第148話「ブレーズの本音」

翌日の朝……

リオネル達4人は、ラッシュ時間を避けた午前9時30分過ぎ、

冒険者ギルド総本部本館の応接室で、担当のエステルと話し込んでいた。


打ち合わせの内容は、昨夜打ち合わせした依頼受諾の件である。


ギルドからの依頼書に加え、趣旨をまとめた企画書を基に、説明しているのはモーリス。

傍らでリオネル、ミリアン、カミーユが内容を確認しながら聞いていた。


ひと通り説明が終わると、エステルが笑顔で頷く。


「成る程! 単にゴブリンの討伐だけでなく、先方の被害状況や要望に応じて、様々なオプションを付けるのですねっ!」


「うむ、私達がキャナール村で実施した事ならば、既に経験則があります。未経験でも相談の上、やれる事は対応します。つまり難儀する方々への様々な手助けを、事前に準備し、ゴブリン討伐とともに行うという趣旨です。当然有料となりますがな……ちなみに、これが実施メニュー例です」


モーリスは言い、企画書とは別に一枚の紙をエステルへ渡す。

紙には、何やら文字がびっしり箇条書きで記されている。


「ふむふむ……農地を外敵から防ぐ防護用の岩壁の建設と整備、荒らされた農地の開墾、畝づくり、作物の種付け、植え付けの各手伝い、灌漑設備建設の協力。ワレバッドの街からの救援資材の輸送と搬入、または依頼地からワレバットへの荷物送付、自警団への武技の指導、昼夜の警備方法の指導、及び周囲のパトロール方法の指導……墓地の除霊、浄化まで? へえ~、結構たくさんあるんですねっ!」


「はい、キャナール村では行いませんでしたし、ご領主様との兼ね合いはありますが、村自体の外壁建設も請け負いましょう。まあ農地に造る防護用岩壁と同じ仕様になりますがな。先ほども言いましたが、メニュー以外の案件も対応可能ならば相談に乗ります。実施料金も『討伐のオプション』という事で、通常どこかへ個別に依頼するよりも、リーズナブルな価格にしようと考えておりますよ」


「わあ♡……これ、本当に素晴らしいアイディアだと思いますよ!」


感嘆し、絶賛するエステルに対し、モーリスは得意満面。

高らかに笑う。


「ははははははは、でしょう! 実は……」


と言いかけたモーリスへ向け、ミリアンとカミーユはジト目の視線。

弟子ふたりから、厳しい非難の目付きをした『アイコンタクト』が、

師匠モーリスへ届く。


モーリスは発した言葉を中断。

慌てて言い直す。


「コ、コホン! うむ! 『リオネル君のアイディア』でしてなっ! 私もたくさんアドバイスしましたよ! はははははははっ!」


「分かりましたっ! ではすぐにクローディーヌ経由で、ブレーズ様へ報告を入れさせて頂きます。本日中のご返事は難しいと思いますので、少々お時間をくださいませっ!」


これは想定内である。

依頼先の事情確認と金銭も絡む事だ。

ギルド上層部の理解と了承、最終的な調整も必要であろうから。


「分かりました。では決定が出たましら、エステル殿から自宅へ、ご連絡をくださるかな。お待ちする間、私達はギルドでのインプットを含め、街中等々、いろいろと別の用事を済ませておきます」


「モーリス様、了解しましたっ! 決定が出ましたら、すぐにご自宅へ、ご連絡を入れるように致しますっ!」


エステルは「はきはき」と返事をし、笑顔で頷いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


調整と決定は、やはりすぐに結論が出ず、少々時間がかかった。

3日後に、エステルから自宅へ、速達で手紙が届いたのである。


開封すると、

「基本線はOK。だが『変更』がある為、更なる打ち合わせが必要、本日、急ぎ受付へ来てください」

……と記載されていた。


という事で、リオネル達はすぐに自宅を出て、ギルド総本部へと赴いた。


受付からエステルを呼び出すと、何故なのか、

サブマスター、ブレーズ専用の応接室へ案内される。


何か、ブレーズから『特別な話』があるのだろうか?


全員で、少し緊張しながら待っていると……

やがてブレーズが現れた。

専任秘書のクローディーヌ、リオネル達の担当のエステルも伴っている。


「皆さん、ごきげんよう。久しぶりですね」


「「「お疲れ様です」」」


ブレーズのあいさつに、リオネル達が応えると、


「早速、本題へ入りましょう。皆さんがご提案した件は、総マスター、ローランド閣下と急ぎ協議を致しました」


伯爵でワレバッドの領主でもある、総マスターローランドと急ぎ協議?


一体、どのような『変更』となるのだろう?


「実は、閣下のご命令で、皆さんがワレバッドへ来た少し後に、キャナール村へウチの職員を数人、旅の商人を装わせ、派遣しました。いわゆる覆面調査ですね」


ローランド閣下の命令で、キャナール村へ、ギルド職員を?

リオネルは驚くが……更に足を延ばしたギルド職員は実はアルエット村も調査していた。

しかしここで敢えてその事実をブレーズは言わない……


「職員に村の様子を確認させましたが、皆さんの言った通りでしたし、さりげなく聞いたところ、村長以下、村民は皆、皆さんに深い感謝の意を示していました」


ブレーズの話を聞き、モーリスが満足そうに頷いた。


「キャナール村の調査報告とともに、協議しましたが、素晴らしいご提案だと閣下も私も感心しました。採用は即座に決定が出ました」


更にブレーズの話は続く。


「時間がかかったのは調整が必要だったからです。……実は今回の依頼先の村は、ローランド閣下が、ワレバッドの街と共に治めていらっしゃる村のひとつでして、皆さんのご提案を全面的に反映させようという話となり、予算を大幅に組み直しました」


全面的に反映?

予算を大幅に組み直した?


これは『キャナール村以上の大仕事』になりそうである。


「王国や貴族、領主の持つ人材だけでは到底手が足りません。今後、様々な町、村の復興、発展に我がギルド所属の冒険者をどんどん起用し、大いに貢献させようという話にもなりまして、今回の依頼遂行はテストケースにもなります。これは我が王国全体の発展にもつながります」


様々な町、村の復興、発展にギルド所属の冒険者をどんどん起用し、大いに貢献させよう?

我が王国全体の発展にもつながる?


話がどんどん大きくなる。

発案者のリオネルは嬉しく期待すると同時に、少し不安にもなる。


そんなリオネルの不安が更に大きくなる。

ブレーズが、前置きしたからである。


「今回、皆さんには申し訳ありませんが……」


申し訳ない?

一体、何だろう?


「当該案件の村には、私と、気心の知れた副官が同行します。『見届け人』としてね。私と副官が経過と結果を確認して、閣下へ報告します」


ローランド閣下へ報告する。


ブレーズは言い切って、軽く息を吐く。


「私と副官が同行するのは、別に堅苦しく監視というわけではありません。今回施策を実施するこの村の事例を見本とし、今後この案件の適用を拡大し、円滑に対応、遂行する為ですよ」


ブレーズは副官を伴い、今後仕切りやすいように、他の村へのテスト事例とする為に、わざわざリオネル達に同行するという。


これは本当に『おおごと』になって来た。


最初から緊張気味のミリアンとカミーユは勿論、さすがのモーリスも身体を硬くしている。


しかし!

ブレーズは一転、表情を変えた。


「まあ、固い言い方はこれくらいにして……本音は皆さんとともに、戦いたくなったのですよ。特にリオネル君の戦いぶりを見届けたくてね」


そう言うと、「いかにも楽しみだ!」という趣きで「にかっ」と笑ったのである。

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