第388話「いえ、18歳になってから冒険者になったので、丸1年経ってないっす」

「まいどっ! ありがとうございまあす!」


リオネルの決定を聞いたブレンダ。


満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに声を張り上げた。


「リオネルさん、部屋は、この1号室でOK?」


「ええ、この部屋で構いません」


「了解! 改めて確認だけど、今夜から、3泊だよね」


「はい、3泊でお願いします」


「夕食は、すぐ食べられるよ。1階が、食堂になってるんだ。一緒に降りる?」


「ええ、降ります。腹減ったんで、すぐメシにします」


「そう! じゃあ、一緒に降りよ!」


「はい」


「鍵かけとくね」


かちゃりと、1号室の鍵をかけたブレンダ。


という事で、再びブレンダにいざなわれ、リオネルは1階へ。


ブレンダの言う通り、正面カウンター、向かって左奥が食堂となっていた。

既にふたりほど、丸テーブルの席に座り、食事を始めている。

客のふたりは、それぞれ商人風の中年男であった。


丸テーブルは全部で5つほど……

ブレンダは、空いている席に、リオネルを座らせた。 


「すぐ、料理を持って来るね!」


リオネルへ微笑みかけ、ブレンダは厨房へ。


……やがて、ブレンダにより料理が運ばれて来る。


ミートボール、サーモンのムニエル、パン、ポタージュスープ、

そして野菜サラダだ。


どの料理も大盛りである。


「ウチの料理はね、基本的にアクィラ王国料理だよ! パンはお代わり自由だから、いっぱい食べて!」


成る程!


国境の町、レ・ワイズで摂った夕食と同じメニューがあるな。

見た目は同じだけど、味が違うとか?


「何かあったら、呼んでね! 食後の紅茶も付いてるよ!」


「ありがとうございます」


ブレンダは、礼を言うリオネルへにっこり笑い、再び厨房へ去って行った。


さあて、食べようか!


リオネルは、料理に向かい一礼し、食事を始める。


旺盛な食欲で、パンをかじりながら、料理を次々と平らげて行く……

使っている肉が違うのと、味付けも少し違う。


リオネルは、ブレンダを呼んで、パンをお代わり。

更に料理を食べ続けた。


そんなこんなで、リオネルは料理を完食。


「ありがとうございます。美味しかったです」と告げ、

皿を下げに来たブレンダへ、食後の紅茶を頼む。


時計を見れば、時刻は午後7時過ぎ。

眠るのは早すぎるし、どうしようかと、迷う。


少し考えるリオネル。


ブレンダは、すぐ紅茶を運んで来た。


ふたり居た客は、既に食事を終え、部屋に引き上げている。


食堂は、リオネルとブレンダのふたりのみ。


だからなのか、今日の仕事はもう終わり! というような雰囲気で、

ブレンダは、リオネルの座っている丸テーブル席の隣に座った。


「うふふ、完食してくれてありがと! 母さんも喜んでるわ!」


「はい、ブレンダさん。とても美味しかったから、このメニュー、自分でも作ってみたいですよ」


「え? リオネルさん、自分でもって、料理するの?」


リオネルが言えば、ブレンダは少し驚いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


驚いたブレンダに対し、リオネルは、


「はい、俺、ソヴァール王国の王都で、宿屋の手伝いをしてましたから、その時、もろもろ仕事をして、料理も結構やりました」


そう、しれっと答えた。


「え? えええええ!? ラ、ランクAの冒険者なのに宿屋の手伝い!?」


「はい、冒険者になって間もない頃、お世話になっていた宿屋で」


「え!? 冒険者になって間もない頃って!! な、な、何それ!? リ、リオネルさんって、じゅ、18歳だよね?」


「はい、そうっす、ブレンダさん」


「ねえ、貴方って、冒険者になってどれくらい? 少なくとも5年以上は経ってるよね? い、いや! 確か冒険者になれるのは15歳以上だから3年間?」


「いえ、18歳になってから冒険者になったので、丸1年経ってないっす」


リオネルが告げた衝撃のカミングアウト。

冒険者デビューして1年未満で、既にランクA!!


「ええええええ!!?? い、い、1年経ってないのお!!!!」


「はい、経ってないっす」


「ええええええ!!??」


「もう! どうしたんだい、ブレンダ!」


驚いて、大声を連発するブレンダ。


そんな愛娘の様子を見に、何事かと、母ダニエラが、厨房を出てやって来た。


ダニエラへ向かい、ブレンダは声を張り上げる。


「か、か、母さん!! ど、どうもこうもないの!! リ、リオネルさんったら!! ぼ、冒険者になって1年未満なのに!! も、もうランクAなのよ!! こんな人、どこにも居ないわっ!!」


「ひ、ひえええっっっ!!!!」


そんな驚愕母娘に対し、リオネルは、


「あの、ダニエラさん。頂いた料理が美味しかったので、申し訳ありませんが、作り方を教えて頂けませんか?」


そう、再び、しれっと頼んでいたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る