第39話「準備OK! 故郷よ、さらば!」

出発する1週間ほど前から、リオネルは旅の準備を始めた。


まずリオネルは収納の腕輪に仕舞ってあったゴブリンの死骸の半分以上を、

段階的に分け、現金に換えた。


そして、スライムの草原で狩ったウサギは、アンセルムに渡した以外にも相当ある。

旅先での非常食としてキープしているのだ。


リオネルはアンセルムにアドバイスをして貰い、旅の準備をした。

几帳面な性格なので、リストを一覧表化し、ひとつひとつ綿密にチェックした。

不足しているものは、金を惜しまず買い求める。


予備のスクラマサクス、ハンティングナイフ。

そして打撃武器の講習を受けたのでメイス、こん棒。

戦闘シーンのTPOを考えて手斧とのこぎりも。


手斧とのこぎりは木材伐採にも使える。


盾、兜付きの革鎧、膝当てに靴。

……全てを、予備も考え、各2セットずつ。


魔法使いらしい法衣ローブ、普段着のブリオーも2着ずつ用意した。

洒落た帽子も数種入れておいた。


衣服はTPOを考えて、使うつもりだ。

シャツ、パンツなどの下着、靴下も多めに用意しておく。


野外で暮らす為のテント、毛布、寝袋、魔導防水シート、魔導ランプ、ロープ等のサバイバルグッズ。

寝袋と毛布は予備も入れておく。


大量の食料に、紅茶の茶葉、塩、砂糖、スパイスなどいろいろな調味料。

木製の大樽に入った水、同じくワイン。

思いついて、菓子も数種入れておく。


小型の携帯用魔導コンロも購入した。

魔力で簡単に発火出来る優れモノだ。

火力もあるから、煮炊き焼き物なんでもござれだ。


万が一、コンロが故障しても大丈夫。

生活魔法の『点火』は、実家でこきつかわれた時に、調理で散々使って慣れている。

アンセルムの宿屋で調理手伝いをした時にも使った。

またチートスキル『ボーダーレス』のお陰で、従来の風属性以外、火属性魔法を覚えたのは幸いでもある。


金属製の鍋、フライパン、食器、マグカップ、同スプーン、フォーク、ナイフなど数種のカトラリー。

串焼きに使う鉄串も入れておく。

アンセルムを師匠とし、習得した調理はバッチリである。


体力回復薬、魔力回復薬、毒消しを始めとした様々な薬もたっぷり。

邪悪なる存在を払う聖水も忘れない。


既に用意した物も含め、買い込んだ大部分の荷物は、収納の腕輪へ放り込む。

これだけ買い物しても、収納の腕輪の容量は全然楽勝、まだまだ余力がある。


ふと、思いつき、人力で引っ張るタイプの大きめで頑丈な『荷車』も買った。

旅先で、人間や荷物を運ぶのに便利だと考えたからだ。


ギルドでたくさんの講座受講、買い物等で結構な金を使ったし、

買い物の費用も相当なものだ。


しかし全てが自分の為の投資で、必要な経費だ。

後々役に立つだろうし、全く惜しくはなかった。


改めて計算したら、所持金の残りは金貨2,000枚以上あった。

全て自分で稼いだと思ったら、誇らしい。

今でも信じられないくらいだ。


旅の資金は充分だし、将来の為に、貯金もする事にした。

冒険者は実入りも相当あるが、リスクも非常に大きい。


「体力が立ち行かなくなれば、知力が回らなくなれば、度胸がなくなれば、冒険者は引退しなければならない」

『父』として、『兄』として、『冒険者の大先輩』として……

尊敬し慕う元冒険者のアンセルムからは、そう口酸っぱく言われているからだ。


曖昧にしないよう、別に大きな布袋を用意し、使う金と分け、別個にする。

とりあえず金貨1,800枚を入れておく。

金貨200枚余りが、旅の費用だ。


道中の恰好はいつもの革鎧に決めた。

新調した革兜を被り、左腰から愛用の切れ味鋭い幅広スクラマサクス、

右腰には収納の腕輪に入れたのとは違うやや細身な樫のこん棒を提げた。


手甲兼用の小さな盾を左肩へ装着する。

シールドバッシュの爽快さに笑みが浮かぶ。


左手には収納の腕輪を、右手人差し指には回復の指輪も忘れない。

両方とも、アンセルムから貰った一生の宝物だ。


更に両肩からかけるタイプの水筒付きバッグを背負う。

当座で使う荷物は、このバッグに入れるのだ。


そしてベルトにつけるタイプの物入れ。

ここには少しの現金を入れた財布、母の形見である愛用の魔導懐中時計、身元を示す冒険者ギルドの所属登録証、王国の地図等を入れておく。


慎重なリオネルは、数日をかけ、何度もリストをチェック。

装備と荷物を確認。

……結果、不足しているものや、漏れはなかった。


これで、準備OK! 

故郷よ、さらば!


当日の朝、宿で朝食を摂ると……

相変わらず多忙なアンセルムへ見送りを断った。


アンセルムもリオネルの旅立ちだというのに、淡々としていた。

抱き合って別れを惜しむなど『演出』は一切なかった。


先日……

リオネルとアンセルムは、心の絆を深めた『別れの盃』を交わしていたからだ。


「アンセルムさん、行ってきます!」


「おう、リオ。行って来い! またなっ!」


長い旅に出て当分は会えないというのに……

また明日もいつも通りに顔を合わせるような……

親しい肉親同士が気軽に挨拶をする。


アンセルムと、あっさりしたそんな別れの『やりとり』をし……

リオネルは元気良く宿を出たのである。

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