第204話「宴の後のサプライズ」

けして意図的ではなかったが……

またもカミーユがやらかした、『リオネルの古傷ほじくり返し事件』等々……

なんやかんやはあった。


だが……

その後も懲りずに、リオネルとカミーユは宝箱を開け続け、

いくつかの『お宝』をゲットした。


スキルの獲得等々『収穫』も充分にあったリオネル達一行は、

依頼された公式地図の確認も済ませ、……どうにか!

地下6階層の探索を終え、再び地下5階層へ戻って来た。


地下6階層の小ホールでキャンプを張らずに、

「無理をせず、一旦戻ろう」とリオネルとモーリスが強く主張したのだ。


再び地下5階層に現れた一行。

何故か、カミーユが顔をしかめ、お尻を押えながら、よたよたと歩いていた。


「酷いっすよ~。姉さんから、お仕置きでケツ棍棒こんぼうを10発も喰らったっす~」


対して、姉ミリアンは弟カミーユをジト目で見る。

こちらも相当なしかめっ面だ。


「何よ、もう! カミーユったら、大げさ! 充分手加減したし、あんた、すぐリオさんに回復魔法もかけて貰ったでしょ!」


「あ、そうだったすう! まだ痛いのはトラウマになりそうなデリケートな心だけだったすう!」


「こらカミーユ! まだ痛いのはトラウマになりそうなデリケートな心だけだったすう! じゃないわよ! まだケツ棍棒喰らいたいの?」


「ひえ! もうケツ棍棒は勘弁っすう! 暴力反対っすう!」


「カミーユ! あんた、シーフ職をやるんだったら、少しは勘を働かせなさいっ! 何度もリオさん禁断のNG、古傷ワードをほじくり返してさ!」


「姉さあん!! 勘を働かせて、NG古傷ワードを事前感知なんて、俺には無理っすよ~」


「じゃあ、シーフなんてやめなさいっ!」


「いやだっすう~!」


なんて、姉弟がそんな会話をしている中、こちらは超が付くご機嫌なゴーチェが、


「いや~、リオネル君よぉ、今日も終わったなあ。じゃあ、メシ食おうぜ! また、あの居酒屋ビストロで俺がおごってやるからよお。当然食べ飲み放題だ」


これはまたまた『リオネル囲い込み』の一環かもしれない。


……モーリスは、


「うむ、リオ君の判断に任せよう」


と言い、リオネルに判断をゆだねた。


リオネルは、きっぱり断るかと思いきや……


「……分かりました。いつも申し訳ありません。ゴーチェ様のご厚意に甘えます。宜しくお願い致します」


と、笑顔で応えた。


ゴーチェ、そしてローランドとブレーズの立場を考え、甘える事にしたのである。


と、いう事で、

一行はまた、ゴーチェ馴染みの居酒屋ビストロへ入ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「地下7階層は更に強敵だ。明日に備えてほどほど、にな!」


という、モーリスのいましめもあり……

宴会はセーブしながらも、楽しく行われた。


ゴーチェが加わった事もあり、7階層探索の打合せも行われる。

事前にしっかりと意思疎通をしておいた方が良い。

リオネルは、そこまで計算に入れ、『誘い』を受けたのである。


明日の7階層は、毒、石化のフロア……

毒を吐いたり、石化を仕掛けて来る厄介な敵が多いのだ。


こういった敵はドラゴンやヴァンパイアに匹敵するほど、

昔は一方的に害を受けていたが、現在は対策も進んでいた。


魔法、魔法薬も進化し、

予防したり、やわらげたり、治癒する『あらゆる対策』が生み出されたのである。


なので、よほど高位の敵でない限り、

猛毒で即死したり、瞬時に石化する事はなくなった。


リオネルが習得した『全快』は様々なダメージに効果がある。

当然、石化を解除し、麻痺を直し、毒を消し去る事が出来る。

睡眠、混乱などの攻撃にも有効だ。


またモーリスが、回復、破邪、葬送魔法以外にも、

石化治療、麻痺緩和の魔法を行使可能なので、安心である。


しかしいつの時代も、どんな場所でも、どんな敵の攻撃方法に対しても

絶対に安全ということわりは存在しない。


呪い、人外化、毒、石化、睡眠誘因、混乱……

あらゆる特殊攻撃に効果がある破邪魔法奥義、

破邪霊鎧はじゃれいがい』レベル補正プラス40を、

習得したリオネル。


しかし!

石橋を叩いても渡らないくらい、けして用心は怠らない……

それがリオネルのモットーである。


なので明日は全員が時限的な効果で、

毒、石化を予防し、やわらげる魔法ポーションを使用し、地下7階層の探索に臨む。


ちなみに5階層から7階層への直行は不可能。

クリアした6階層を経由して、階下へ降りる階段を使う。

ただ消耗は避けたいので、リオネルはケルベロスに敵の排除を命じるつもりでいる。


他にフォーメーション、戦法の確認も行われ……

うたげは終了した。


相変わらず上機嫌のゴーチェだが、さすがにギルド用の宿舎に泊まるという事で、

別行動となる。


ゴーチェは食事の終了後、どういう事なのか、『封筒』を渡して来た。


「じゃあ、明日は午前7時に6階層への出入り口で待ち合わせだな! あと、これ、中身はリオネル君宛ての『書類』だ。後で見といてくれや」


ん!?

中身はリオネル宛ての書類!?

一体、何だろうか?


興味津々きょうみしんしんのミリアンとカミーユが……


「ゴーチェ様、リオさん宛てだけど、私達も見て大丈夫?」

「何が書いてあるっすかあ?」


と尋ねれば、ゴーチェはにっこり満面の笑み。


「ああ、構わないぜ。『ちょっとしたサプライズ』だ。じっくり見て、リオネル君に『勧めてくれ』や!」


という、何やら微妙な言い回しで言葉を戻した。


『ちょっとしたサプライズ』とか、『勧めてくれ』

という言葉に引っかかったリオネル達であったが……


宿に戻って、封筒の中身を見たら、ゴーチェの言葉の意味が判明した。


無害ではあるのだが……想定外。

とんでもない『モノ』が入っていたのである!!


「うお!? ええっと……これは……参ったなあ……」


と困惑するリオネル。


ミリアンカミーユ、モーリスも……


「うっわ、ゴーチェ様、これ、もしかして、リオさんへ渡す為、迷宮探索中、ず~っと、持ち歩いてたの? どんが付くぐらい、退くわあ……」


「でも、ここまでやるなんて、ゴーチェ様も凄いっすねぇ! どろどろの執念を感じるっすう!」


「ふうむう……まあ、良い方向へ考えるしかないな」


という三者三様の反応。


ゴーチェが渡して来たリオネル宛ての封筒に入っていた書類は、何と!


魔法印刷で作成した、

お見合い用、『貴族令嬢5人の顔のアップ』そして『全身』の『肖像画』であった!!!


全員が10代の女子、年齢は15歳から17歳。

身分は子爵、男爵、騎士爵の娘という事。


皆、容姿端麗、スタイル抜群な美人。

顔のアップ肖像画の裏面には、

貴族令嬢の簡単なプロフィールが書いてある!!!

プロフィールは名前、性格、趣味、好物、自身のアピールポイント等々であった。


ゴーチェの手紙も入っていた。


……全員が健康で、

「夫を支え、良き子を産む! 家を更に繫栄させる!」

つまり「良妻賢母に私はなる!」

と、宣言済み。

粒よりの太鼓判を押せる、『お勧め貴族令嬢』達なのだと。


……ゴーチェは勿論、ローランド、ブレーズは、

リオネルの真面目な性格、資質、開花した才能、将来性を大いに見込んで、

貴族家の養子入れさせる事に、やはり『本気』なのだ。


「おおお! この子、俺のピンポイントで好みっすう!」


と、思わず叫んだカミーユが、姉ミリアンから、ごつん!と、

げんこつでお仕置きされたのは、言うまでもなかったのである。

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