第38話「ほんのひと時のモテ期!女子だけ!スペシャルな送別会!」

遂に、リオネルが王都を出発する日の前日……

いつものように冒険者ギルドへ赴いたリオネルは、何と!

ギルドマスター室へ呼び出されていた。

部屋に居るのは、ギルドマスターとサブマスターのふたりである。


まずギルドマスターが、


「リオネル君、いよいよ明日旅立つんだね」


「はい」


「冒険者の街ワレバットへ行くらしいが、私から推薦状を書いておこう。ここまでの短期間でランカーとなった君ならばすぐにランクA、いや、それ以上の存在になれると信じているよ」


と、言えばサブマスターも。


「マスターのおっしゃる通り、君は相当な器だ。典型的な大器晩成型だと思う。頑張れよ」


と激励してくれた。


「ありがとうございます! おふたりのお言葉を励みにして頑張ります!」


……推薦状を貰い、ギルドマスター室を辞去したリオネルは1階フロアへ。

ナタリーから声をかけられた。


「リオネルさん、今日、宜しくね」


「は、はい」


信じられない事が起きていた。

何と何と!!

数日前にナタリーから食事を誘われたのだ。


但し、一対一ではない。


ナタリーが『発起人』として声をかけ、彼女の先輩同期後輩を含めたギルド女子職員有志が参加。

リオネルの為に、ささやかな『送別会』をセッティングしてくれたのである。


ふたりきりの食事ではないのが、少し残念ではあった。

だが、彼女居ない歴18年、女子との飲み会も未経験のリオネルにとっては、

信じられない『大事件』だったのである。


ただひとつだけ……

凄く恐れ多いかもしれないが、出発前日の夜は父親代わりのアンセルムとじっくり飲み明かしたいという気持ちだった。


しかし、リオネルが事情を話すと……

アンセルムは快く「行ってこい! ギルド女子職員有志と飲み会なんて、滅多にない機会だ。その送別会の前の日に、俺と飲もう」そう、言ってくれた。


「女子だけなんて、まるでハーレムじゃないか」と言って笑ってもくれた。

そういう事で昨夜は、宿においてアンセルムとの『送別会』を行っている。


さすがに今日は午後のゴブリン討伐は『お休み』とし……

リオネルはギルドの図書館勉強で時間を潰した。


営業時間終了後、女子職員7人と一緒にギルドを出ると……

普段は行かないような『お洒落なカフェレストラン』へ連れていかれた。


今夜のメンバーは一番若い20歳女子を含めて、皆、リオネルよりは年上。

『お姉様達』全員から『可愛い弟』扱いされてしまう。

ちなみに20代前半のナタリーは、メンバー中、年齢が中間といったところ。


ナタリーが選んでくれた店は雰囲気だけでなく、料理も酒も美味しかった。

美しき女子達に囲まれ、リオネルは夢見心地である。


女子達は、リオネルのプロフィールをいろいろと尋ねて来る。


『リオネルの真の事情』を知る者は、ギルドの幹部のみと聞いた。

あの場にナタリーも居たから、彼女も知っている。

その場で、幹部からナタリーへは厳重に『かん口令』が敷かれていた。


それゆえ、ナタリー以外の女子職員達には、リオネルの本名及びプロフィール、勘当と追放の経緯は話せない。

申し訳ないと思ったが、適当にお茶を濁しておく。

「王都一般市民の子で、魔法学校を卒業したが、自分の力に納得が行かない。だから実力を磨く為、騎士のように修行の旅へ出る」と答えた。


宴たけなわ、酔いが回る中……

メンバーの中でも勘が鋭いひとりが、いきなり突っ込んだ。

20代後半の『お姉様』という美人タイプである。


「うふふ、リオネル君、ナタリーの事好きだったでしょ?」


ここは……どう答えれば良いのだろう。

リオネルは戸惑い、口ごもる。


「……ええっと……何と言うのか……」


「ふふふ、白状しなさい。はたから見ててバレバレだったわよ!」


「うう~ん……」


「ほらほら、男子は度胸でしょ!」


「そうだ! そうだ!」

「言っちゃえ! 言っちゃえ! 告白! 告白タイムぅ!」


他の女子達からもガンガンあおられ……

リオネルは散々迷った挙句、後悔したくないと思い……正直に答える。


「は、はい! 実は俺、好きでした! ナタリーさんの事、凄く憧れてました」


「えええっ!? ほ、本当に!? ……そ、そうだったんだ」


対して、ナタリーは大いに驚いた。

彼女の中でリオネルは、やはり恋愛対象では、なかったのである。


「でも……私にとって、リオネルさんは、やっぱり『弟』かなあ……ごめんなさい」


このナタリーのリアクションに対し、女子職員達は、冗談気味に非難ごうごう?


「ナタリーったら! 超、ニブすぎるぅ!」

「北風のように、ぴゅうぴゅう冷たい!」

「何、年下の純情男子はダメなのぉ!?」等々、厳しい突っ込みが相次いだ。


そして別のひとりが、


「ひたむきで真面目に頑張るリオネル君って、本当に素敵! つれない鈍感ナタリーなんかほっといて! 王都へ戻って来たら、私が恋人に立候補する」などと言い出した。


すると、酔いも手伝ってか、何人もが、


「私も!」「私も!」「私も!」


と同調し、場は最高に盛り上がってしまう。


その場のノリと酒のせいだと感じながらも、照れるリオネル。

こんなに嬉しい『モテ期』は「人生でもう二度とない」とも思ってしまう。


ナタリーに振られた傷は、けして癒えないのだが……

前を向かねばならない。


最後に女子職員達は、リオネルへ激励の熱いエールを送ってくれた。


「「「「頑張れ、頑張れ、リオネルっ! ファイト! ゴー!」」」」


「皆さん、ありがとうございます。今夜の事は一生忘れません! 俺、頑張ります!」


リオネルは女子職員達へ丁寧に礼を言い……

アゲアゲの先輩、同期、後輩を見て苦笑するナタリーへ……


「ナタリーさん、いろいろありがとうございました。お元気で!」


リオネルは深く頭を下げ、改めてナタリーへ、今まで世話になった礼を言い、

けじめの「別れを告げた」のである。

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