第169話「使い尽くされた? 王道的?」
英雄の迷宮地下1階層……
リオネル達はゴブリン8体の小群と遭遇した。
これまでの経験と今後を踏まえ、リオネルはミリアンとカミーユに討伐を任せる。
意気に感じた双子の姉弟は、堂々と自信を持って戦いに臨んだ。
……ふたりともリオネルが出会った頃よりも大きく成長していた。
リオネルとモーリスはミリアンとカミーユの戦いぶりを見守る。
万が一何かあれば、すぐに助けに入れるという態勢で。
「たあっ! とうっ!」
「バッシュ! バッシュ! バッシュっすう! そしてぇ、とどめっすう!」
ミリアンは相変わらず軽やかな身のこなしで、ゴブリンどもの攻撃を避け、カウンターで。
カミーユは、上達しつつあるリオネルから手ほどきを受けたシールドバッシュで、
ゴブリンどもを圧倒、態勢を崩したところを拳と蹴りで。
次々とゴブリンを倒すふたりは対照的な戦い方だが、ベースはモーリス直伝の破邪聖煌拳である。
少し離れた場所ではこれまた、すぐ対応出来るよう、ケルベロスも身構えていた。
ふたりの戦いぶりを見るモーリスの目が遠い……
しみじみという感じで言う。
「ミリアンとカミーユめ……気力がみなぎって身体の切れが抜群だ。風の攻撃魔法を込めた魔法杖を携帯しているが使う気配もない……本当に強くなったなあ。リオ君のお陰だよ」
「そんな、俺なんて何もやっていないですよ」
「そんな事はない。リオ君と心が触れ合い、ふたりとも自身を改めて見直し、大いに前向きとなったよ」
「いや、ふたりが自分で努力した結果ですよ」
「いやいや、年齢が近いリオ君と出会ってから、ミリアンとカミーユのモチベーションはとても高くなっている。そして見違えるほど明るくなり、素直に本音で話せるようになった」
「そうですか」
「うむ、46歳の私では、父親役は務まっても、兄貴役は難しい。リオ君、君はふたりの良き兄貴分だ」
「良き兄貴分っすか」
リオネルは思わず微笑んだ。
確かに、ミリアンとカミーユを可愛い妹、弟のように思っている。
末っ子だった自分にとって、今までにない感情を呼び覚ましてくれた。
そう感じながら、ふたりの戦いぶりをリオネルは、しっかりと見ていた。
「ああ、それに、ふたりともリオ君の事をとても心配していたぞ」
「え? 俺の事をとても心配?」
モーリスは気になる事を言う。
ミリアンとカミーユは、一体自分の『何』を心配しているのかと気になった。
すると……
「ああ、今の恋愛未経験のままだと、リオ君はとんでもない相手に引っかかるのではないかとね」
ああ、恋愛ね。
と、リオネルは苦笑した。
ミリアンとカミーユ……
美少女、イケメンのふたりはともに最近、異性からのアプローチが頻繁にある。
つまりナンパ、逆ナンされる事が多い。
ミリアンはナンパを一切拒否。
カミーユも適当にあしらっているが……
リオネルは「青春しているなあ」「ふたりともモテるなあ」と思う。
一方、リオネルを逆ナンする女子は居ない。
リオネルの恋愛事情に何の変化の兆しさえも見られない。
それで気にかけてくれたのだろう。
気遣いはありがたいが……
ナンパして回るわけにもいかないし、
「なるようにしかならない」としか考えられない。
リオネルは再び苦笑し、ため息をつく。
「はあ、そうっすか……」
「『そっち』に関しては、リオ君同様、私も縁がなく同じだしな、ははははは」
「……………」
「……まあ、話を戻せばだ! 年齢が近いリオ君との心の交流は、ふたりにとってプラスが大きいという事だ」
「まあ、モーリスさんがそう思ってくれるのなら、素直に嬉しいです」
という会話をリオネルとモーリスが交わしているうち、戦闘は終了した。
ミリアンとカミーユが笑顔で戻って来た。
ケガなし……ダメージ皆無である。
「は~い! 掃討完了!」
「完璧にやっつけたっす!」
「よしよし、後始末は私がやろう」
モーリスが笑顔で応え、ゴブリンの死骸を葬送魔法で塵にした後、
一行は探索を再開したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
1階にはゴブリンの他にもう1種魔物が出現する。
みゅみゅみゅみゅみゅ!!
リオネルにとって、デビュー戦の魔物『スライム』である。
独特な鳴き声?とともに現れたのは、ゼリーのような形状のスライム10体である。
以前リオネルが遭遇した時のように、スライムは透明に近い水色をしていた。
大きさは左右の体長が30㎝くらい、体高は20㎝くらいだろう。
スライムにも上位種は存在するが、出現したのはノーマルタイプである。
敵に飛びついて窒息させ、体液で溶かして吸収するという見かけによらず危険な魔物である。
事前に戦う際の注意点に関しては打ち合せをしてあった。
なので、ここもミリアンとカミーユに任せた。
ふたりは武器使用を選択。
ミリアンは小型のメイスを、カミーユは小型のスクラマサクスを振りかざし、
突撃した。
どしゅ! どしゅ! どしゅ! どしゅ! どしゅ!
ずばっ! ずばっ! ずばっ! ずばっ! ずばっ!
ゴブリンを圧倒したミリアンとカミーユの前では、スライムは敵ではない。
あっという間に瞬殺であった。
とはいえ、ほんの少し体力が減っていたから、
リオネルが『全快』を使い、体力を満タンにした。
モーリスは破砕されたスライムを塵にする。
そんなこんなで、地下1階層をくまなく探索。
通路の様子は変わりなく、出現した魔物もゴブリンとスライムのみ。
『冒険者ギルド総本部発行、英雄の迷宮地図、公式版』の記載に変更の必要なし。
という意見で4人全員が一致した。
メインで戦ったミリアンとカミーユは「にっこにこ」である。
「全然楽勝だったね♡」
「姉さん、俺達の戦いはこれからっす」
「何よ、カミーユ。その使い尽くされたダサいセリフは?」
「姉さん、言い尽くされたじゃなく、王道的だと言って欲しいっすよ」
という事で、リオネル達一行は下層へ降りる階段を見つけ……
次のフロア地下2階層へ降りたのである。
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