第129話「支えて貰っている人には大いに感謝、自分も誰かを助けよう」

「そう言えば……いつか聞こうと思っていたが、リオ君のレベルは、どのくらいなんだね?」


「え、ええっと……」


モーリスから尋ねられ、リオネルはつい口ごもった。


現在リオネルのレベルはカミーユと同じ『15』である。


習得した超が付くレアな『レヴォリューシオ』を始めとした数多のスキル、

同じく超レアな『見よう見まね』で習得したいくつもの動物の能力が、

レベルを著しく底上げしていた。


このスキルが、リオネルの有する恐るべき強さの裏付けとなっている。

但し、その事実は厳秘であり、他人には一切伝えていない。


「リオ君、どうした?」


モーリスは訝しげな表情である。

リオネルが自信をもって、レベルを答えると思っていたらしく、拍子抜けしたようだ。


仕方がない、モーリスとは今後も長く深い付き合いになるだろう。

レベルぐらいは「正直に言わないといけない」と思う。


「実は俺、カミーユと同じで、『レベル15』なんです」


カミーユと同じレベル15!?


「しれっ」とカミングアウトしたリオネル。


当然、モーリスは驚愕した。

『レベル40』の自分をも遥かにしのぐ強者『荒くれぼっち』が、

半人前の愛弟子カミーユと同じ『レベル15』!?


「な、な、な、何ぃ!? カ、カ、カミーユとお、同じ!? レ、レベル15!? ま、ま、まさかあ!?」


思わず声が大きくなりそうになり、モーリスは慌てて自分の口をてでふさいだ。


「いえ、本当の本当なんです」


ここでモーリスは、


「うむむ……これは、あくまでも私の想像と推測だが、もしやとてもレベルアップ速度が遅いのか? い、いや! 違うぞ! もしやリオネル君は……」


「え? もしや俺が何ですか?」


「ああ、君は誰にも告げていない、内緒にしている凄まじい能力があるのではないかね?」


「え?」


「つ、つまりだ! リオネル君はとんでもない秘密の魔法、武技、スキルを隠し持っているのではないかな? そうでないと説明がつかない事が多すぎるよ」


何と!

モーリスは、冒険者ギルド総本部サブマスター、ブレーズ・シャリエとほぼ同じ質問をして来たのである。


リオネルは、ブレーズの時同様、簡単に答えられるわけがない。


「え、ええっと……」


しかし歴史は繰り返されるという。

加えて、モーリスは創世神教会の元・司祭でざんげを聞き慣れており、

思いやりもある常識人であった。


ブレーズ同様、『大人の対応』をしてくれたのである。


「はははは、安心しろ、リオ君……私も気持ちがやっと落ち着いたよ」


「安心って? あ、あの……」


「ははは、うむ! 無理に言う必要はないよ。リオ君が秘するモノは、いわば奥義だろう?」


「……………」


「奥義は強さを追求する術者、武道者にとって、命の次に大切なんだ。当然私にもあるし、君には絶対に言わない。ミリアンとカミーユにも伝えてはいない。だからこれ以上、君の奥義を詮索する気はない」


「あ、ありがとうございます」


「これからもお互いに力を尽くし、多くの人々を助け、その上でしっかり稼ごう! はははははは!」


「は、はい! ありがとうございます!」


良かった!

自分は運が良い!

改めてそう思う。


肉親からは、学校の同級生からは冷たく扱われたが……

自分を思いやる者など皆無だと思っていたが……


「まずは……勇気を出して、自分が変わる事が大切なのだ」

と、身をもって知った今ならば思う。


「たった一歩」でも勇気を出して前へ踏み出せば、

手をつなぎ、引いてくれる人が必ず居る。

「恐る恐る」でも勇気を出してノックをすれば、固く閉ざされていた扉を開けてくれる人も居る。


そう信じて、生きて行きたい。


また自分も、「頼ろうとしてくれる相手」の手をしっかりとつないで引き、

閉ざされた扉を開けてあげたい!


心と身体を歓びに満たしたリオネルは、張り切ってモーリスと依頼の打ち合わせをしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


翌朝……

ぐっすりと眠ったリオネルは、気持良く起床。


モーリス、ミリアン、カミーユとホテルのレストランで朝食を摂った。

ミリアンとカミーユは早く就寝した分、早起きし、冒険者ギルド講座の総合カタログを熟読し、受講する科目を決定したらしい。

リオネルも既に決めているので、エステルが来たら、申し込みをお願いしようと考えていた。


今日は、マルセル、エステルとは本館1階のロビーで待ち合わせをしている。


午前7時過ぎとなり……

リオネル達が本館ロビーへ行けば、窓口が業務を開始した直後であり、

いわゆる『ラッシュ』の状態となっていた。

前述したが、冒険者ギルドの窓口は、午前7時から9時。

夕方5時から7時が旅行でいう『繁忙期』なのである。


「うっわ! 凄い激混みぃ!」

「冒険者だらけ! 押し寄せて来たって感じっす!」


ミリアンとカミーユは、完全に臆していた。

業務カウンターへ殺到する冒険者の誰もが、本能のまま目をギラギラさせていたからだ。


「ど、どうして!? ここまで!?」

「み、みんな目がマジっす! 邪魔する奴は、容赦なく蹴とばすぞ! ってオーラがバリバリっす!」


そんなミリアンとカミーユの疑問に答えたのは師匠であるモーリスだ。


「ははは、皆、生活がかかっているからだよ。必死なんだ」


「え? 生活がかかっいる? 

「必死?」


「ああ、朝一番で少しでも良い依頼を受けて、銅貨1枚でも多く稼ごうと必死なのさ。なあ、リオ君」


モーリスがリオネルに同意を求めた。

対して、リオネルも大きく頷く。


「はい、そうですね」


ふたりの言葉を聞き、ミリアンとカミーユは再び業務カウンターへ殺到する冒険者達を見る。


遂には、怒号まで飛び交い始めていた。


冒険者はここまで厳しいのだと、ミリアンとカミーユへ、リアルな現実が迫って来る……


「じゃ、じゃあ、私達……面倒な手続きなしで登録して貰って、ランク判定試験も受けて、無事冒険者になれて、講座も受けさせて貰えて……」

「ホテルに泊まって、素敵な家に住めて、好きに買い物もさせて貰って、師匠とリオさんのお陰で優遇されてるっすか?」


「ああ、そうかもしれん。日々、無事に暮らしていける事を創世神様に感謝だな」

「俺もモーリスさんに同意だ。冒険者になって初めて、現実は厳しいって知ったんだ。創世神様は勿論、日々、支えて貰っている人には大いに感謝、自分も誰かを助けよう、この気持ちを忘れてはいけない……そう思うよ」


混雑を避けて、フロアの隅にあるロビーの長椅子に座り、リオネル達4人がそんな話をしていると……マルセルとエステルが、


「おはようございます!」

「おっはよ~ございますう!」


と元気な挨拶をし、現れた。


マルセルとエステルはずっと4人の為に尽力してくれている。

仕事の枠を遥かに超えるくらい、お世話になっている……


すかさず4人も、


「「「「おはようございます! 今日も宜しくお願い致します!」」」」


負けないくらい元気に、感謝の気持ちを込め、挨拶をしたのである。

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