第184話「課題と目標を!」
英雄の迷宮地下2階層……
朝食後の打合せも終えたリオネル達は……
後、10分ほどでこの小ホールを出て階下の地下3階層へと出発する。
前述した通り、地下3階層は
念には念を入れ、最後の切り札、魔法を込めた魔法杖は、
全員の分を葬送魔法『昇天』を込めた物に代えてある。
さてさて!
リオネルは小ホールの片隅にひとり立ち、目をつぶり、無言で集中。
じっと考え込んでいる。
一種の瞑想であり、モーリス達3人に対して、彼が良く見せる習慣である。
いいかげん気になったのか、カミーユが「そっ」と近付き、リオネルへ尋ねる。
「リオさん、目をつぶって、何を考えているっすか?」
「……………」
「ねえ、リオさん!」
「……………」
「リオさん! 俺の声が聞こえないっすか?」
「……………」
「ねえねえ、リオさんったら!」
カミーユから『4回』も呼ばれ、リオネルは、ようやく目を開ける。
「……おう、悪い、カミーユ。……今、呼んだか?」
「リオさん! 今、呼んだか、じゃないっす! さっきから何回も声をかけたっすよ」
と、ここでミリアンが乱入。
腕組みをして、カミーユを叱りつける。
「こら! カミーユ、リオさんが集中して考え事をしているのに、邪魔しちゃダメよ」
対して、カミーユは、「叱られたのは心外だ!」とばかりに言い放つ。
「だって! 姉さん! リオさんは、こうやって良く考え事をしているっすよ! もしかしたら何か、深い『悩み事』でもあるんじゃないかと、俺は、凄く気になるっすよ」
カミーユは自分の事をおもんばかって、心配してくれた。
ここは謝って、お礼を言うのが筋であろう。
「そうか、気を
「う~ん。リオさんが悩んでいなければ、俺は別に構わないっすけど……」
「カミーユ、確かに俺は、悩み事がたくさんあるけど、依頼の遂行中は考えない事にしているよ」
「依頼の遂行中は、悩み事を考えない……そうだったんすか。じゃあ、リオさんは、一体何を考えているっすか?」
「まず、これからの段取りの再確認。俺達4人とケルの配置や、実施する作戦等々。それと……俺自身の課題、到達点のおさらいだな」
「ええっと……段取りは分かるっすけど……リオさん自身の課題と到達点のおさらいって何っすか?」
「いや、いつどこでときっちり決めているわけじゃないけど、何か節目ごとに、課題と目標とする到達点を決めているんだ」
リオネルが答えると、
今度は、ミリアンが尋ねて来る。
「じゃあ、リオさんの今日の課題、そして目標……到達点って何?」
「ああ、そうだなあ……今日に関して言えば、
「へえ、成る程。リオさんって、いろいろ考えているのね」
「ああ、更に言えば、出来るだけ効率良く、敵を倒して、成果及び上達を実感する事もだな」
「わお! じゃあリオさんは昨日はさ。私と一緒に、苦手だった『虫』を克服して、大いに『成果』を実感したわけだよね♡」
「ああ、その通りさ、昨日はいろいろと大収穫で、とても大満足の一日だった。ありがとう、ミリアン。お前を始め、みんなのお陰だな」
「うふふ、どういたしまして、リオさん♡」
ここでカミーユが、
「俺も、リオさんみたく毎日、課題と目標を作ろうかなあ……でも難しいなあ、毎日だと」
カミーユの渋い顔を見たリオネルは、
「あまり深く考える事はないよ、カミーユ」
「深く考える事はない? どういう事っすか?」
「テーマは何でも構わないんだ」
「え? テーマは何でも構わない?」
「ああ、もしもテーマに沿った課題がクリア出来なくても、目標に到達しなくても、構わない。別の何かでもOK、少しでもプラスになっていれば、俺は満足する事にしている」
「別の何かでもOK? 少しでもプラスになっていれば?」
「おう! そうじゃないと、全てが上手く行っている時は良いけれど、逆に
「確かに、そうっすよねぇ」
「例えばさ、今日俺が、上手く
「些細な事ひとつでも分かれば?」
「ああ、昨日は知り得なかった事を、今日はひとつだけでも知った。立派なプラスさ」
「おお、確かにそうっすね!」
「うん、次の機会に、そのプラスひとつを活かせばOKだし、また同じ課題と目標に臨んでも良い。もしも上手く行かなかったら、ケースバイケースで、課題と目標を切り替えても構わないと俺は思う」
「成る程! 上手く行かない場合は、立てた課題と目標に固執しないって事っすか」
「ああ、その通りさ」
「何でも良いから、昨日の自分よりも、何かを得たプラスのモノがひとつでもあればOK、構わないって事っすよね! リオさん!」
「だな! 念の為、一番大事なのは、自分を含めたメンバーの命と安全だぞ。カミーユ、それを絶対に忘れちゃダメだ」
「おお、確かにそうっす!」
「メンバー全員の命と安全が第一。それを踏まえて、昨日よりプラスの何かを得たと思えば、俺の場合は気持ち良く眠れるぞ」
リオネルが言うと、カミーユは、
「よっし! 俺も考えるっす。課題と目標を!」
ミリアンも負けじと、
「カミーユ、私も考える! 課題と目標を!」
「おお、姉さんもっすか!」
「あったり前!」
「それに課題と目標は冒険者としてだけでなく、人生、全てに通じるからな」
「おお、リオさん、課題と目標は、人生全てっすか! 確かにその通りっす」
「リオさん、素敵♡ 私は人生の目標、もうひとつ決めてるよ。大人の素敵な女になる事!」
慈愛を込めた眼差しをむけながら、3人の話を聞いていたモーリス。
笑顔で言う。
「……成る程、課題と目標か! リオ君は良い事を言う」
そしてしばし考えた後、
「……では、出発を30分だけ遅らせよう。その間にミリアンとカミーユは、自分の課題と目標を考えれば良い」
モーリスが融通を利かせ、喜ぶミリアンとカミーユ。
「わお、師匠、ありがとう!」
「よっし、俺、まずは今日の課題と目標をしっかり考えてから、探索に臨むっす!」
「うむ! 但し! 3人とも迷宮探索中は他の考え事をしてはいかん! 仲間の安全、そして敵と周囲に集中する事!」
モーリスの言う事はもっともである。
リオネル、ミリアン、カミーユは顔を見合わせ、
「「「了解!」」
と元気よく返事を戻したのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます