第427話「やった! モーリスさん、俺、やりましたよ! 本当に、本当に、ありがとうございます!」

妖精ピクシーのジャンと、バトル談義をした翌朝……

アクシデントは何もなく、リオネルは、地下61階層へ出発する事になった。


夜遅くまで起きて、出発も少しだけ遅らせたが……


結局……

魔法使いのマグヌス・ブラントが率いるクラン、アルゲントゥムは、地下60階層に現れなかった。


まだオーガ上位種の領域を探索し、地下60階層を目指しているのか、

リオネルの索敵……魔力感知に反応はあった。

生存しているのは間違いない。


頑張れ!

とリオネルは、心の中からエールを送る。


さてさて!

地下61階層に出現するのは、アスプ、そしてコカトリス、バジリスク、

リザードマン。

睡眠誘因、毒、麻痺、石化など、特殊攻撃を主とする、曲者どもだ。

彼らとは、地下70階層まで付き合う事となる。


リオネルは作戦を既に立ててあった。


イレギュラーな状況にならない限り、リオネルはまずその作戦に基づき、

粛々と行動すると決めている。


まずは、出発する前に、究極防御魔法『破邪霊鎧はじゃれいがい』を発動する。


この破邪霊鎧もリオネルは改良を加えていた。

ピンと来る方も居ると思う。

そう!

発動の際、まばゆく発光するのがやたら目立つのだ。


それゆえ、リオネルは発動の際、発光の照度を調整出来るよう訓練していた。

結構な難度であったが……最後には、『ゼバオトの指輪』からのアドバイスで、

試した方法が上手く行った。


発動の際、任意で発光無しから、最高レベルの照度まで調整可能となったのである。

ちなみに、効能効果が変わらない事が地味に嬉しい。


という事で、発光無しで破邪霊鎧を発動したリオネル。

睡眠誘因、毒、麻痺、石化などの特殊攻撃が全て無効。

強力なアドバンテージを得た。

後は、噛みつき、ひっかきなどの物理攻撃に気を付けるのみ、

万全の態勢だと言って良い。


更にリオネルは、ケルベロス、オルトロスを召喚。

収納の腕輪から、アスプ3体も放った。


役目は斥候役、盾役、攻撃役。

アスプ達は、同族が攻撃されないメリットを活かし、

テイムのフォロー役も兼ねている。


ちなみにジャンは、特殊攻撃に怯え、リオネルの遥か後方へ待機すると宣言した。

ここまで頑張ってくれたので、リオネルは許す事にする。


照明魔法『魔導光球』良し!

魔力感知良し!


武器防具他装備品良し!


アイテムよ~し!


さあ!

出発しよう!


リオネルは歩き出し……

その姿は、61階層へ消えて行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


地下61階層へ降りたリオネル。


ゆっくりと歩き出す。


昨夜リオネルは、シミュレーションを行っていた。

当然、英雄の迷宮で戦った記憶をたぐったのである。


懐かしいな!

モーリスさん、ミリアン、カミーユは、キャナール村で元気に幸せに暮らしているだろうか、などと、思ったりもした。


と、その時。


魔獣アスプが、同族の出現を念話で伝えて来た。


リオネルの魔力感知も、はっきりとアスプの気配を捉えた。


ケルベロス、オルトロスもすぐに気づき、連携プレーを取る。


『主、アスプ10体を発見した! 主が従える個体より大きいぞ』

『兄貴と一緒に、追い込むぜ!』


『了解!』


返事をしたリオネルは、迷宮の通路で待ち受ける。


やがて……ケルベロスの連絡通り、リオネルが捕捉した通り、

アスプ10体が現れた。


『つがい』で現れるアスプなので、5つのペアである。


アスプの体長は2mほど。

英雄の迷宮に現れた個体より、ふたまわりくらい大きい。


リオネルを威嚇し、不気味な音を立てていた。


当然、攻撃はしない。

殺してしまっては元も子もない。

行動不能にする。


リオネルは、フリーズ、威圧、大地の束縛を立て続けに使った。


アスプ達は、縛られたように身動きが出来なくなる。


リオネルは師モーリスから伝授された言霊を言い放つ。


『……いにしえより生きる魔の者どもよ! 我が言霊ことだまを聞き、我に従えっ! お前達の心を、身体を、我へ、一切渡すが良いっ!』


リオネルは心の声でそこまで詠唱し、魔力を更に込め、同じく決めの言霊を吐く。


『……支配シィータラっ!』


すると!

英雄の迷宮で起こったのと全く同じ事が繰り返された。


「戦う気」、「リオネルを殺す気」満々だったアスプどもが、


全て「がくっ!」と脱力。


戦闘態勢を解いたのだ。 


リオネルの言霊で心の根幹を縛られたのである。


ここでリオネルは『テイム』の仕上げへと入る。


『忠実なる魔の者よ、我に従え! さすれば、汝達の道は開かれん!』


対して、アスプからは迷いのない『従属』の波動が伝わって来る。


『よし! お前達は、これから俺の仲間だ。先輩も居るから、宜しく頼むぞ』


更にリオネルが呼びかけると、

アスプ達は親愛の情を示す波動も送って来た。


『テイム』は見事成功したのである。


やった!

モーリスさん、俺、やりましたよ!

本当に、本当に、ありがとうございます!


笑顔のリオネルは、この言霊を始め、数多の知識と実践を授けてくれた師、

モーリスへ、深い感謝の気持ちを告げていたのである。

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