第423話「この人も「いろいろ」あるんだな」

「いろいろ誤解があったみたいですが、俺は気にしません。腹減ったんでメシを食って良いですか」


笑顔のリオネルは、山猫亭の弁当と水筒を持ち上げ、

夕食を摂りたいとアピールした。


リオネルの主張はもっともである。

クラン、アルゲントゥムのリーダー、魔法使いのマグヌス・ブラントが頷く。


「ああ、リオネル君の言う通りだ。私達が食事の邪魔をしてしまった。申し訳ない、ゆっくりと食べてくれ」


「ありがとうございます。ご配慮頂き感謝します」


「さあ! ダーグ、行くぞ。リオネル君へ尋ねたい事があるのなら、食事の後にするが良い」


「わ、分かりました」


自分の配下が原因で起こしたトラブル。

その上、食事を邪魔するとか、マナー破りなどとんでもない。

クラン・デンテスのリーダー、戦士のダーグ・アムレアンも、了解するしかない。


「……ほら、お前ら、リオネルさんに謝罪し、引き上げるんだ」


「す、すみません!」

「ご、ごめんなさいっ!」


リオネルの素性が知られ、絡んで来たデンテスのメンバーたる男女も意気消沈。

まるで「青菜に塩」であった。


そんなやりとりを聞き、周囲で聞き耳を立て、リオネルを見つめていた冒険者達は引きあげて行く。


続いて、マグナスが……

最後にダーグと彼の仲間ふたりが引きあげた。


リオネルは、ようやく食事を開始する事が出来る。


「ふう」と軽く息を吐いたリオネルは、山猫亭の弁当を食べ始めた。

水筒から紅茶も、ひと口、ふた口飲む。


相変わらず周囲からの視線はある。

ありすぎるくらいある。


しかし、リオネルはやはりというか泰然自若。


ゆうゆうと食事を終え、落ち着き払った態度で、

明日、探索を行う地下51階層から60階層の『予習』を行う。


いつもは声に出して、自問自答するが、

今回は声に出さず、心の中で思うだけ。


ええっと、地下51階層から60階層は、さっき通ったオークの上位種の階層と、全く同じパターン、完全にオーガの帝国か。


出現するのはオーガのみ。

ノーマルタイプのオーガに、上位種は、オーガソルジャー、

オーガオフィサー、オーガカーネル、オーガジェネラル、

そして奴らの王と言われるオーガキングか……ここも勢ぞろいだ。


またも完全なパワー型脳キン軍団だな。

最上位のオーガキングは初めて戦うけど、目安としては、

オークキングの10倍くらいに換算しておけば良いか。


ヒットアンドアウェイ……魔法と格闘技を併用する、

『俺流魔法剣士』の戦い方でOKだろう。


魔法を使わない奴らだし、捕まらなければ大丈夫だ。

まあ油断は禁物だけど。

念の為、ケルベロス、オルトロスも召喚しよう。


そこまで、リオネルが考えた時。


再び、クラン・デンテスのリーダー、戦士のダーグ・アムレアンが、

仲間の3人と一緒に、リオネルへ近づいて来たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ええっと……リオネル・ロートレック君。今、話して構わないかな?」


ダーグは、ばつが悪そうな表情で言った。


「はい、構いませんよ。メシも終わりましたし」


リオネルはOKし、立ち上がると、ダーグへ一礼した。


向こうでクラン、アルゲントゥムのリーダー、

先輩格らしい魔法使いのマグヌス・ブラントに、

「筋を通して来い」と、たしなめられていたのかもしれない。


リオネルがランクAの『格上冒険者』だと知ったせいもあるのだろう。


ダーグはひたすら低姿勢、先ほどのふたりも神妙な面持ち。

もうひとり、リオネルと同じ年齢くらいの少年だけが、

「勝手に問題起こしやがって! 関係ない俺を巻き込むなよ」

と言いたげに、うんざりとした表情になっている。


「先ほどは、君に対し、大変無礼を働いた。申し訳なかった。だから改めてメンバーを紹介させて欲しい」


「そうですか、もう気にしていませんけど」


彼らとは、この場限り。

深い付き合いをする気はない。


正直、いかがなものかとも思った。


しかし、クランを率いるダーグにはリーダーとしての立場と、

こうやって謝罪させる事が、メンバーへの教育の意味もあるのだろう。


この人も「いろいろ」あるんだな。


仕方がない。

付き合うしかないか。


リオネルはやはり義理堅いのだ。


「分かりました。じゃあまずは俺から……皆さん、初めまして。俺はソヴァール王国出身のランクA冒険者リオネル・ロートレックです。魔法使いですが、剣、格闘技も使います」


再び、はきはきと名乗り、簡単な自己紹介をしたリオネル。


まずはリオネルへ絡んだ20代前半の男女があいさつ。

最初の尊大さは消えていた。

逆に、リオネルに対して、緊張しているようである。


「さ、先ほどは申し訳ありませんでした。は、初めまして、ま、魔法使いのエルサ・アルヴェーンです」


「さ、先ほどは失礼しました! は、は、初めまして! か、回復役と支援役のアンスガル・フレドホルムです」


そしてリオネルへ絡んで来なかった初対面の少年。

同じくらいの年齢だろう。 


「……初めまして、ウチのメンバーが迷惑かけてすみません。シーフのカール・ゴートゥゴードです」


3人のあいさつが終わり、ダーグは言う。


「ウチのメンバーは3人とも、ランクCになったばかりの冒険者なんだ。この迷宮で、ランクB……ランカーを目指して頑張っているんだよ」


リーダーのダーグ以下、邪念は感じられない。

そんなに悪い人達ではないらしい。


コミュ障だった自分も、最初はこうやって、冒険者達へ溶け込んで行ったっけ……


記憶をたぐったをリオネルは、言葉を選びつつも、ダーグ達と笑顔で話したのである。

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