第136話「極意を思い出せ!」

「ちっきしょ! こんな所で死なないぞ! やってやるっす! 俺は戦うっす!  姉さんを守り抜くって決めたっすう!」


無意識のうちに大声で叫んだカミーユは、恐怖を無理やり押さえつけ、ミスリル製、銀色の魔法杖を構える。

リオネルが購入してくれたこの魔法杖は、戦う相手によって使い分けが出来る優れものだ。

今回は不死者アンデッドが相手。

撃て!ショット』と心で念じれば、魔法を使えないカミーユでも、

込められた葬送魔法『昇天』を光弾にした状態で、撃ち出す事が可能なのだ。


「う、撃つぞぉ! 撃つぞぉ! 撃つぞぉぉ!! てめえらあ、撃つぞおおっっ!!!」


カミーユは絶叫する。

彼なりに威嚇したつもりだ。

しかし意思も感情もないゾンビには馬耳東風、沼に杭である。


おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお……


「ちっきしょぉぉ! く、腐った肉の塊のくせにぃ! く、喰われてたまるかあ! 喰われてたまるかよぉぉ!」


開き直り、覚悟を決めたカミーユは、


どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! 

どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! 

どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! どひゅん! 


リオネルからプレゼントされた魔法杖を思い切り乱射していた。

葬送魔法『昇天』の効果は、絶大である。


ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ!

ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ! ぼしゅっ!


ゾンビの動きは緩慢であり、命中率はほぼ100%。

カミーユの魔法杖から放たれた光球を、まともに受けたゾンビは四散、呆気なく消滅した。


「ど、ど、どうだあ! ざ、ざまみろぉ!!」


しかし……魔法杖の装填数は約30発。

好きに撃ち続ければ、すぐ尽きるのは当然であった。


「あ、あれ!? う、う、撃てないぞ!? も、も、もう弾切れかよぉっ!?」


おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお、おおおおおおお……


出現したゾンビの数は100体を楽に超えていた。

まだ7割以上のゾンビが無傷で、カミーユへ迫って来る!


「う、うわあああああっっ!!?? く、来るなあっ!! 来るなあああっっ!!!」


焦り、怯えたカミーユは我を忘れ……

リオネルから貰った小型盾をぶんぶん振り回し、大混乱。

己が習得した破邪聖煌拳の技もすっかりと忘れてしまった。


と、その時。


ぶわっと、カミーユの真横を通り過ぎた人影が、

カミーユの前で、迫り来るゾンビどもに立ちふさがり、


しゃっ! しゃっ! しゃっ! しゃっ! しゃっ! しゃっ!


凄まじい速度で、何度も拳を突き出し続けたのである。


すると!

先ほどゾンビどもが呆気なく、消失したのと同様……

突き出した拳の先に居るゾンビが何体も何体も崩れ去り、消え去った。

これは……葬送魔法と同じ効果だ!


「し、し、師匠ぉぉ! ど、どうしてぇぇっっ!?」


突き出す拳で、ゾンビどもに触れず、塵にして倒したのは……

「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」と告げ、

カミーユをゾンビどもへ放り投げたモーリスであった。


背後からカミーユに駆け寄り、「さっ!」と横を通り過ぎ、

彼を守るようにゾンビどもへ立ちふさがって、拳を何度も神速で突き出したのである。


背を向けたまま、戦いながら、モーリスは叫ぶ。

可愛い弟子に届け! と言わんばかりに声を大きく張り上げる。


「やらせはせんぞ、ゾンビどもぉ! やらせはせん! やらせはせんわあ!」


「し、し、師匠ぉぉ!!」


「カミーユぅ! 可愛いお前を! 深き谷底へ落としたままにはせ~んっ!! この私がぁ! お前の盾となってやるわあ!」


「し、し、師匠ぉぉ!!」


「落ち着けぃ、カミーユぅ! 破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの極意を思い出せぇ! お前にも出来る戦い方があるだろうがあ!」


「えええ!? は、破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの、ご、極意!? お、俺にも出来る戦い方っすかあ!?」


「ああ、お前は魔法を使えない! だが、相手が不死者アンデッド限定なら、そのガントレットで、触れずして、塵に出来るはずだってなあ!」


「へ!? だが、相手が不死者アンデッド限定なら、触れずして塵?」


「カミーユ、しっかりしろっ! 見ろぉ! お前もこういうふうにやるんだあ!」


モーリスは叫ぶと、更に拳を打ち続ける。

言葉通り、彼の拳はゾンビどもに触れていない。

また葬送魔法『昇天』を行使しているのでもない。


専用のガントレットから、気合と共に打ち出す拳から放つ魔力の波動が、

迫り来るゾンビどもを破砕しているのだ。 


モーリスの戦いぶりを見て、ようやくカミーユは『師の教え』を思い出した。


「わう! そうだったっすよ! みんなとは違い、俺は魔法が使えない。だけど、俺みたいな常人でも、破邪聖煌拳で不死者と戦える方法っすね!」


カミーユはそう言うと、ポンと手を叩く。


「人間誰しもが持つ体内魔力を使い、このガントレットに宿る葬送魔法『昇天』を増幅して、拳で打ち出せるって、師匠から教えて貰ったっす!」


「その通りさ。モーリスさんの教えた事をやっと思い出したようだな」


「もう、馬鹿なんだから! 大慌てして、また物忘れの悪い癖が出たでしょ!」


「わ!? リオさん!? 姉さん!?」


いつの間にか、左右それぞれにリオネルとミリアンが立っていた。

カミーユは、前方で戦うモーリスを見る事につい夢中となり、周囲への注意を欠いていたのだ。


「カミーユ、物忘れと同時に、注意力も散漫だ。俺達が敵だったら、お前はやられていたぞ」


「そうよ! カミーユはしばらくリオさんにくっついて、シーフの修行、いえ猛特訓をしなさいよ。リオさんは馬のように速く走るし、リスみたいにすばしっこい。跳躍力も索敵能力も半端ないから♡」


欠点を指摘してくれるリオネル。

優しくアドバイスしてくれる姉ミリアン。


リオネルが、カミーユの心の中を察したように、言う。


「カミーユ、臆し、卑下する事はないさ。お前だけじゃなく、俺も、そしてモーリスさんも、ミリアンも、修行中だ。俺達の人生は全てにおいて永遠に修行が続く、そしてトライアルアンドエラーだ! 但し、命は大事にだぞ!」


「は、はいっす!」


「カミーユ、破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの極意を思い出せたから、もう戦えるわね?」


「はいっす! 姉さん!」


「じゃあ、3人全員で行こう! モーリスさんに加勢するぞっ!」


「OK! リオさん!」

「了解っす! リオさん!」


リオネル、ミリアン、カミーユは、奮戦するモーリスを助けるべく、

ゾンビの群れに向かって行った。

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