第69話「洞窟最奥の敵」

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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルはオークが巣食っていた『洞窟』へ足を踏み入れた。


相手の居る位置が遠くてはっきりしないが……

やはり『何か』の気配を感じる。


あのおぞましい殺意の波動を送り、リオネルを挑発。

そして「この洞窟へ来なければ、人間を皆殺しにする」と脅迫して来た奴なのだろうか?


リオネルは、改めて気持ちを引き締め、考える。


他のオークどもが殆どが、いぶり出されたというのに……

魔導発煙筒の強力な唐辛子白煙でも、洞窟外へ出て来なかったという事は、

そいつは何とか耐えたのか、それとも無効化したのか……


どちらにしろ、そいつがオークの上位種だとしたら、並みのオークより頑健、

耐久力が全然、上なのだろう。


昨日、入り口から中を覗き込んだから、洞窟の雰囲気は分かっている。

奥を見てみれば、岩だらけの暗い無機質な空間が広がっていた。


初めての洞窟探索ではない。

ゴブリン渓谷での洞窟探索、戦闘経験が活きていた。


それにリオネルには『猫の目』がある。

有効に活用するつもりだ。


……これには裏話がある。


人間より抜群に夜目が利くというその能力を習得した時、リオネルは素直に喜んだ。

野戦や夜間の探索、暗所つまり迷宮や遺跡の探索に便利だからだ。

でも少しだけ気になり、念の為、調べてみた。


悪い意味で『勘』は当たった。


ギルドの図書館で読んだ書物によれば……

猫は人間同様に、完全な真っ暗闇の中では何も見えないらしい。


光を反射する人間の目と違い、猫の目はわずかな光量を取り入れ、暗い夜でも見やすくなるという仕様らしいのである。

つまりわずかでも『光量』が必要であり、『ゼロ』だと見えないのだという。


研究熱心なリオネルは締め切った窓のない真っ暗闇の部屋で自ら試し、事前に確認していた。

残念ながら、やはり……何も見えなかった。


少しショックだった。

猫の夜目は『無用の長物』になるかと危惧した。


真っ暗闇では、猫の夜目でさえ何も見えない。

だからリオネルは考えた。

猫が必要な『わずかな光量』があれば良いのだと。


具体的な方法も考えた。

冒険者ギルドの迷宮探索講座で学び、習得した探索用の照明魔法『魔導光球』がある。

魔力を光球に変換し、空間へ飛ばす魔法である。

この『魔導光球』を、魔力を抑えて思い切り照度を落としたレベルで生成し、放つのだ。

『魔導光球』のわずかな光量で、猫の夜目は使えるはず……


そして、何度かテストした後、それらをゴブリン渓谷の洞窟において、

実地で試したのである。


……結果、大成功した。

リオネルが大喜びしたのはいうまでもない。

これで、猫の夜目は完全に、有意義に使えると確信したのだ。


そう!

この洞窟では、同じ方法を取る。


更に『索敵』『鷲の目』を加え、反則ともいえる合わせ技で洞窟を、探索調査する。

そして迷った時の対策も万全である。


洞窟の入り口に『帰還マーキング』を施しておく。

『帰還マーキング』とは、同じく冒険者ギルドの迷宮探索講座で習った方法のひとつである。

簡単に行える割には、中々の優れモノなのである。


具体的に説明すれば……

このような洞窟、迷宮の出入り口、そして途中の任意の場所へ、

魔力を込めた『マーキング印』を施しておく。

帰還する際、『魔導光球』を放ち、マーキング印へ向かうよう命じれば、双方が反応し合い、道に迷った術者を導いてくれるのである。


さてさて!

説明はこれくらいにして、洞窟探索の開始だ!


『ルークス!』


ぽわ!

リオネルが照明魔法の言霊ことだまを念じると、極力魔力を抑えた『魔導光球』がそっと闇に浮かび上がった。


よし、上手く行った!

やっぱり照明魔法……ゴブリン渓谷で散々「練習」しておいて良かった!

そして、猫の能力夜目以外も最大限使ってやる!


行け!

リオネルが命じると、魔導光球はゆっくりと移動を開始した。


リオネルは、大きく頷くと猫の夜目を使って先を見通し、猫の忍び足で音も立てず、静かに歩き出したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルが覚醒する前……

彼は探索スキルを、ほぼ『索敵』の魔法のみに頼っていた。

相手の放つ魔力を感知し、存在と位置を捉えるものである。

だが、その探索もひどく低レベルで、100m以内が有効範囲というとても頼りないものであった。


しかし、チートスキル『エヴォリューシオ』習得の影響だろうか……

戦いの経験を積むうちに『索敵』の有効範囲がどんどん広がり遂には5倍、500m以内に広がった。


更に『見よう見まね』で動物の能力を得ると、五感も一気に鋭くなり、敵の気配を察知するのはお手の物。

猫の夜目、忍び足、鷲の目、兎のジャンプ力、栗鼠の敏捷さ、狼、馬の走行速度、

犬の嗅覚まで有している。

こうなると魔法、戦闘のみでなく、

クラン内の斥候役、シーフも充分任せられるほどの実力を有していた。

後は宝箱の罠と施錠、各解除さえ習得すれば、どこのクランからも引く手あまたに違いない。


また話がそれてしまった……元に戻そう。


わずかな照度の『魔導光球』がふわふわと洞窟の奥へ飛び、進み……

その約100m後……

ほぼ暗闇という中、リオネルは遮蔽物、妨害物を巧みに避け、軽やかに歩いて行く。


洞窟へ入って少し進んだ場所に……

リオネルが昨日放り込んだ『魔導発煙筒』の残骸がいくつかあった。

どれも「ぺっしゃんこ」に潰れている。

どこかのオークが「コノヤロー!」とばかり、踏みつぶしたに違いない。


残骸を回収し、苦笑。

リオネルは更に進んで行く。


この洞窟……広いけど、底なしというほどじゃない。

曖昧な感覚だが、リオネルはそう捉えていた。


ただ結構入りくんでいるから、迷うと広く感じるかも……

多分クレマンが言っていた、昔この洞窟へ入ったアルエット村民は、ぐるぐる回って広く感じたのかもしれない。


そんな事を考えながら、注意しながら歩いて行くと、やはり最奥に大きな気配を感じる。


これは、敵が……近い……


リオネルは闇の中、少しずつ体内魔力を上げながら、ゆっくりと近付いて行く。

うごめく『敵』の気配を読み取りながら……


暗闇でも、遠くを見渡す鷲の目が行使可能なリオネルのチート視力が捉えた先、

洞窟の最奥に居たのは……

体長3m、体重は300㎏を楽々超える巨体を持つオークの上位種が1体!!


大物と言われる『レベル35以上』の、『オークカーネル』!!!だったのである。

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