第261話「4人一緒に過ごすワレバットの街、最後の夜」

パトリス・アンクタンはキャナール村の『管理官』『司祭』『村長』

モーリス・バザンは同村の『副管理官』『副司祭』『副村長』

双方の役職就任が確定した。


これで、モーリスの望みは叶った。


司祭で武闘僧モンクという僧籍を捨ててまで……

孤児であったミリアンとカミーユを引き取り、冒険者として一人前にし、

己自身の力で、人生を歩んでいけるようにする。


そして、親友パトリスと切磋琢磨し、互いに支え合う!


というふたつの望みだ。


共にキャナール村で歩む人生を選択した、モーリス、パトリス。

ふたりは直接、魔法鳩便で書面をやりとりし、就任の段取りを組み、

粛々と移住、各役職就任への準備をじっくりと進めて行った。


モーリスが設立した『モーリス商会』の運営も、これまでに救援支援した、

いくつかの町村と正式な物資運搬&支援計画を作って、軌道に乗った。


移住先のキャナール村には『3人の本宅』以外に、

『モーリス商会の社屋』が置かれる『空き家』も確保されたのである。


モーリスによれば、農民が本業の村民達の中で、

商人兼務の希望者、店舗の店員兼務の希望者が居れば、

面接。

本気度と適性を審査の上、積極的に採用するという。

村の雇用の大きな貢献になるに違いない。


4人はワレバットの街でいろいろ、キャナール村の支援物資として、

食料、資材等々を大量に買い込み、馬車へ積み、自宅へ持ち帰る事にした。


リオネルの提案で、それらの購入費用は、

全員へ支払われる分としてモーリスが預かり、管理していた、

『共用金』でまかなわれた。


これまで様々な依頼を完遂した報奨金に加え、

そして先日の英雄の迷宮公式地図確認に、

ブレーズ、ゴーチェのワレバットの街へ帰還までの同行、護衛料等々が、

てられたのである。


そしてリオネルは、3人と別れた後、自分がフォルミーカ迷宮へ旅立つ時の為……

ついでとばかりに、一緒に自分用の武器防具、資材、食料、ポーション、薬品、

樽に入った水、酒等も大量に買い込んだ。


旅立つ時は、収納の魔法腕輪へ一切合切入れるつもりだ。


収納の魔法腕輪には、既にたくさんのモノが入っている。

しかし腕輪は、王都クラスの街が入るくらいキャパがある。

まだまだ全然余裕である。


また、装着していると歩く度に体力が回復する。

物理、魔法のダメージを軽減し、麻痺や毒もある程度防ぐ。

経験値も微増する。

そんな回復の指輪も、地味にリオネルの旅を助けてくれている。


「凄くお世話になった王都の宿屋のご主人アンセルムさん。頂いた、ふたつの超レアな魔道具には本当に助けられている。本当にありがとうございます! アンセルムさんは、お元気かなあ」


とリオネルは感謝し、思いをせる。


そして、また新たな『出会いと別れ』があるのだ……


更にリオネルは考えた末……そうだ! と決意。


モーリス、ミリアン、カミーユ、

3人の旅立ちへのはなむけ、『餞別せんべつ』として、

自分の所持金から、金貨1,000枚1000万円を送る事にした。


莫大な金額に驚き、3人は全員が固辞した。


だが、キャナール村の為にも役立てて欲しいと、

リオネルに懇願され、何度も断ったが、ようやく受け取ったのである。


そして、モーリス、ミリアン、カミーユは、

リオネルとともに冒険者ギルド総本部へ赴き……


ローランドを始め、ブレーズ、ゴーチェ、

秘書室長ソランジュ、ブレーズ専属秘書クローディーヌ、

担当者である業務部のエステル、不動産部のマルセルへ、

『お別れの挨拶』をして回った。


モーリス達3人は、今後も冒険者として、商人として、

キャナール村とワレバット間を行き来するから、顔を合わせるが、

会う頻度は著しく落ちる。


そう考えると、各自、思うものがあるようだ。


ちなみに、エステルは以前、ソランジュが言った通り、

秘書室への異動が内定。

業務部としては、リオネル達4人が『最後の担当』となるらしい。


そんなこんなでモーリスとパトリスへ辞令が出て、2か月後、

明日の朝に出発という日の夜……


ワレバットの『自宅』で、

リオネルと、モーリス、ミリアン、カミーユの『お別れ会』が開かれていた。

「互いの今後の健闘を祈り、いずれ再会を!」と、願う会でもある。


モーリス、ミリアン、カミーユ3人の荷造りは既に済み、

何となく、邸内はがらんとして、広く感じる。


4人は楽しく飲み食い、歌い、たくさんたくさん喋っていた。

暗くしていると、別れの辛さに気が滅入って来るからだ。


うたげが、ちょっと落ち着いたところで、


「いよいよですね……3人がキャナール村へ旅立つのは」


様々な事があった……


リオネルとモーリス達3人が出会った時から、ここまで、

懐かしい思い出が走馬灯のように甦る。


リオネルがしみじみ言うと、モーリスも感慨深く言う。


「うむ! 私達が見送りされる側になるとはなあ……てっきり、フォルミーカ迷宮へ旅立つリオ君を私達が、ワレバットの街から見送ると思っていたが……」


ミリアンとカミーユも、


「リオさんと、私達3人は、ず~っと一緒に旅をして来たよね! いろいろと、しんどかったけど、楽しい事も嬉しい事もいっぱいあった!」


「そうっす! いつも4人で力を合わせて旅をしたから、辛い事も乗り越え、危険も切り抜ける事が出来たっす! そして師匠とリオさんのおかげで、姉さんも俺も一人前になれたっす!」


そんな3人に対し、リオネルは、決めていた事があり、既に告げていた。


「改めて言いますが、俺、明日は皆さんと一緒に出発して、護衛役として、キャナール村まで送ります。帰りは、のんびり歩いて、旅をしながらワレバットへ戻りますから……そして、しばらく経ったら、フォルミーカへ旅立ちます」


そう、リオネルは3人が乗る馬車に同乗。


キャナール村まで見送り、3人が村へ到着するのを見届け、

ワレバットの街へ戻る事にした。


キャナール村から戻って自宅は、しばらくリオネルひとりの生活となるだろう。

『番犬』として、ケルベロスは召喚するだろうが、

さぞかし、広く感じるに違いない。


「「「宜しく、お願いします!」」」


モーリス、ミリアン、カミーユも、

リオネルの好意を受ける事にしたのだ。


この先どうなるか、分からないが……

キャナール村までの移動が、とりあえず4人の『最後の旅』になりそうである。


こうして……

リオネル達は4人一緒に過ごす、ワレバットの街における最後の夜を、

思う存分に楽しんだのである。

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