第168話「クランリーダーとして」

『英雄の迷宮』地下第1階……


地下第1階は、ホールと同じく、壁面が石積みされた仕様である。

否、逆にホールを、迷宮1階の仕様に合わせたに違いない。


そして、冒険者ギルド総本部により設置された魔導灯が、通路を淡く照らしていた。

入り口から漏れていた明かりは魔導灯だったのである。


ちなみにこの魔導灯は、低ランク、低レベルの者向けに、

迷宮の上層地下1階と2階のみ、設置されていた。


はっきり言って、迷宮内に、これくらいの照度があれば、

照明魔法で呼び出す魔導光球は不要である。


そして、入った瞬間から、リオネルは魔力感知の索敵を行っている。

さすがに入り口付近に、敵の気配は感じられない。


洞窟同様、やたらと|遮蔽物が多いが……

遥か先に、いくつか数種の小さな気配を感じるだけだ。


リオネルはこれらの気配を知りすぎるほど知っていた……

スライムとゴブリンである。


『冒険者ギルド総本部発行、英雄の迷宮地図、公式版』の記載通りだ。


相手がスライムとゴブリンならば、

リオネルは習得したギフトスキル『ハンターシリーズ』により無双無敵。

魔獣ケルベロスを召喚するまでもない。


ぱぱぱぱぱ!と考えたリオネルだが、


照明魔法発動は無駄にはならない。

消費魔力量はわずかだし、そもそもリオネルの体内魔力はすぐ回復する。

今、発動しておけば、『円滑に発動する為の練習』及び『試し運転』となる。


そして、ケルベロスの存在は強力なアドバンテージだ。

モーリスはともかく、自分と同じ迷宮デビューのミリアンとカミーユの不安を払拭する為に、大いに必要であると考え直す。


結局は……「立てた最初の作戦通りに行こう」

と決め、リオネルは照明魔法を発動する。


『ルークス!』


ぽわ!


リオネルが照明魔法の言霊ことだまを念じると、

やや魔力を抑えた『魔導光球』が「そっ」と闇に浮かび上がった。


次にリオネルは魔力を込めた『マーキング印』を施しておく。

帰還する際、『魔導光球』を放ち、マーキング印へ向かうよう命じれば、双方が反応し合い、道に迷った術者を導いてくれるのである。


今回、モーリスからは司令塔の役割を、クランリーダーを任された。

であれば、まずは基本に忠実に。

初めての場所なら尚更だ。


「おお、リオ君、相変わらず鮮やかな手並だな」


「リオさん、さっすがあ!」

「完璧っす、リオさん!」


今は自分のみでなく、先輩のモーリス、後輩のミリアンとカミーユも連れている。

安全第一に越したことはない。

という事で、リオネルは召喚魔法でケルベロスを呼び出す。


召喚サモン!』


と、心の中で短く叫び、召喚魔法を発動すると、

リオネルの少し前の地に輝く『魔法陣』が浮かび上がった。


うおおん!


そして魔法陣の中から、一体の灰色狼風の巨大な犬が飛び出して来る。

体長は軽く2m、体高は1mを超えていた。

魔獣ケルベロスが『擬態した姿』である。


リオネルの想定通り、

ケルベロスの姿は自分は勿論、モーリス、ミリアン、カミーユを大いに力づける。


「うむ、彼が居れば、戦士1,000人に匹敵する。頼もしい!」


「ケルちゃ~ん♡」

「師匠の言う通り、本当に頼もしいっす!」


という事で……

充分すぎる準備は万全。


リオネルをクランリーダーとして、4人は英雄の迷宮『地下第1階』を歩き始めたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


迷宮地下1階を歩く、リオネル達一行。

フォーメーションは、最初に決めた通り、

先頭を気配を消して歩くケルベロス。

次いで、リオネルとカミーユ。

ミリアンが続き、モーリスが最後方だ。


やがて、


うおおん!


ケルベロスが吠えた。


すかさず発したケルベロスからの念話と自らの索敵で、

補足した敵は『ゴブリン』だと判明する。


洞窟の時と同じく、この探索は依頼を遂行するとともに、ミリアンとカミーユの訓練も兼ねている。


リオネルは振り返り、背後に位置するカミーユへ言う。

シーフとして磨いて来た能力を試す良いチャンスだ。


「カミーユ」


「はいっす」


「……感じるか? 300m先に敵だぞ」


「は、はい。何とか……わずかに感じるっす……これはゴブリンっすか?」


「OK。何体かは分かるか?」


「は、はっきりとは……ただそんなに多くはないっすね。10体以内っすか?」


「おう、上出来だ。300mちょい先にゴブリンが居るぞ……ノーマルタイプが8体だな」


「な、成る程。8体っすか! さすがリオさんっす。俺の方は、当たらずとも遠からずってところっすか?」


「いやいや、立派に合格点さ。さあ、全員で情報を共有するぞ」


「おお、合格っすか! リオさんに褒められて、嬉しいっす。では全員へ指示をお願いしまっす」


「了解」


カミーユから言われ、リオネルは念話でケルベロスを一旦下がらせる。

ケルベロスに任せれば、ゴブリンなど瞬殺だが、

ミリアンとカミーユにメインで戦って貰う為である。


リオネルは


「皆、敵だ。ノーマルタイプのゴブリン8体が300m先に居る。戦闘準備だ」


と、後方へ告げた。


対して、ミリアンとモーリスが、


「はい!」

「うむ、了解だ」


リオネルは次に3人へ指示を出す。


「運動がてら、ミリアンとカミーユに、ゴブリン5体と格闘戦で戦って貰う。ケルベロスがフォローする。だが、相手を舐めて、慢心はするな」


「「了解!」


「おお、リオ君からご指名だ、頑張れよ、ふたりとも」


打てば響けと返事をするミリアンとカミーユ。

モーリスも愛弟子達へエールを送った。


ここで、リオネルの指示が更に飛ぶ。

フォーメーションを変えるのだ。


「ミリアン、俺が下がる。前に出てカミーユと並べ」


「はい!」


リオネルは下がった。


すかさず、リオネルの指示に従い、

ミリアンが前に出て、カミーユと並ぶ。


ふたりの背後から、リオネルが再び指示を出す。


「よし、お前達の持ち味、双子ならではのコンビネーションを活かして戦うんだ」


「了解」

「了解っす」


ここでケルベロスが戻って来て、ミリアンとカミーユの前に立った。


準備は万全、やがてゴブリンが現れた。


魔導光球に照らされたゴブリン5体は、リオネル達に向かい、唸り威嚇している。


「ふたりとも……行けるか?」


「大丈夫だよね、カミーユ」

「はいっす、姉さん」


ミリアンとカミーユは大きく深呼吸をした。

そして顔を見合わせて頷き、ダッシュ! 勢いよく駆け出したのである。

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