第185話「リオさん、いつもいつも俺達にフォロー、ありがとうございまっす!」

出発を30分遅らせ、リオネル達は、地下2階層小ホールを出発した。


インターバルをとった、この30分の間に……


リオネルは、先ほどミリアンへ述べた事、

まずは、4人とケルの配置、実施する作戦を熟考。


そして自らに課した、課題と目標……

不死者アンデッドバトルの熟練度アップ、行使する葬送魔法、

破邪聖煌拳はじゃせいこうけん、火属性魔法の効果確認が課題となる。


それらをトライアルアンドエラーで励んだ、課題の結果が、

リオネルの予想以上なのか、以下なのか、いかなるものになるのか、全く分からないが、

暫定的な目標の『到達点』となる。


そしてモーリスから言われた索敵感度の更なるレベルアップも、

改めて再確認した。


一方、リオネルに影響され、ミリアンとカミーユは『己への課題と目標』を立て、

モーリスまでもが、『今日やるべき事』を決めたようである。


先ほどモーリスが戒めた通り、周囲を警戒しながら、階段を下りる一行。

フォーメーションは、これまでと変わらない。


召喚した魔獣ケルベロスを先行させ、リオネル、カミーユ、そして最後方にモーリスの並びである。


既にケルベロスは地下3階層のフロアに降り、不死者どもを余裕で蹴散らしている。

一行の先駆けとして、「道を切り開く」という趣きだ。


……冥界の住人であり、「死者を取り締まる立場」のケルベロスにとっては、

地下3階層の探索は、同1階層、2階層以上に楽な仕事である。


亡者たる、ウィルオウィスプ、亡霊、ポルターガイストは勿論だが、

自我が殆ど残っていないゾンビ、スケルトンでも、

『天敵』として、ケルベロスを本能的に避ける。


万が一、突発的な『鉢合わせに近い遭遇』が起こったら、

やむなく戦うといった次第なのである。


そんなケルベロスは『シーフ役』『盾役』『攻撃役』だけでなく、

『勢子の役割』も心得ており、もう慣れたもの、リオネルへ、念話で知らせて来る。


あるじ、邪魔者は追っ払い、もしくは掃討した』


『ケル! お疲れ様!』


『うむ……主が持つ地図で把握しているだろうが、階段を降り、まっすぐ行けば、あるじ達の言う小ホールとやらがある。そこで一旦態勢を整え、このフロアを探索し、依頼を遂行するが良かろう』


『助かる!』


地図の通りだと、リオネルは返事を戻した。


ケルベロスは更に告げて来る。


『主、貴方が考え告げた段取り、そして課題と目標とやらを、我は全て聞き、理解し、了解もしておる。……存分に戦うが良い』


『分った。引き続き先導と、もろもろ調整を頼む』


『うむ! 何かあれば、我へ遠慮なく命令するが良い。すぐに対応しよう』


『ありがとう! ケル! 頼りにしているぞ!』


『ふっ』


リオネルのねぎらいに対し、ケルベロスは言葉を発さず、短くニヒルに笑った。


そして、


わお~ん!


ケルベロスは嬉しそうにひと声大きく吠えると、勢い良く駆け出して行ったのが、

彼の心を介し、リオネルの心へ、しっかりと伝わって来たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふむ、以前このフロア……地下3階層へ来た時は、いきなりゾンビと亡霊がセットで襲って来たが、今は影すら見えん。……さすがは冥界の魔獣ケルベロスだ」


モーリスが感嘆したように言い、満足そうに笑った。

先行したケルベロスが「露払い」をしたと認識したようである。


ここは、

先ほど一行が到着した地下3階層の小ホール。


ケルベロスが知らせて来た通り……

ギルドの公式地図に倣い、階段を下りて、通路をまっすぐ歩くと、

無人の小ホールに出た。


英雄の迷宮へ入ってから、リオネルが行使した照明魔法の『魔導光球』は、

その場の状況に応じて照度を様々に変えながら、

通路の上方に浮かび、一行を照らしていた。


地図、もしくはモーリスによると次の第4階層まで。

地下6階層以降、通路を照らす魔導灯は設置されていない。


ちなみに間にある第5階層は、フロア全体が人間には無害の魔法障壁で護られた、

『広大な休憩所』となっており、

何と! 店舗や宿泊施設等もあると、冒険者ギルド発行の公式地図には記載されている。


事前の打合せで、モーリスはく、

「地下5階層は街だよ、小さな街さ」との事。


だからまず、英雄の迷宮へ入った冒険者達は、

休憩、宿泊、装備の購入、修理、食料資材の補給も兼ね、

『地下第5階層』を目指す。


この『地下第5階層』で、このまま難度の高い下層へも探索を続けるか、

それとも、地下第4階層までのフロアにて、地道に修行を続けるか、

どちらかの選択が問われる事となる。


ちなみに難度が上がるという第6階層以降は、迷宮が一層複雑となり、

出現する魔物のレベルも格段に上がるのだ。


それゆえ、無謀な挑戦を防止する為、中級以上のランクが『推奨』となる。

ちなみに第6階層以降は、

「冒険初心者をフォローする魔導灯はとりつけられていない」のだ。


ということで、リオネルは迷宮を出るまで、

照明魔法で呼び出した、この『魔導光球』を、「ずっと同行させるつもり」である。


どちらにしろ……リオネル一行は地図内容確認の依頼を受諾しているから、

英雄の迷宮の最下層まで赴く。

そこまで、魔導光球は大いに役立つだろう。


そうそう……

半人前のミリアンやカミーユは、中級の冒険者ではない。

しかし、リオネルとモーリスという強力なランカーが同行し、

双子の姉弟ふたりを守り、修行をさせながら、

共に最下層を目指すという腹積もりだ。


全属性魔法使用者オールラウンダーとなってから、リオネルは特に感じる。


事実……

身体強化魔法を自身へかけ、魔導光球を呼んで飛ばし、ケルベロスを召喚して、

属性や種々の魔法を思い切り使いながら、リオネルの体内魔力は尽きる事がなかった。


というか、いかなる高位の魔法を使って魔力を消費しても、数分ですぐに、

体内魔力が満タンとなってしまうのだ。


以前父ジスランが言っていた通り、

子供の頃から体内魔力が高かったリオネルだが……


冒険者になり、何度ものレベルアップを経て、体内魔力が大幅に増量したと共に、

回復力も著しく増していた。

そして、全属性魔法使用者オールラウンダーとなった事で、これまた著しく増していた。


そしてリオネルには分かる。

内なる声がささやくのだ。

『まだまだだ! お前の体内魔力とその回復力は著しく増して行くぞ』と。


つらつら考え、ひと息ついたところで……

改めて情報収集。


リオネルは意識して、魔力感知のギアを上げた。

同時に、五感のうちみっつも……視覚、聴覚、嗅覚も心と肉体のギアを上げる。


魔力で引き出される潜在していた才能と進化、

更に動物から得た大自然の力が加味され……

リオネルの能力は、この時点でも『人知を遥かに超えたもの』となっているのだ。


実際、ギアを上げた瞬間。

ぶん!

という音とともに、肉体的には……

視野が広がり、遠くのものを見通せ、ほんのわずかな音も捉え、嫌な臭いも感じ取れる。


そして、放出される魔力も増大し……

はっきりと不死者どもの気配を感じる。


ギアにはまだまだ余裕がある。

最大のギアまで上げれば、最下層地下10階まで感知は届きそうである。


ここでリオネルの索敵に反応があった。

ゆっくりとこちらへ、……近づいて来る!


敵の正体もすぐに特定出来た。


リオネル達が位置する先、約300m前方に……

先ほどモーリスが告げた、『ゾンビと亡霊の混成部隊』がいきなり現れたのだ。


……数は、ゾンビが10、亡霊も10。

ここは『王立墓地の戦闘経験』が役に立ちそうである。


リオネルは改めて周囲を探った。


500m以内では、他に気配を感じるが……

半径300m以内では、その混成部隊以外、敵は居ない。


その間に、ゾンビと亡霊は距離を詰めている。

リオネル達との距離は、200mまでになった。


ちらと、傍らに居たカミーユを見れば……

そこまで詳細ではないかもしれないが、彼も『敵』を察知したようである。


カミーユは不死者アンデッドが苦手なせいか、少し緊張していた。


リオネルは、そっとカミーユへ告げる。


「カミーユ、良く敵に気が付いた。落ち着いてモーリスさんと姉さんへ敵襲を告げてやれ」


「は、はいっす」


「落ち着け、深呼吸をしてゆっくり言葉を発するんだ」


リオネルのアドバイスを聞き……カミーユはしばし考え込み、


「リオさん、昨夜と今朝、姉さんにいろいろと優しくしてくれて、本当にありがとうございまっす」


とミリアンへ聞こえないよう小声で言い……


そして、


「リオさん、いつも俺達にフォロー、ありがとうございまっす」


カミーユはにっこり笑って、リオネルへ二度、感謝の気持ちを告げると、


す~、は~、す~、は~、


と、深呼吸をし、


「師匠! 姉さん! 敵っす! 戦闘準備してくださいっす!」


と、はっきり言い切る事が出来たのである。

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