第128話「君のレベルは、どのくらいなんだね?」

不動産部のマルセル、業務部のエステルふたりの職員のナイスなフォローにより……

買い物も無事済み、リオネル達一行は冒険者ギルド総本部敷地内のホテルへと戻って来た。


朝、集合場所にしたホテルの1階ロビーで解散、マルセルとエステルは『業務終了』となる。


「では、モーリス様。明日新居の賃貸本契約書をお持ちします。お渡しした仮契約書と内容は同じですから、念の為、ご確認をお願い致します。ちなみに本日ご購入された家具等の荷物はお決めになった物件へ送るよう手配をしておきます」


「ミリアンさん、カミーユ君、私の方は明日講座の申し込みを致しま~す。今夜中に決めて、カタログに記載し、私へご提出くださいねぇ! あ、モーリス様とリオネル様もご希望があれば受け付けますので、ご遠慮なくう!」


という事で、ふたりは一礼して去って行った。


去ってゆくふたりを見ながら、リオネルとモーリスは感心しきりである。


「おふたりとも、本当に良く働いてくれますね。サブマスター秘書のクローディーヌさんも有能な方ですし」


「うむ! 全くだよ、リオ君。サブマスター殿の目利きも凄い! ケアして貰うこちらもしっかり対応しないと。私は新居の仮契約書に目を通し、内容を再確認しよう」


「じゃあ俺も、何か講座を受けたいので総合カタログを確認します」


リオネルの「何か講座を受けたいので総合カタログを確認」という言葉に反応。


「あ! 私もリオさんと、希望する講座をもう一回チェックするう!」

「俺も受けたい講座を再チェックするっすう!」


ミリアンとカミーユのモチベーションはぐんぐんアップ。

やる気満々である。


モーリスがリオネルへ言う。


「リオ君、お互いの確認が終わったら、これからふたりで受諾する依頼の打ち合わせと完遂までのシミュレーションをしておこう。依頼案件のサンプル一覧を再チェックだ。念の為に言っておくが、昨夜のファイアドレイクと吸血鬼の始祖はNGだからな」


「わっかりました。モーリスさんとふたりで、『完遂可能な依頼』を選んでバトルのイメージトレーニングもしましょう」


「うふふ! 話がまとまったところで、お夕飯にしましょ! ホテルのレストランへGO!」

「そうっす! このホテルのレストラン、雰囲気が良いし、美味しいっす!」


育ち盛りのミリアンとカミーユが促し、4人はホテルのレストランで夕食を摂ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


昨日、冒険者登録とランク判定試験で気疲れしたミリアンとカミーユは……

適温のシャワーを浴びたら、しばしリオネルと講座の総合カタログ見た後、

あっという間に寝てしまった。


新居候補3軒の外装チェックと内見、何軒もの店で大量の買い物……で疲れていたに違いない。

ふたりは今日も「バタンキュー」と速攻で寝てしまったのだ


ぐっすり眠るミリアンとカミーユの傍らで……

リオネルとモーリスは、これから受諾するであろう依頼の打ち合わせをしていた。

ふたりの言う依頼完遂までのシミュレーションとバトルのイメージトレーニングである。


リオネルは、依頼案件のサンプル一覧を入念に見直している。

何か気になる依頼を見つけたようである。


「おっ、モーリスさん」


「ん?」


「これって、どうですか? 石化の害為すコカトリスの大群約100匹を、完全討伐条件で金貨1,000枚っていうの」


「ごら! 何言ってる! 無理だ、無理!」


「ははは、冗談ですよ」


「リオ君が言うと、全然冗談に聞こえんわい」


「では、農村を襲うゴブリン300体とか、同じくオーク100体ってのを、トレーニング代わりにどうですか? キャナール村同様、人助けにもなりますし、やりがいがありますよ」


「うお! ゴブリン300体、オーク100体だとぉ!? とは……いっても、ファイアドレイク、吸血鬼の始祖、コカトリスの大群に比べれば全然マシか? でもそれっていつの間にか私がリオ君に『洗脳』されている気がするぞ」


「嫌だなあ、モーリスさん。いつの間にか『洗脳』なんて人聞きが悪い。ゴブリン300体はキャナール村でクリアしていますし、実は俺、オーク100体とも戦った事がありますから」


「おいおい、実はオーク100体とも戦った事があるって……聞いとらんぞ、それ」


「すんません、言うの忘れていました」


「はあ? 忘れていたって、あのなあ……」


「ギルドの業務担当者に詳しい話を聞かないと内容と状況が分かりませんけど、確認する価値はあると思います」


「は、ははは、ま、まあそうだな。命は大事には絶対のモットーだが……冒険者はトライアルアンドエラーだし、虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うか、大金を稼ぐのはリスクがつきものだ」


「はい、全くですね」


「と、いう事で改めて依頼の検討をしようか。とりあえず臨時のメンバーを雇用せず、私とリオ君でクランを組もう」


「了解です」


臨時のメンバーを雇用せず……か。

俺だって『正式な仲間』じゃないけれど……

今更、そんな事を言ったら、顔面にパンチが飛んで来そうだ。


そっと苦笑するリオネルをよそに、モーリスは言う。

先ほどリオネルが告げた、『ゴブリンとオークの討伐案件』を再考したらしい。


何度も「うんうん」と頷いている。


「むうう……ゴブリン300体とオーク100体は一応検討の範囲内に入れるかあ……常識的に考えれば、ふたりでは絶対に無理なんだが、荒くれぼっちのリオ君が居るからな」


「頑張りまっす」


「はは、まあ、リオ君の言う通り、依頼の内容と状況次第だ。相手をぐっとスケールダウンさせればいけるかもなあ……」


モーリスとふたりで組むのなら、ミリアンとカミーユを伴う時と、また戦い方が違って来る。

人数は減るが、戦法次第では、やりやすくなるかもしれない。


「ですね! ……あの、俺、戦った事がないんですけど、オーガって、どうですか?」


「むう、オーガかあ……」


補足しよう。

オーガとはゴブリン、オーク同様『堕ちた妖精のなれの果て』といわれる凶悪な魔物だ。

オークやゴブリンより遥かに大きな体躯をしており、ノーマルタイプでも大型の個体は身長3m以上5mにも達する。


大きな角と鋭い牙を持ち、人間を好んで喰らう捕食獣でもある。

魔法は使えず、凄まじい膂力で殴打するのが最大の攻撃。

簡単な打撃武器を使う個体も居る。


冒険者ギルドの資料では、ノーマルタイプで『レベル25』以上とされる強敵である。


「ふむ、ノーマルタイプでも『レベル25』以上の強敵だ。私はある大きなクランの一員として戦った事があるが、まともにパンチを喰らうと致命傷になる。皮膚も鉄鎧のように頑丈で厚いし、人間は、奴らの急所を狙うクリティカルヒット狙いか、当たりの多さと素早さで対抗するしかないな」


「成る程ですね。オーガはノーマルタイプでも『レベル25』以上かあ……」


リオネルのつぶやきを聞き、モーリスは、


「そう言えば……いつか聞こうと思っていたが、リオ君」


「は、はあ」


「君のレベルは、どのくらいなんだね?」


柔らかく微笑みながら、尋ねて来たのである。

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