第205話「要望の声が多々来ている!」

翌朝7時……

地下6階層への出入り口。


「時間は必ず守る!」が口癖のゴーチェは、

前夜交わした約束通り、 「にこやかな」表情で、

手をぶんぶん振っていた。


リオネルとモーリスは普通に、


だがミリアンとカミーユは強い既視感デジャヴュを覚え、

そして昨夜の『見合い肖像画』事件が理由で苦笑していた。


「おっはあ!」


と、昨日の朝同様、相変わらずハイテンションのゴーチェに対し、


「「「「おはようございます!」」」


と、こちらも元気良く挨拶を返すリオネル達。


笑顔のまま、ゴーチェは「ずいっ」と踏み出し、リオネルへ言う。


「おう、どうだった?」


主語がなくとも、ゴーチェの質問内容は理解出来る。


ここで初めてリオネルが苦笑。

首を軽く横へ振る。


「どうだった? ……と言われても、ゴーチェ様。俺の意思は変わりませんので」


リオネルの返事を聞いても、ゴーチェの笑顔は変わらない。

更に豪快に笑う。


「あっははは。そんなのは分かってるって、リオネル君よ」


「ええっと……どういう事でしょう?」


「いやあ、いきなり養子入りって言われてもさ、漠然ばくぜんとしてるだろ。全然イメージが湧かねぇよな?」


「まあ、それは……確かに」


「だからよ、口で、リオネル君へどうこう説明するより、ああいう可愛い娘達の肖像画を見せて、夫になり、家を継ぐってイメージを持った方が考えやすいだろ? つまりよ、物事をすぐ理解させるには、論より証拠だ」


「成る程。物事をすぐ理解させるには、論より証拠ですか? その点に関しては同意しますし、納得もします」


「だろ! 俺もよ、リオネル君と同じくらいの年は、そこらに居る一介の冒険者だった」


「へえ、そうだったんですか」


「おうよ! だが、俺の噂を聞きつけた『ある騎士爵家』が『俺を養子に』と話を持ち込んで来た。それで俺はそこの娘、今の嫁さんと見合いして結婚し、現在に至るって人生さ……まあ、跡取りになれない貴族、騎士家の次男、三男でも良くある話だ」


「成る程……」


「大きな声じゃ、言えないけどよ……」


ゴーチェは声を潜め、辺りを見回した。

朝早い時間だが、周囲は探索に気合が入り、張り切っている冒険者が何人も居た。


「当時の俺でも、『年喰って体力が落ちたら、冒険者なんて、出来ないし、先がない。稼げるだけ稼いできっぱりやめる』と決めていた。『冒険者は、一生出来る稼業じゃない』と考えていたからな。つまり養子入りは……『渡りに船』の話だった」


リオネルも、ゴーチェに合わせて声を数トーン落とす。


「まあ、『冒険者は、一生出来る仕事じゃない』という事に関しても、同意しますし、納得もします」


「だろ。……まあ、養子入りを勧めるこちらとしても、公開可能な情報はリオネル君へは可能な限り、開示するって事だ」


ここで「はい!」とカミーユが手を挙げた。


「俺、ふと思ったんっすけど……」


「何だい、カミーユ君よ」


「……これって逆に、リオさんの肖像画とプロフも先方に……貴族家のお見合い女子達の手元へ行ってるとか……」


カミーユの質問を聞き、リオネルは勿論、ミリアンも気にして、

ゴーチェの答えを待った。


果たして、ゴーチェはあっさりと、


「当たり前だろっ! こっそり描かせたリオネル君の肖像画付きで、プロフを渡してある」


「え? 俺の肖像画を!? こ、こっそり描かせたって!?」


「ああ、悪いが描かせて貰った」


「悪いがって……」


「だってよ! 見合い相手が、顔とかプロフとか、どういう男子なのか、分からないとあっちも了解が出せないからな。本人も含めてさ」


「「「え~~~っ!!??」」


まだ静かな朝の迷宮内の街、地下5階層に、

リオネル、ミリアン、カミーユの声が大きく響いていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


貴族家のお見合い女子達が、あれこれリオネルを値踏みしている!?

予想していたとはいえ、衝撃の事実を突きつけられたリオネル。


しかし、ゴーチェ曰はく、リオネルの評判は上々だと言う。


リオネルは18歳と若く、将来有望な魔法使いで、腕っぷしも強い。

真面目で誠実、気配りが利き、老若男女問わず優しい。

それでいて勇敢且つ豪胆であるとプロフにはあるらしい。


加えて、ローランド、ブレーズ、ゴーチェ3人の貴族のお墨付き。

紹介者3人の下へ、「ぜひぜひ! リオネルに会いたい! 会ってぜひお話ししたいの!」という要望の声が多々来ている! ……ようだ。


大いに困惑したリオネルだが……すぱっと切り替える。

とりあえずは探索に集中する事に決めた。


これまた昨日と同じく用意をする。

地下6階層から先は魔導灯がない。


真っ暗闇である。

冒険者は、照明魔法か、携帯の魔導灯を使うしかない。


という事で、いつものようにリオネルは、出入り口から入った瞬間、

まず照明魔法『魔導光球』を召喚して行先を淡く照らした後……


更に魔獣ケルベロスも召喚。


『先導役』として放った。


今日のケルベロスには地下6階層において、

リオネル達が余計な体力、魔力を使わないよう、敵の排除も命じた。


クランリーダーとして、リオネルは各自の出で立ちをチェックする。


大丈夫!

問題なし!


全員が革鎧をしっかりと装着。

武器もそれぞれ携行。

革兜にベルトでつけるタイプの魔導灯も装着して、前方を照らしていた。


フォーメーションは昨夜の打合せの結果、


先導、攻撃役の魔獣ケルベロス、前衛のリオネルと来て、

毒消し、石化解除、回復魔法の使えるモーリスが中段、

ミリアンとカミーユが後衛、最後方のゴーチェだけ変わらない。


「さあ、皆さん! 用意はOKですか? 毒、石化予防のポーションは摂りましたか?」


「「「「はい!」」」」 


「では、出発します! 念の為、探索を終了した地下6階層は敵を極力避けて、スルーしますよ。一気に地下7階層への階段を目指し、降りますから」


リオネルの指示に対し、モーリス達は、


「「「「了解!」」」」


と、大きな声で応えたのである。

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