第290話「騎士の一個小隊とほぼ同じだろ?」

提示された依頼の、あまりの高難度さ。


乗り気になれないジェロームに対し、リオネルは淡々と言い、柔らかく微笑む。


「それにジェロームは、俺が告げた事をすっかり忘れているよ」


「え? 俺が? リオネルの言った事を忘れているだと?」


「ああ、すっかり忘れているよ」


「何を忘れているというんだ?」


不毛な押し問答になりそうな気配である。

リオネルは苦笑し、提案する。


「論より証拠だ。説明もするから、地下室へ行こう」


「あ、ああ……分かった」


という事で、ふたりは自宅の地下室へ……

地下へ降りる際、玄関前で『番』をしていた魔獣ケルベロスを連れて行く。


そして、地下室へ入ったリオネルとジェローム。


以前置いてあった、モーリス達の荷物は、

引っ越しをする際、キャナール村へ持っていったり、処分したりして今はなかった。


リオネルの荷物も大部分は、収納の腕輪の中。

それゆえ、荷物が殆ど置いていない地下室は殺風景で広い。


リオネルは魔導灯を点けた。

魔力特有の淡く神秘的な光が地下室を照らす。


準備は整った。


説明が待ちきれないジェロームは、リオネルが口を開く前、尋ねて来る。


「リオネル、狼犬おおかみいぬも連れて来て、一体ここで、何を説明するというんだ」


対して、


「まあ、焦るな、ジェローム」


とリオネルは言い、話を続ける。


「ジェローム、以前俺はこう言った。『ともに戦う仲間を、ジェロームへ紹介するよ』ってな。


そうしたら、ジェロームは、『え? リオネル、仲間を紹介って? あのでっかい|狼犬だけじゃないのか?』 と尋ねて来た。


……だから俺は、『ああ、あの犬だけじゃない。まだまだ居るよ』と答えたら、『ま、まだまだ居る? そ、そうか! ま、まあ! 宜しく頼む!』って、ジェロームは、しっかりと認識したんだぞ」


ここまでリオネルに説明されたら、ジェロームの記憶は鮮明に甦って来る。


「あ、ああ! 確かに! リオネル! お前はそう言った。俺もそう答えた! す、すまん! 俺、依頼の高難度さにびびって、すっかり忘れていたよ!」


ジェロームは両手を合わせて謝ると、目の前に居るケルベロスをじっと見つめる。


「そ、それで、リオネル! この犬以外の仲間は!」


「ああ、今から呼ぶ。全部じゃないけどな」


「全部じゃない?」


「ああ、何故なら全部呼ぶと、この地下室がいっぱいになってしまうからな。ちなみにこの犬……ケルも現在の姿は擬態だし、大きさも、もっと大きくなれる」


「ぎ、擬態だと! お、驚いた! そ、そ、そうなんだ……そ、それに! も、もっと、でっかくなるのか?」


「ああ、なるよ」


リオネルに言われ、ジェロームはしげしげと、再び眺める。

灰色狼風に擬態したケルベロスを。

そのケルベロスの体長は軽く2m、体高は1mを超えていた


「こ、こいつ!! ほ、本当は!! どんな姿なんだ!?」


「あはは、今は内緒だ! いずれ教える。じゃあ、呼ぶぞ!」


いよいよ!

リオネルの『仲間』と相まみえる。


ジェロームは己へ気合を入れ、身構えたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


まずリオネルが呼ぶのは魔獣アスプである。


アスプは普段、空間魔法が付呪エンチャントされた、

収納の腕輪内へ入っている。


リオネルが心の中で「搬出」と唱えると、


まるで召喚魔法で呼び出されたかのように、ジェロームの目の前に、

2体のアスプが現れた。


「ぎゃあああああああああ!!!!」


絶叫するジェローム。


念の為、アスプについて補足しておこう。

アスプは体長は1m50cmほど。

蛇のコブラに良く似た魔物であり、動きが非常に敏捷。

飛ぶように移動する。


猛毒の息を吐き、その視線は睡眠を誘因させるという。


また、つねにつがいで現れ、一体が倒されると、

敵を討とうと執拗に襲うと言われている。


という事で、リオネルは従えているアスプ6体のうち、

つがいのひと組を呼び出したのである。


「お、おい!! リオネル!! な、仲間って!!?? ま、魔物じゃないか!!」


「ああ、そうだ。しかしこの犬も魔物だぞ」


「そ、それは! た、確かにそうだが! その犬は使い魔……だ。魔物だけど、リオネルが召喚したんだから、人間には忠実だよな?」


「ああ、でもこの魔獣アスプも俺には忠実だよ。英雄の迷宮でテイムしたんだ」


「テイムぅぅ!!?? こ、こいつらをか!!」


補足しよう。

テイムとは、本来「手懐てなづける、飼い慣らす」の意味である。

つまりこの世界でいうテイムとは、敵である魔物、魔獣などを手懐けて、

配下、もしくはペットにする事だ。


「ああ、動きは凄く俊敏。睡眠誘因と猛毒で敵を倒してくれる。このアスプが6体、俺とジェロームを援護し、守ってくれる。剣となり、盾にもなるんだ」


「ろ、ろ、6体も!!??」


「うん! 一度に6体の展開も可能さ」


「う、うお!!?? い、い、一度に6体が展開!!??」 


「ああ、俺の仲間は全て、一騎当千の猛者達だ。さあ次に行くぞ、ジェローム」


「え!? えええ、次!!?? ま、まだ居るのか!!??」


「ああ!」


力強く返事をしたリオネルは、再び「搬出」と心の中で唱える。


「ま!」

「ま!」


今度はジェロームの目の前に2体のゴーレムが現れた。

1体は鋼鉄製、もう1体は岩石製。

両方とも2mの体躯をしたどうどうたるゴーレムである。


「ゴ!!?? ゴーレムぅぅ!!??」


「ああ、ゴーレムだ。岩石製、鋼鉄製各10体、都合20体居る。こちらもアスプ同様、一度に展開する事が可能だよ」


「リ、リオネルぅぅ!!!」


「俺とジェロームを入れて、計29名。騎士の一個小隊とほぼ同じだろ?」


驚愕するジェロームに対し、リオネルはしれっと言い、にっこりと笑ったのである。

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