第422話「ちょうど良いタイミングだ」

青年は一本取られたというような顔となり、


「すまん! 俺は、ダーグ。 ダーグ・アムレアン。戦士で盾役。クラン・デンテスのリーダーだ」


と笑顔で名乗った。


筋を通して貰えば何の問題もない。

魔物が跋扈する弱肉強食で無秩序な迷宮の深層だからこそ、

人間は礼儀を重んじた方が良いというのが、リオネルの考え方だ。


ダーグの笑顔に応えるが如く、リオネルも微笑む。


「ダーグ・アムレアンさんですか、初めまして。俺はソヴァール王国出身の冒険者リオネル・ロートレックです。魔法使いですが、剣、格闘技も使います」


はきはきと名乗り、簡単な自己紹介をしたリオネル。

最初に絡んで来たクラン・デンテスメンバーの男女は、

自分達のリーダーとリオネルのやりとりを聞き、ばつが悪そうな顔つきをしていた。


場の雰囲気で、ダーグは全てを認識したらしい。


「うむ、こちらこそ、初めましてだ。……どうやら、ウチのメンバーの行儀がなってなかったようだ。済まないな、ふたりに代わり、君へ謝罪しよう」


「いえいえ、そんな、分かって頂ければ」


リオネルの言葉を聞き、わだかまりはないと判断したようだ。

ダーグは、笑顔で親し気に話しかけて来る。


「ありがとう。リオネル・ロートレック君というのか。俺は25歳だが、君は?」


「18歳です」


「ほう、18歳か。俺は冒険者ギルド、ランクBのランカーだが、君は?」


「ランクAです」


「え、えええっ!? ラ、ラ、ランクA!? たった!? じゅ、18歳でかあ!?」


驚き、声がひどく大きくなったダーグ。


そんなダーグの声を聞き……

敷物の上に座り休んでいた法衣を着た魔法使いが立ち上がり、

ゆっくり歩み寄って来た。


中肉中背、年齢は50代半ば、ベテランという趣きだ。


魔法使いは、リオネルを見て微笑む。


「ダーグよ、悪いが横から失礼するぞ」


「え!? えええ!? マグナスさん」


割り込んで来た魔法使い……マグナスに驚くダーグ。

やはりふたりは顔見知りのようだ。


若きリオネルが超一流冒険者のランクA、突如乱入したマグナス。


戸惑うダーグをよそに、魔法使いマグナスはリオネルと対峙する。


「リオネル・ロートレック君。私はマグヌス・ブラント。クラン、アルゲントゥムのリーダーでランクBの魔法使いだ」


「初めまして、マグヌスさん。俺はリオネル・ロートレックです」


「ふむ、宜しくな、リオネル君。会う事が出来て大変光栄だ。私は、君が名乗るのを聞いて、おお!と思ったよ」


「あ、会う事が出来て大変光栄!? ど、どういう事ですか? マグヌスさん!」


傍らに立つダーグは、マグナスの物言いを聞き、驚いた。


対して、マグナスは頷き、


「ふむ、ダーグ。我がクランはな、先日受けた依頼遂行の為、ソヴァール王国ワレバットへ出張した。その際、リオネル君の噂を何度も何度も聞いたのだよ」


そう、はっきりと言い放ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「俺の噂をソヴァール王国でお聞きになったのですか?」


リオネルが尋ねれば、マグナスは再び頷く。


「ああ、リオネル・ロートレック君。風の属性魔法を始め、いくつもの高位魔法を使いこなし、たくましい魔獣を従える18歳の若きランクA冒険者。君のいろいろな噂を何回も聞いた」


「そうですか」


「うむ、リオネル君のふたつ名は荒くれぼっち、または疾風の弾丸。仲間とともに、難儀する数多の町村を救った事。怖ろしい魔物の大群を次々に打ち破った事。依頼を完遂して帰国する際、道すがら君が救った町や村のいくつかへ行き、そこの住民達から直接聞いたから間違いはない」


「成る程」


「住民は皆、救ってくれた君に感謝していた。中には英雄視する者も居た」


「はあ、俺は、やれる事をやっただけなんで」


「ふむ……そんな君が今、他国であるこのフォルミーカの迷宮に居る。それも単独で。荒くれぼっちのふたつ名通り、この迷宮へ修行でもしに来たのかね?」


「ええ、そんなところです」


……いつの間にか、リオネル、ダーグとクランメンバーの男女。

マグナスの周囲には、ふたつのクランメンバー全員が集まり、

リオネルを見ながら興味深そうに、しっかりと聞き耳を立てていた。


誰もが、単独で迷宮を探索するリオネルが登場し、気になっていたようである。


正直、マグナスが乱入し、突っ込みをしたのはとてもありがたいものであった。


目の前に居るダーグが尋ねて来たであろう、

いくつもの質問に対する回答をする手間が省けたからだ。


と、ここでリオネルの腹が空腹を報せるように「ぐうううう」と鳴った。


ちょうど良いタイミングだ。


「いろいろ誤解があったみたいですが、俺は気にしません。腹減ったんでメシを食って良いですか」


笑顔のリオネルは、山猫亭の弁当と水筒を持ち上げ、

夕食を摂りたいとアピールしたのである。

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