第403話「で、リオネル。お前が見て、買いたいと思う商品はあるかね?」

「でも、この杖、本当に金貨5枚で良いんですか?」


リオネルは微笑み、尋ねた。


「ふん! 分かっていたか? その杖の価値をよ」


「はい、この杖は……店だけでなく、博物館も含め、俺が見た魔法杖の中でも、ベスト3に入るものです」


「ほう! 大絶賛じゃねえか。なら、どんな杖か、言ってみな」


「はい、魔法杖の材質である、この木は見た事がないので、俺の故国とは違うどこか異国の樹木だと思います。多分数百年前に作られた古い魔法杖ですが、劣化しない魔法で耐久性が著しく強化されていますよ」


「ふむ」


「性能面でまず驚くのは、蓄積可能な魔力量のキャパです。とんでもなく多くて、通常の魔法杖の100倍以上、また記憶させて使用可能な魔法も数百種類以上で、奥が見えない」


「………………」


「そして一番凄いのは、魔力を補充しなくとも、杖自身が自動的に大気中のマナを取り込み、魔力を蓄積出来る事です」


「……さすがだな、小僧! 全てにおいて正解だ。これはな、約300年前、アールヴの国イエーラの魔導樹で造られた魔法杖さ」


「そうなんですか」


「ああ、お前は、素晴らしい鑑定眼を持っとる! やっぱりとんでもない奴だよ」


「いえ」


「ふむ、良いぜ。お前みたいな上客なら、俺はこの杖を金貨5枚で売ってやろう」


店主は、にやりと笑った。


「ふっ、いきなり面白くなって来やがった! 呪われた品を見せる前に、お前の名を教えてくれ。いや、礼儀上、俺から名乗るべきだな」


ふうと息を吐いた店主は、


「俺はボトヴィッド・エウレニウス。魔道具店 クピディタースの店長で元冒険者の魔法使いだよ」


店主……ボトヴィッドのあいさつを受け、リオネルは微笑み、一礼する。


「改めまして! ソヴァール王国出身の冒険者でリオネル・ロートレックと申します。おっしゃる通り、俺もボトヴィッドさんと同じく魔法使いです。何卒宜しくお願い致します」


「ふん! ソヴァール王国のリオネル・ロートレックというのか! こっちこそ、宜しくな」


ボトヴィッドはそう言うと、じろじろと遠慮くなくリオネルを見る。


「って言うか。改めて見てもとんでもねえな、お前」


「あはは、とんでもないですか」


「ああ、お前が左手首にしているその腕輪。凄い魔力を感じるぜ。この杖同様、国宝級の魔道具だ」


魔道具店の店主だけあって、ボトヴィッドは相当の目利きだ。


リオネルがアンセルムから譲って貰った腕輪の価値も、見ただけですぐ見抜いた。


頷いたリオネルは、


「はい、この腕輪は、故郷を出て来る際、お世話になった人から、頂きました」


「ほう! そうか! それとさっきから気になっていたが、お前のその肩。姿は見えないが、何かが居るな」


「……分かりますか?」


「ああ、はっきり分かるよ。姿は見えないが、気配を感じる……妖精か、何かか?」


ジャンの存在を認識したボトヴィッドは、魔法使いとしても上級のようだ。


「はい、そんなところです」


ジャンの素性等明らかにはしなかったが、リオネルは肯定し、微笑んだのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


カウンターの奥が収納スペースとなっており、そこに呪われた商品が仕舞ってあった。


両開きの扉を開けると、仕切り棚があり、そこにいくつか商品が並んでいた。


置かれた商品はそう多くはない。

殆どが、魔法が付呪エンチャントされた指輪である。

但し、材質は様々。

金銀銅鉄、真鍮。

ミスリル製もある。


ボトヴィッドは、淡々と言う。


「まあ、呪われた商品を買い取るなんて物好きな店は世界広しといえど、ウチくらいだ」


「成る程」


「まあ、買い取る時は安く買わせて貰ってる。解呪しないと売れないし、その分手間がかかるからな」


「ですね」


「まあ、見ただけで呪われるとか、そんなヤバくて凶悪な商品はないぞ。というか、そんなものよほどの術者じゃないと、迷宮外には持ち出せねえ。」


「まあ、そうでしょうね」


「で、リオネル。お前が見て、買いたいと思う商品はあるかね?」


ボトヴィッドが尋ねると、


「……拝見します」


リオネルは収納スペースに一歩、二歩と近づいた。


「おおっと、悪いが触らんでくれよ。本当にヤバイ奴はないが、体力、魔力吸収、麻痺とかの呪いがかかっているからな」


「了解です」


「俺もこいつらを触る時は、強力な魔導破邪手袋を使うんだ。絶対に素手では触れねえよ」


リオネルは、究極の防御魔法『破邪霊鎧はじゃれいがい』を習得している。

その効果で、呪いは一切無効となっている。

よほど強力な呪いでなければ、ダメージは受けないはずだ。


しかし、リオネルはボトヴィッドの指示に従った。


少し離れた場所から、観察する。


呪われた商品を凝視するリオネルの目に、

あるひとつの指輪が目に留まったのである。

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