第41話「無理をせず、ちょっとひと休み」
「ははは、いつも通る道とは全然違う綺麗な道だなあ……これが王国街道って奴かあ……」
王都オルドルを旅立ったリオネルは、新鮮な気持ちで街道を歩いている。
見上げれば、相変わらず天気は快晴。
雲ひとつない真っ青な大空が広がっていた。
そよぐ風が頬に心地よい。
足取りも軽やかになる。
そして習得した『狼』及び『馬』の能力が後押しし、やや速足で歩いていても全く疲れない。
リオネルが、冒険者デビューしての約1か月は……
王都の正門から人けのない草原へ、その草原から更に奥の森の『狩場』へ、
獣道に近い荒れた道を歩き、または走っていた。
更にまた奥の『ゴブリン渓谷』へ続く道は更に険しく、森の中へ分け入るような趣きで、道と判別出来ない事も度々あった。
しかし今歩いている道は全く違う。
冒険者の街『ワレバット』へ向かうソヴァール王国の正式な街道『王国街道』である。
左右10m以上ある幅広い道に石畳が隙間なく敷き詰められ、
ぬかるまないようきちんと整備されている。
通行量も比較にならないほど多い。
一般市民の旅人、商人が多いが、武者修行らしき若い騎士、傭兵、冒険者なども見かけた。
いろいろと交通手段を考え、迷いに迷ったが……
今回、リオネルは敢えて乗り物を頼まなかった。
体力トレーニングも兼ね、歩いてワレバットまでいくつもりだ。
近場ならばともかく、長距離移動の場合、基本的には馬車、もしくは馬、ロバなどを使い移動する。
リオネルのように、100㎞以上を徒歩で旅する者は、経済的に余裕がない場合が多い。
また街道は、基本的には左側通行である。
万が一、害するような者が出没し、いきなり襲い掛かって来ても右手の武器で受け止められるからだと言われていた。
この世界では、外壁に守られた大きな街から出ると、治安が相当悪い。
ゴブリン、オーク、オーガなど人間を捕食する魔物は勿論、人間や他種族の賊、
追いはぎ、強盗、山賊などが、情け容赦なく襲って来るのだ。
その為に旅人や商人は、有料で屈強な護衛を依頼し、目的地まで同行して貰うのが常であった。
以前の臆病なリオネルなら、最低3人、もしくは5人、10人と大勢の護衛を同行させなければ旅になど行けなかった。
そんなリオネルも、今や逆の立場だ。
自身が護衛を受けおう事が可能な立場、冒険者ランクB。
ランカーと呼ばれる猛者なのである。
ワレバットまでは約150㎞。
まだまだ先は長い。
地図によれば途中に、大小の村がいくつかある。
道中は、村の宿屋への宿泊と、野宿の合わせ技で行こうとリオネルは考えていた。
ぴいいいい~っ!
リオネルの頭上で鋭い声が響いた。
思わず見やれば……
空高く大きな鷲がゆうゆうと飛んで行く。
「あは、良いなあ。俺にもあんな翼があればなあ。空を飛べれば旅が楽になる」
思わずつぶやくリオネル。
超難度といわれる『飛翔魔法』そして『転移魔法』を習得した人間族は、
王国ナンバーワン魔法使いと謳われるリオネルの父ジスランすら習得していない。
他種族、エルフことアールヴの上級魔法使いで行使する者が数人居ると、
リオネルは聞いた事がある。
「まあ、夢みたいな事ばかり考えても仕方がない。俺は一歩一歩、地道に歩いて行くだけだ」
飛び去る大鷲を見送った瞬間。
リオネルへ、心の内なる声が響く。
チートスキル『見よう見まね』が発動しました。
大鷲の運動能力を見たので、10%真似られます。
習得しますか?
は?
お、大鷲?
まさか、空を飛べるのか!?
んな、馬鹿なっ!
10%真似るって……何だ?
で、でも
ここは、当然「はい!」だろ。
当然ながらリオネルは、すぐ「はい」を選択した。
すると!
身体が更に軽くなり、ジャンプすると空を飛べ!
……るわけがなかった。
何度も何度も、ジャンプしたが飛べる気配などない。
全くない!
ただ視力が急に良くなり、遥か遠くを見渡せるようになったのだ。
馬の能力を得た時も視力は良くなった。
しかし今回はそれ以上の視力である。
そう、鷲や隼は視力が良く、人間の10倍近いという。
1㎞先の獲物を捉えるともいわれている。
「あはは、10%真似るって、大鷲の『視力』だけなのか? 飛ぶのはさすがに甘かった! ……でも、ありがたい! 遠くまで見渡せるって、凄く貴重な能力だぞ!」
視力は近い視点、遠い視点と自由に切り替えられた。
リスの能力も活かされているようで、相変わらず視界も広い。
猫の能力で夜目も利くから、リオネルは最強の視力を得た事となる。
苦笑したリオネルは……約2時間歩いた。
街道沿いには、旅人が休憩したり、キャンプ可能な、
草を刈り取り、均した『空き地』が王国によって設けられている。
見やれば、その空き地が前方左側にあった。
「リオ、水分はまめに摂れよ。野外では特に、だ」
アンセルムの声、『先輩冒険者のアドバイス』が、リオネルの心にリフレインした。
レベルアップ等を告げる心の内なる声に匹敵する貴重なものだ。
「了解です。無理をせず、ちょっと、ひと休みしてお茶にします」
リオネルは微笑むと、『空地』へ入って行った。
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