第419話「しかし、リオネルは基本的にリスクを嫌い慎重である」

オークキング以下、様々な手立てでオークどもを倒しまくったリオネル。

約2時間後、地下40階層へ到着していた。


時刻は午後3時30分少し前。

やはり階段最寄りの『小ホール』でひと息つく。


先ほど同様、ピクシーのジャンを呼び戻し、紅茶と焼き菓子で慰労してやる。


ここまで来ると、ジャンは完全に偵察任務に慣れた。

警戒心、慎重さ、観察力、適度な勇気を持つジャンは、その俊敏な高速移動能力を活かし、リオネルへ的確な『敵』の情報をもたらしてくれた。


ケルベロスとオルトロスへは大きな肉塊を与え、リオネル自身は紅茶を少しだけ飲む。


地下41階層からは、出現する魔物がガラリと変わる。

早速、自問自答の『作戦会議』が始まった。


「41階層から、50階までは、出現する魔物がまたガラリと変わる……オークどもが完全にフェードアウトし、ノーマルタイプのオーガへ切り替わるの……か。オーガの上位種は更に深い階層だな」


補足しよう。

オーガは、ゴブリン、オーク同様に『妖精の成れの果て』といわれる魔物である。


大きな猿の如く、がっちりした筋肉質の体躯で、身長は5mを超す個体も居る。

魔法は使えないが、強烈なパワーを誇り、特に殴打攻撃は得意だ。

残忍、狂暴な性格で、人間や家畜を捕食する怖ろしい敵である。


リオネルは、更に地図と付帯説明を読み込む。


「え~と、オーガ以外に出現するのは……ゴーレムかあ。上手く捕獲して、配下に加えたいな」


リオネルは、岩石製、鋼鉄製各10体のゴーレムを英雄の迷宮で無力化して捕獲。

『真理』の文字を刻み直し、自分の配下として使っている。


ゴーレムは、敵との戦闘を担う戦士としては勿論、

リオネルは、様々な作業が可能なゴーレム用のアタッチメントも購入し、汎用性が高い。

疲れを知らない疑似生命体の彼らは、使い勝手の良い存在なのだ。


そもそも、迷宮で冒険者を襲うゴーレムは、

いつ、どこの、どのような術者が『真理』の文字を刻んで放ったのか一切が不明である。


はっきりしているのは、これらのゴーレムが、

迷宮へ入った冒険者を『侵入者』『敵』とみなし、害する事。


なので、リオネルはこれらのゴーレムを行動不能にし、既存の文字を削り、

自分の魔法文字を刻んで、物言わぬ自分の忠実な配下とする事をためらわないのだ。


リオネルが、『魔道具店 クピディタース』店主ボトヴィッド所有の、

行動不能になったゴーレム……アートス復活に際し、

「慎重に作業した」事をおぼえているだろうか……


アートスは、迷宮に現れるゴーレムとは違う。

自分の魔法で、アートスを物言わぬしもべになど出来ない。


アールヴの魔法使いイェレミアスが、世話になった友情のあかしとして、

ボトヴィッドへ贈ったアートスを、以前と同じように復活させたい!


リオネルはそう考えたのだ。


……『魔道具店 クピディタース』の開店時間は、午前11時からと聞いている。


今日ボトヴィッドは、復活したアートスと仲良く店を開け、

楽しく話し、店番をしているはずだ。


そう思うと、リオネルの心は「ほのぼの」と温かくなったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


午後4時……

探索再開。


リオネルは、地下41階層へ足を踏み入れる。

この41階層から、更に冒険者の数は減る。


オーガやゴーレムのような際立ったパワー系と戦う為には、

それ以上の腕っぷしを誇る強靭な戦士、剣聖レベルに近い剣士、

そして高位魔法を使いこなす魔法使い、強力な魔法を使う回復役がメンバーに居なければならない。

そこまでの一流メンバーが揃ったクランは中々ないのだ。


しかし、リオネルは攻防回復支援、全ての能力が超一流となった。

オーガやゴーレムも、軽く一蹴出来るだろう。


しかし、リオネルは基本的にリスクを嫌い慎重である。


先ほどのフロアからケルベロス、オルトロスの『魔獣兄弟』を召喚。

偵察役のジャンと合わせ、勢子役、盾役、戦闘役として先行させている。


そして戦法も変える。


まず遠距離攻撃を試し、接近戦は本来の、

「一撃離脱」【ヒットアンドアウェイ】に徹する事に決めた。


オーガとあまり戦闘経験のないリオネルは、

何度か戦って、実戦経験を積む事にしたのだ。


ケルベロス、オルトロスから、

『ミノタウロスやマンティコアに圧勝した主なら、絶対に大丈夫だ』

『ノーマルタイプのオーガなど、歯牙にもかけない』等々散々言われたが、

リオネルはいきなり格闘技でぼこる!とか、「いけいけ」にはならなかった。


つまらないと言われても、安全策で、まず遠距離から魔法でオーガを撃つ。


風、岩、水、火の『弾』を普通に撃つ。

次に『フリーズハイ』『威圧』『大地の束縛』を使い、敵を行動不能にし、撃つ。


やはりというか、リオネルの用心は杞憂に終わる。


オーク同様、リオネルの攻撃魔法は、行動不能になったオーガをあっさりと倒したのである。


また先ほどのオークへの攻撃同様、直線、正面だけでなく、

放った魔法の軌道を自在に変えて、護衛に守られた最後方の敵を撃ち抜く事にも成功した。

当然、威力の強弱も試し、魔力の調整だけでなく、『貫通撃』を加えてみたりもした。


全てが上手く行ったのを充分に確かめてから、リオネルは接近戦に。


オーガに絶対捕まらないよう注意しながら、剣を振るい、シールドバッシュ。

パンチを繰り出し、蹴りを入れ……

まさに蝶のように舞い、蜂のように刺したのである。

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