第42話「強盗!!」
王国が整地した『空き地』は、入り口代わりの一方を街道に面しており、他の三方は原野という形が多い。
リオネルが入った空き地は他に誰も居なかった。
誰もが何気なく行動する人間の性であろうか、リオネルは片隅へ行く……
念の為、周囲の索敵を行う。
背後の原野に危険は感じない。
少しゆったりしたいと思ったので、リオネルは湯を沸かし、好物の紅茶を飲む事にした。
ちなみにすぐ誰かが来たら、魔導水筒の冷水で、ささっと済ますつもりであった。
そう、リオネルが携行する水筒は、魔導水筒だ。
少し奮発して購入した魔導水筒は、
今日はたまたま冷えた水を入れているが、今度は温かい紅茶を入れておこうと思う。
さてさて!
念のためリオネルは、しばし待ち、索敵で様子を確認した。
でも、大丈夫のようだ。
手早く用意すれば、紅茶を飲む時間はある。
リオネルは背負っていたバッグを下した。
続いて、収納の腕輪から魔導防水シートを出して敷き、続いて大樽、魔導コンロ、やかん、ポット、紅茶の茶葉入れ、マグカップを出した。
シートに座り、大樽から水をやかんに入れ、コンロに置き、魔力で火を点ける。
湯が沸く間に、大樽を腕輪へ仕舞う。
搬出、搬入で出し入れ自由だから楽なものである。
改めてアンセルムには大いに感謝だ。
湯はすぐ沸いた。
茶葉をポットへ入れ、湯を注ぎ、しばし待つ。
この間に、魔導コンロ、茶葉入れを仕舞う。
マグカップを温めていた湯を捨て、ポットからお茶を入れる。
やかんのお湯でポットを洗った後、やかんとポットを腕輪へ仕舞う。
「ふう、これで良しと」
ここまでして、ようやく紅茶が飲める。
面倒だが、収納の腕輪の出し入れを他人に見せたくない。
何故なら、腕輪の秘密がバレれば絶対に目を付けられる。
一見、古めかしく地味な腕輪だから、何もなければほぼ盗まれないと思うから。
茶葉も少しだけ高いものを買った。
時たま見せる、普段は無駄遣いしないリオネルの『ささやかな贅沢』である。
「美味い!」
香りを楽しみながら、紅茶を飲む。
吹き抜ける風が気持ち良い!
と、ここで。
リオネルの索敵に『反応』があった。
反応は『複数の人間3人』である。
距離は300m。
「おいおい、何だよ、せっかく紅茶を楽しんでいたのに」
人間3人からは、
……嫌な予感がした。
リオネルは、急いで紅茶を飲み干し、マグカップをバッグへ、
魔導防水シートも手早く畳み、同じくバッグへと入れた。
バッグを背負い、草の上へ直に座る。
スクラマサクスでも、樫のこん棒でも、武器をすぐ使えるようにしておく。
左肩の盾をシールドバッシュ出来るように手甲の位置へ。
やがて複数の人間は、姿を現した。
3人である。
リオネルをしばらく凝視し、『空地』へ入って来る。
どうやらリオネルが居るのを見て、空地へ入ってくるようだ。
リオネルは体内魔力を上げ、身体強化の魔法をかける。
すぐ動けるように態勢を整える。
街道沿いとはいえ、広い原野で自分は今ひとり、油断は絶対に禁物だ。
ビルドアップした視力で分かる……
3人は、革鎧を着込んだ冒険者風の男達だ。
他にもスペースはあるのに、何故かリオネルへ近付いて来る。
『空地』はそこそこ広い。
普通なら、近寄ってなど来ない。
何か用事があるのか、それともヤバイ奴なのか……
ここでリオネルも、ゆっくりと立ち上がる。
男達へ見えないよう、右を後ろ手にし、こん棒を持つ。
3人の男達は、10mくらいの距離まで近付いて来た。
全員が30歳を超えた中年男である。
リーダーらしきひげ面の男が大きな声で言う。
「あんちゃん!」
「はあ」
「命が惜しけりゃよぉ、有り金全部出せやああ!」
おおっと!
男は最後には絶叫し、いきなり脅しをかけて来た!
やはり!
3人の男は……
リオネルを狙って来た『強盗』だった!
そこそこ立派な装備を身に着け、全然強そうには見えない。
なのに仲間も護衛も連れずに、『ぼっち』のひとり旅。
そんなリオネルは、男達のような賊にとって絶好のカモである。
周囲に誰も居らず、『空地』で休憩している今この時が、
最高の襲撃チャンスと判断したのであろう。
命が惜しけりゃ、有り金全部出せ!
強盗のリーダーから、命を脅されたリオネルだが
……相手が3人なのに、全く平気だった。
本当にヤバイ奴、怖い相手は笑ったまま、襲ってくる。
もしくは無言で、いきなり刺して来るからだ。
以前の臆病なリオネルならいざ知らず……
今のリオネルは、数多経験した魔物との戦いで度胸が付き、
完全に強盗達を見下ろしていた。
笑みまで浮かべる余裕がある。
「あはは、おっさん達、強盗慣れしてないでしょ?」
「な、な、何だとぉぉぉ!! こらあっ!!」
「ほらほら、図星でしょ? こういうのやめません、今のうちですよ」
「く、くそったれぇがあ! 今更そうですかと! やめるわないだろぉ! 金出せ、コノヤロ! じゃなきゃ! ぶっ殺すぞぉぉ、小僧ぉぉ!」
堂々としたリオネルに、飲まれてしまっている。
背後の配下らしきふたりも、及び腰であった。
「いえいえ命は惜しいですけれど、俺が身体を張って稼いだお金は一切出しません。あんたにも、あんたにも、あんたにもね」
「しれっ」と言うリオネルは左手で強盗3人をどんどん指差しながら……
さりげなく特異スキル『フリーズハイ』を使っていたのである。
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