む。興味深い。では一体どうしたのか?』


『いや、どうしもしない。俺の基本スタンスは地道に反復。オルトロス、ファイアドレイク、ジャンも、そうしながら熟練度を上げただけだよ』


リオネルがそう言うと、ケルベロスはふっと笑う。


『ふ。基本は地道に反復。そうしながら熟練度を上げただけ……か。まあ良い。メシを食べたら、これより先、91階層以降のすり合わせをしよう』


『分かった! じゃあ3人を呼び戻すよ』


笑顔のリオネルは、オルトロス、ファイアドレイク、ジャンへ小ホールへ戻るよう、

念話で指示を入れたのである。

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