第294話「先日の自分と全く同じ」
「でも! ここの人達は俺達が来たのを凄く喜んでくれた! 俺は必要とされているんだ!」
きっぱりと言い切ったジェロームの目は、少し涙ぐんでいた。
この前の話もそうだ。
ジェロームは『ある理由』でハブられていたという。
彼の心の中に何かがあるのだろう。
念話と読心のスキルを使えば、その理由を知る事は
当然、リオネルはそんな事はしない。
そんなジェロームの心を内をおもんばかり、リオネルは言う。
「何、言ってる。この村の人達だけじゃない。まず俺がジェロームを必要としている」
「あ、ああ! そうだったな! 灯台下暗しだ」
「そうさ! じゃあ、村長さん達が来る前に打ち合わせをしておこう」
「打合せ?」
「ああ、物資の引き渡しで、村長さん以下の心は少しだけ開かれた。だが、オークども500体に対し、俺とジェロームたったふたりでは戦力的に不安なんだ。その不安が不満として俺達へ向けられたんだ」
「な、成る程! それでどうする?」
「ジェロームの時と一緒さ」
「俺の時と?」
「ああ、この依頼も含め、ギルドから提示されたどの依頼を受諾するのか検討していた時、ジェロームは懐疑的だっただろ?」
「まあ、なあ……俺はリオネルの配下の事を全然知らなかったし」
「そう、村長さん達も同じだ。俺やジェロームの強さ、それと俺の従士達の事をさ、知らないんだ。だから不安なんだ」
「そうか! あの時の俺のように教えるわけか! でも犬やゴーレムはともかく、あの魔獣アスプだっけ……びっくりするぞ、あんな蛇の魔物を見せたら」
「ああ、分かってるよ、ジェローム。だからとりあえず犬とゴーレム2体だけを見せるよ。同時にその他という言い方で数も伝えるから、村長さん達の不安がだいぶ解消されるはずだ」
「成る程。そうだな。俺達以外に員数が居ると知れば村長さん達は心強くなる」
「ああ! 俺は何回かこういう仕事をやっているから分かる。最初村民の人達は不安なんだ。それと彼らのモチベーションが下がらないようにするのが凄く大事だ。その2点に注意しながら、互いの信頼関係を築いて行くんだ」
「うん、リオネルの言う事は、いちいち
「よし! ジェロームが納得したところで、事前に立てた作戦の確認をしておこう。ギルドから貰った砦の図面と資料を見ながらな」
「ああ、そうだな、リオネル。もう少ししたら、村長さん達が来るだろうから」
頷き合ったリオネルとジェロームは、
砦の図面と資料を見ながら、打合せを始めたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルとジェロームが宿舎へ入ってから約束通り約2時間後……
村長と助役がやって来た。
他に屈強な男性村民がふたり居る。
村長によれば、村の自警団の団長、副団長だという。
村長は、リオネルとジェロームの夕食用にと料理と飲み物を持って来ていた。
「一緒に食べながら、打合せをしよう」との事。
しかしリオネルとジェロームは村長達を、一旦宿舎の外へ連れ出した……
対して、?マークをいっぱい飛ばし、戸惑う村長達4人。
リオネルは野外に出た趣旨を説明する。
「打合せを始める前に、今回、オークどもが巣食う砦を攻める際、俺達が一緒に戦う仲間を紹介します」
そう言っても、村長達は半信半疑という雰囲気だ。
リオネルは心の中で召喚の言霊を念じる。
『
即座に、召喚魔法が発動。
リオネルの少し前の地に輝く『魔法陣』が浮かび上がった。
そして間を置かず、魔法陣の中から、一体の灰色狼風の巨大な犬が飛び出して来る。
体長は軽く2m、体高は1mを超えていた。
「うおん!」
「うひゃあ!? な、な、何ですかあ、リオネルさあん! お、お、狼ぃぃ!!??」
さすがに驚く村長以下4人。
「まあまあ、落ち着いてください、皆さん。大丈夫ですよ、俺の使い魔の大型犬ケルです! 俺、ジェロームと一緒にオークどもと戦います」
リオネルの説明を聞き、思わずジェロームの陰に隠れる村長達。
恐る恐るケルベロスを見る。
「お、大型犬!? ケル!? で、でっかい、お、お、狼にしか見えないが……」
「いえ、犬です! 凄く強いですけれど、あくまでも犬ですよ!」
きっぱり言い切るリオネル。
「あと、ゴーレムを見せますね」
「ゴーレム?」
「はい!」
力強く返事をしたリオネルは、「搬出」と心の中で唱える。
「ま!」
「ま!」
今度は村長達の目の前に2体のゴーレムが現れた。
1体は鋼鉄製、もう1体は岩石製。
両方とも2mの体躯をした堂々たるゴーレムである。
「ひゃあああああ!! ゴ!!?? ゴーレムぅぅ!!?? す、凄いっ!!」
「ええ、ゴーレムです。岩石製、鋼鉄製各10体、都合20体居ます。こちらは、一度に全20体を展開する事が可能ですよ」
相変わらず村長達は、ジェロームの陰に隠れ、驚いていた。
その様子は……先日の自分と全く同じだった。
この後、村長達はリオネルとジェロームに対し、
持っていた戦力面の不安が解消され、大いに安堵するだろう。
オーク討伐の打合せも、前向きとなるに違いない。
おずおずとケルベロス、ゴーレムを見る村長達をかばいながら、
ジェロームは、大きく頷いていたのである。
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