第326話「お父様、朗報でございます」
あまりにもリアルな現実に直面し、反動が大きすぎて逆効果な場合もある。
しかし、相手に現実やロジック、効能効果を理解させる上で、
「論より証拠」ということわざを、リオネルはモットーとしているし、
ジェロームも信じている。
そのジェロームの提案を受け入れ、心労で倒れたエリーゼの父、
アロイス・カントルーブ男爵を回復魔法で治癒する事になったリオネル。
若輩の身で領主代行に就任。
気苦労と疲労で心身が疲弊したエリーゼ、高齢で持病持ちの家令バンジャマンで、
「論より証拠」のテストを試みる。
ジェロームが、そして多くの村民達が見守る中……
リオネルが行使した回復魔法『全快』を受け、
エリーゼ、バンジャマンは、みるみるうちに心身が活力に満たされた。
身体が著しく軽やかに、気分も明るくなり、ふたりは驚嘆する。
「ええええ!!?? こ、これは!!??」
「す、凄い魔法ですぞ!! エリーゼお嬢様!! これならばお父上様も!!」
大いに感嘆するふたり以外にも、持病持ちや負傷した村民の治癒を行ったリオネル。
この魔法ならば、父にも!
と、綺麗な碧眼をキラキラ輝かせるエリーゼに促され、
ジェロームとともに、早速、カントルーブ男爵家の城館へと向かう事となったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
という事で、レサン村を出発した一行。
念の為、ゴーレム10体は引き続き、警備にあたるから、村民達も安心であった。
エリーゼ、バンジャマンは馬に乗り、リオネルとジェロームは乗って来た馬車である。
ちなみに馬車には、長年村を守り、今回のゴブリンとの戦いで奮闘した自警団団長と副団長も同乗していた。
……レサン村から城館までは馬車で5分ほどである。
あっという間に到着。
馬上のエリーゼは、大きく声を張り上げる。
「私よお!! エリーゼよお!! 門を開けて頂戴!! 朗報を伝えに来たわあ!!」
カントルーブ男爵家の城館はそう大きくはない。
50人居た従士もゴブリンとの戦いで40人以上が死傷していた。
残った従士長以下戦える10人が、城館を必死に守っていた。
その為、エリーゼは歴戦の勇士であった老齢の家令バンジャマンを伴い、
レサン村へ赴いていたのだ。
固く閉められていた城館の正門は、エリーゼの姿と声を確認した門番により、
すぐに開けられる。
「エリーゼお嬢様のご帰還ですう!!!!」
門番の大声ですっとんで来た従士長は、
エリーゼとバンジャマンの変貌にびっくりした。
疲れていた様子はみじんもなく、血色が良く、身体には力がみなぎり、
はつらつとしていたからだ。
従士長の先導で、一行は病床にあるアロイス・カントルーブ男爵の下へ。
アロイスは現在48歳。
愛娘に良く似たきりりとした風貌をした金髪碧眼の美男子である。
しかし……
妻と嫡男を病で亡くしたアロイスは、愛する者を失った傷心に加え、
2年にわたるゴブリンとの戦いで疲弊し、心労で倒れてしまったのだ。
それゆえ、今はもう愛娘のエリーゼだけが頼りであった。
憔悴しきって、ベッドに伏せるアロイスを見て、エリーゼは感極まる。
だが、病人に大声は良くない。
冷静に努め、声を抑え、父へゆっくりと話しかける。
「……お父様」
エリーゼの声に、アロイスはすぐ反応し、閉じていた目を開ける。
そこには、優しく微笑む愛娘の顔があった。
「……お、おお、エリーゼ……」
「心をやすらかにし、落ち着いてお聞きくださいませ」
「お、おお、どうした?」
問いかける父の声。
エリーゼは、短くだが元気よく返事をする。
「はい!」
そして、大きく息を吐き、ゆっくりと言い放つ。
「……お父様、朗報でございます。冒険者リオネル・ロートレック殿、ジェローム・アルナルディ殿のお陰で、この周辺に
血色が良く、優しく微笑むエリーゼの口からは、アロイスにとって、信じられない言葉が告げられた。
「な、な、なんと!!?? そ、そ、それは!!?? ほ、ほ、ほ、本当か!!??」
大いに驚くアロイス。
つい「事実なのか?」と問いかけた。
対して、エリーゼはきっぱりと言い切る。
「はい! 本当です! リオネル殿が数多のゴブリンを掃討した後、追撃。巣穴を突き止め、使い魔により追い出し、潜んでいた残党も全て倒したそうです。倒した証拠の死骸は巣穴の前に積み上げているそうですわ」
「お、おお! そ、そうか! ……それにしてもエリーゼ、そなた何故、そのように……」
病床のアロイスも、愛娘の変貌に気が付いたようだ。
「はい! リオネル殿の回復魔法のお陰ですわ。私とともに、バンジャマンもすっかりと元気になりました」
「そ、そうか! 良かった! 良かった!」
「はい! 私達が実験台となりました。お父様もお元気にしてさしあげます」
エリーゼはそう言うと、リオネルとジェロームへ向き直る。
「リオネル殿……いえ、リオネル様。何卒宜しくお願い致します」
「了解致しました、エリーゼ様」
おごそかに言い放つリオネル。
傍らでは、ジェロームが心の底から嬉しそうに晴れやかな笑顔を見せている。
そして……
アロイスが伏す寝室は、
リオネルが放った回復魔法『全快』の神々しい魔力で満ちたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます