第191話「援護とフォローで、不安と緊張がナッシング!」
英雄の迷宮地下4階層……
通称『ゴブリンの王国』……
ゴブリン上位種たる『ゴブリンシャーマン』『ゴブリンサージ』
そして『ゴブリンソルジャー』、『ゴブリンノーマルタイプ』と、
ゴブリンばかりが出現するフロアである。
打合せの結果、
魔獣ケルベロスが先導、ミリアンとカミーユが前衛、リオネルが中段、最後方がモーリスである。
地下3階層の
「全然OK!」
「問題なしっす!」
と豪語し、
「午後5時まで頑張ろう! 終わったら、5階で綺麗な宿屋に泊まるんだ!」
「姉さんの言う通りっす! 人外どもに囲まれた場所で、キャンプをしないですむっすよ!」
等々、モチベーションを高めていた、ミリアンとカミーユだったが……
『現場の4階層』へ階段で降りて歩き出すと、急に、不安にかられたようだ。
「リオさん」
「リオさん」
「何だい、ミリアン、カミーユ」
振り向いて、リオネルの名を呼んだミリアンとカミーユ。
ひどく不安げな表情である。
「私とカミーユって……」
「ゴブリンの上位種と戦うどころか、見た事もないっす」
「ああ、成る程。未対戦だから、どんな奴らか、ふたりとも、気になるんだな?」
「うん、ちょっち不安かもね」
「まあ、少しだけ、緊張してるかもっす」
ふたりのコメントは控えめなものだったが……
相反して、大きなプレッシャーを感じているのが分かった。
ここは励ます一手である。
「大丈夫だよ。上位種も、俺がゴブリン渓谷で、散々戦った相手だし、お前達とは、何度も打ち合せで話した通りさ」
リオネルはそう言うが、
「リオさん、お願い、3階の時と同じく助けて!」
「援護とフォローを、ぜひぜひお願いしたいっす!」
と、ふたりから両手を合わせてお願いされてしまった。
『可愛い妹と弟』から、ここまで頼まれたら、断る理由はない。
「甘やかしだ」と、モーリスから言われそうだが、仕方がない。
「分かった! ふたりが慣れるまで、俺が、しっかりとフォローするよ」
「やったあ! 不安と緊張がナッシング!」
「これで安心っすう!」
というやりとりがあり……
現在は自信を持って堂々と歩いている。
『3階での経験』を踏まえて、リオネルはミリアンとカミーユに対する、
いくつかのフォローを考えていた。
ミリアンから指摘があったように、一人前のシーフとして、
カミーユの有する探知能力の精度は、まだ充分ではない。
なので随時、詳細に敵の情報を伝え、ふたりが戦いやすくする事。
そして、上位種の強さや相手の数に押されるような場合はすぐに助けに入る事。
またそれ以外の不測の事態が起こってもすぐに対処する事などだ。
そうこうしているうちに……
リオネルの魔力感知による索敵は、『敵』をはっきりと捕捉した。
……上位種を含むゴブリンの群れ。
その距離約500m。
遮蔽物が多い為、精度は若干落ちているが、このまま双方が進めば、
遭遇するのは時間の問題である。
しかし!
すぐミリアンとカミーユへ、報せない。
ここはシーフたるカミーユが、己のパフォーマンスを見せる格好の場であるからだ。
だが……カミーユはまだ、敵の接近に気が付かない。
双方の距離が縮まる。
400m……300m……200m……
もうこれ以上、無自覚で接近させたら、ヤバイ。
背後に控えるモーリスも敵の気配を察知しているようだ。
カミーユに対する『もどかしさ』の波動がはっきりと伝わって来る。
リオネルは、一回軽く息を吐き、はっきりと言い放つ。
「ミリアン、カミーユ、敵だ。近いぞ!」
「え!? て、敵!?」
「げえ! しまったあ! またやっちまったっす! 姉さんに怒られるっすう!」
「大丈夫! 深呼吸して落ち着け。敵との距離は200mある! 落ち着いて戦闘態勢スタンバイでOKだ! 相手には魔法を使う敵は居ない。上位種ゴブリンサージ、ゴブリンソルジャーを含む、ゴブリン15体の群れだ!」
「分かった! サンキュー! リオさん!」
「リオさん! ナイスフォローっす!」
リオネルの指示を聞き、深呼吸して落ち着いたミリアンとカミーユは、
不安と緊張が消えた!
気合を入れ、身構えて、
敵が出現するであろう、通路の奥を「きっ!」とにらんだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
やがて、ゴブリンの群れが現れる。
奴らとは散々戦った。
やはり迷宮での戦いは野外とは感覚が違う。
洞窟での戦いを経験した事が役に立つ。
と、ミリアンとカミーユは実感していた。
先ほどの打合せで、リオネルの言葉がリフレインする。
ギルドの講座でも習っており、ゴブリン上位種の注意点は、
ふたりの心に刻まれている。
身体能力が、ノーマルタイプを基準にして、
ゴブリンサージは2倍。
ゴブリンソルジャーは1,5倍。
身体頑健度も同様。
魔法を使わない敵ならば、ミリアンとカミーユの作戦はシンプル。
ミリアンの冷気魔法で、ゴブリンどもの動きを鈍らせ、カミーユが突撃。
ついで、ミリアンも突撃。
基本的な戦法は、『ヒットアンドアウェイ』だが、
倒せるだけ、倒し撤退する。
リオネルとモーリスは、戦闘態勢スタンバイ。
ふたりに危険が及ぶようなら、すぐに突撃し、戦う。
さあ!
戦闘開始だ!
ゴブリンどもも、リオネル達を認め、歯をむき出して威嚇しながら唸っている。
とりあえず「様子をうかがう」という趣きである。
まずミリアンが体内魔力を高めて行く……
そして高まり切った瞬間。
「ビナー、ゲブラー、冷気!」
びしびしびしびしびしっ!!
ゴブリンどもの周囲の大気の温度が急激に下がって行く。
火に滅法弱いゴブリンだが、低温にもさほど強くはない。
上位種のゴブリンサージを始め、
15体全てのゴブリンの動きが著しく、緩慢となる。
「よおっし! 行くっすう! バッシュ! バッシュ! バッシュっすう!」
どが! がん! ばしっ! どっ!
すかさずカミーユが飛び込み、盾でシールドバッシュして、
ゴブリン数体を弾き飛ばし、
更にスクラマサクスで、またも数体を「ずばばっ!」と切り捨てる。
カミーユの奮戦を見て、ミリアンの闘争心に火が点いたようだ。
「よっし! カミーユに負けてられないっ! 私も行くっ!」
続いて、ミリアンがダ~ッシュ!
蝶のように舞い、蜂のように刺す。
「はあっ! とおっ! うりゃ! おらっ!」
どしゅ! ばき! どが! びしっ!
と、華麗な
あっという間に、ふたりで、上位種を含むゴブリン15体を倒してしまった。
「やったあ! 大勝利!」
「上位種なんて、何という事はなかったっすう! びびって損したっすう!」
戦ったのは物理攻撃オンリーのゴブリンサージとゴブリンソルジャー。
まだ……魔法を使うゴブリンシャーマンとは戦っていない。
だが、ミリアンとカミーユの持つ、
先ほどリオネルへ告げた、ゴブリン上位種に対する未知の不安は、
だいぶ解消されたに違いない。
……以降、ミリアンとカミーユの前衛は、
中段のリオネルに、索敵とスキルでフォローされながら、
結局ゴブリンシャーマンには遭遇しなかったが、
ゴブリンサージとゴブリンソルジャーの上位種を含んだ群れを順調に倒して行った。
そして、午後5時過ぎとなり、タイムリミット。
まだ未探索のフロアを多く残し、本日の探索&討伐は完了。
全員で、『安全地帯』たる地下階層5階へ移動したのである。
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