第60話「本気の波動」
地面に座り込んで男泣きした後……クレマンは
リオネルは黙って聞く事にした。
「ワシはエレーヌを奪った冒険者の男が憎かった。結婚後に調べさせたら、男は誠実で真面目、ふたりは幸せだという話を聞いた。でも! ワシはあいつの母親が亡くなった後、男手ひとつで育てて来たのだ! 認める事など絶対に出来なかった!」
「……………」
「やがてアンナが生まれ、3人は王都でとても幸せに暮らしていると聞いた。村へ残されたように暮らすワシだけが何故、ひとりでこんな目に? という自問自答のうつうつとした毎日だった……」
「……………」
「そしてあの男は死んだのだ! エレーヌとアンナを残してな! 心の底から後悔した! もしもワシが早く決断すれば! 結婚を許してやれば! アルエット村で皆、一緒に幸せに暮らす事が出来た! ワシが3人の幸せをぶち壊したのだ!」
「……………」
「だが……エレーヌとアンナが村へ戻って来て、逆にワシはひどく意固地になった! 素直には、なれなかった!」
「……………」
そろそろ頃合いだろう。
リオネルは口を開く。
「……村長、俺みたいな若造が偉そうに言って、不愉快かもしれません。だがお願いします。聞いてください」
「……………」
「今さら悔やんでも……時間は二度と戻らない。今出来る事を最大限頑張って、娘さんとお孫さんを幸せにするしかないですよ」
対して、クレマンは素直だった。
リオネルの意見を、すぐ受け入れたのだ。
「……分かりました、リオネルさん。ありがとうございます……エレーヌとアンナには、もう許して貰えんかもしれません。ですが、頑なに意地を張ったワシが、本当に悪かったと 誠意をもって一生懸命に謝まります」
「ええ、村長から切り出せば、話し合えるはずですよ」
「はい、村へ戻ったら、エレーヌとアンナのふたりと話し合い、和解するよう全力を尽くします」
リオネルに労わられ、気を取り直して立ち上がり、クレマンは約束した。
そして真剣な眼差しで、
「ワシの最愛の宝、エレーヌとアンナをオークどもから助けてくれた貴方を信じましょう。ふたりを含めた村民を守る為、命を懸け、身体を張る貴方へ、何も聞かず、村長として、ワシも命を預けましょう」
そう、言い切ってくれた。
クレマンからは『本気の波動』が伝わって来る。
翻意する事は……ないだろう。
村へ戻ったら、クレマン、エレーヌ、アンナの関係改善に協力はしたいと思う。
しかし、ここで軽はずみな事は言えない。
安易な約束もまずい。
それにまずは洞窟に潜むオークを討伐し、村へ「のしかかるリスク」を軽減する方が先である。
後は、事を上手く運ぶだけ……
遂にリオネルの作戦が発動するのだ。
「ありがとうございます。では早速、作戦の開始です。申し訳ありませんが、少しの間、村長には眠って頂きます」
「……分かりました。不安はすこしありますが、煮るなり焼くなり、どうぞお願いします」
「ははは、人喰いの魔物じゃあるまいし、そんな事はしません。……では行きますよ」
リオネルは、特異スキル『フォースドターミネィション』レベル補正プラス15―
『強制終了』を行使する。
クレマンは瞬殺!
……ではなく、あっさりと気絶し、活動不能となった。
崩れ落ちるクレマンをそっと抱き留め、リオネルは左手に装着した『収納の腕輪』を発動させる言霊『搬入』を唱えた。
気を失ったクレマンの身体が、腕輪に収納され、煙のように消えた。
先日、強盗で実験済み。
搬出と唱えれば、また無事に戻せる。
これでリオネルに万が一、何かない限り、腕輪が損傷しないよう気を付ければ……
クレマンに危険は及ばない。
「よっし! 次に作戦本部……いや、『秘密基地』の確認だ」
子供の頃を思い出したクレマンの記憶によれば……
木伝いに丘のてっぺんへ行ける。
この丘の頂上は、親に隠れ『秘密基地』として遊んだ場所……
真下が見下ろせて、大人3人くらいなら、寝そべる事が出来た。
丘の後ろは切り立った崖で結構怖かった……との事だった……
登る木は……あれか!
リオネルの視線に捉えられたのは、丘の傍に生えている数本の木だ。
今や木登りのプロ?となったリオネルには、すぐ登って丘の頂上に接続するイメージが湧き上がった。
たたた!と走り、リオネルはするする!と木に登った。
リスの木登り術が全開、ぱっ!と丘の頂上へ飛び移る。
リオネルは丘の頂上を歩いて見た。
大人が数人余裕をもって寝そべる事が可能、10mちょっとの高さがあり、洞窟を見下ろせた。
この高さなら、楽に飛び降りる事が出来る。
裏側は切り立った
ゴブリン同様、オークなら飛び道具を使う心配はないし、
「空を飛ぶ」とか「浮く」とかしない限り、越えて来るのは不可能だ。
小さな子供なら、相当怖いに違いない。
「お~、クレマンさんが言った通りだな」
リオネルは改めて行う作戦をイメージする。
眼下のオークどもへ魔法で攻撃可能、背後から攻められる可能性はほぼないし、
オークが木登り上手と聞いた事はない。
じっくりとオークどもを攻める事が可能だ。
具体的には、ゴブリン渓谷の初戦と同じである。
スキルを使って、
遠距離魔法攻撃で敵を減らし、降下して白兵戦、魔力回復、丘へ撤退の繰り返しを行う事とする。
丘への投石や乱入は防御魔法『風壁』で防げる。
ヤバくなった時は、クレマンさんを再び腕輪へ収納する。
そのまま飛び降りて、全速力でダッシュすれば、オークどもは追いつけないだろう。
99%振り切れる。
これで、万が一の『撤退イメージ』もバッチリだ。
しかし、予定は未定。
クレマンも居るから、臨機応変で行く……
「ふっ、この秘密基地で、いっちょ、やってやるか」
『秘密基地の確認』を終えたリオネルは、不敵に笑ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
約15分後……
クレマンは意識を取り戻した。
実は……
リオネルが特異スキル『リブート』レベル補正プラス15――『再起動』を行使し、
目覚めさせたのである。
クレマンが気が付いて半身を起こせば……
眼前には過ぎ去った子供の頃……
懐かしい「今は亡き友たちと、はしゃいで眺めた景色」が広がっていた。
そう!
今クレマンは、幼き子供の時『秘密基地』ごっこをして遊んだ洞窟のある丘の頂上に、寝かされていたのだ。
「お、おお! こ、こ、この場所はっ!? ワシはどうして登れたのだ!?」
傍らには、リオネルが居た。
柔らかく微笑んでいる。
「気が付きましたか、村長」
「あ、ああ」
「ちょっち早いですが、今のうち昼飯を食べましょう」
「昼飯?」
「ええ、エレーヌさんとアンナちゃんが弁当を作ってくれました」
リオネルの言葉を聞き、クレマンは大人げなく……すねた。
「ふ、ふん……そうですか、良かったですね。勝手に食べてくださいよ」
不貞腐れた村長を見て、リオネルは悪戯っぽく笑っている。
ふと、父から聞いた『自分の祖父』の話を思い出した。
クレマン同様、相当頑固な人物だったらしい……
「村長の分もありますよ」
「な、何? ほ、本当ですか?」
「ええ、ほら」
リオネルがバッグから出して見せた包みはふたつあった。
はっきりした。
クレマンは改めて『和解を確信』した。
愛娘と愛孫が自分を心配してくれたのは本当だったと。
そして、弁当を用意する気遣いもしてくれたのが嬉しい!
心が温かくなったクレマンの顔が、大きな喜びに輝く。
「うお!」
「飲み物は冷たい紅茶もありますから、一緒に食べましょう」
「おおお、ありがとうございます! た、食べましょう!!」
更にリオネルは、バッグから冷たい紅茶入りの魔導水筒、マグカップをふたつ出す。
クレマンへ普通に座るように指示し、自分も座る。
マグカップへ紅茶を注ぎ、クレマンへ渡した。
こうして、ふたりは激戦前……
エレーヌとアンナの『手作り弁当』を仲良くふたりで食べたのである。
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