第36話「俺の息子になれ」

宿屋へ戻り、まずはランクCへ昇格した事をアンセルムへ報告し……

リオネルは、宿屋の仕事に忙殺される。


格安で清潔、設備もそこそこ。

アンセルムの宿屋はいつもほぼ満室である。

リオネルのように長期滞在者も多い。


……なんやかんやで、仕事が終わったのは、深夜だった。

リオネルは、アンセルムが寝起きする主の部屋へ招かれる。


冷えたエールでふたりは乾杯した。

ちなみに、ソヴァール王国においては、16歳から成人とみなされる。

アルコールも16歳からOKだ。

リオネルは18歳だから、何の問題もない。


「おう、リオ! ランクC昇格おめでとう! ギルドへ所属して1か月も経たないのに、凄い才能だ。ランカー入りもすぐだな」


先述したが、冒険者ギルドではランクB以上の者をランカーと呼び、上級者と位置付けている。

ランクA以上の一流とまでは行かないが、一目置かれる存在となる。


散々罵り、蔑んだ父や兄とは違う。

アンセルムはリオネルの才能を認めてくれた、初めての人物である。


「ありがとうございます! 気を引き締めて、より一層頑張ります!」


リオネルは今回のゴブリン討伐の報告をした。

チートスキル等、全てを話す事は出来ないが……


風の攻防魔法の熟練度がアップし、発動が早く、正確さと威力が増した事

鍛えて身体能力がアップした事。

ギルドの講座で習得した武技の熟練度が増した事などを話した。


「おいおい、すげーな! 単身でゴブリン渓谷へ乗り込み、ゴブリンサージとソルジャーの上位種含む、ゴブリン6,517体を討伐かよ! 再三言っちまうが、冒険者デビューして1か月経ってないだろ? 本当にとんでもないぜ!!」


「ええ、必死でやって何とかって感じです。でも自信にはなりました。オークと戦えなかったのだけが残念ですけど」


相変わらずリオネルは謙虚である。

そして用意してあった袋に入れた金貨を差し出す。


ズシリと重い金貨入りの袋。

アンセルムは訝し気な顔付きとなる。


「ん? リオ、何だ、これは?」


「素晴らしい魔道具をふたつも頂いたし、いろいろお世話になったお礼です。金貨1,0001,000万円が入っています」


今回稼いだ報奨金のほとんど……

超レアな魔道具を譲ってくれた上、リオネルを可愛がってもくれたアンセルムへ感謝の気持ちである。


しかし、アンセルムは怖い顔をして、首を横へ振った。


「バカヤロ! 何言ってる、こんな大金は貰えない。それにこれから先、お前は旅をするんだ。金はいくらあっても構わんだろ?」


「そんな! 受け取ってください!」


「いや! 要らねぇよ!」


「アンセルムさんからは、モノ凄い魔道具を頂いたのは勿論、冒険者として生きて行く為の心構え、あきらめず、くじけずの不屈さ、挑戦を怖れない前向きさ、そして命を大事にする慎重さを教わりました。それらを考えたら、全然安いくらいですよ!」


押し問答となったが……

結局、アンセルムは金貨1,000枚のうち、100枚だけを受け取った。


「分かったよ。じゃあ、ウチの『永久宿泊費』の前払いとして、100枚だけ、ありがたく受け取っておく。王都へ来た時はいつでも、ここへ泊りに来い」


苦笑したアンセルムは、リオネルと別れるのが相当辛いようだ。


やがて酔いが回った事も手伝い、ふたりとも本音をぶつけ合う会話となる。


「リオ! 旅を楽しめ! 絶対生き抜いて、いつか王都に戻って来い。万が一仕事がなければ、この宿屋を継げ! 実家から拒絶されたら、俺の息子になれ! 養子縁組みしてな! そう遺言状へも書いといてやる! そうすれば俺が死んでもOKだ!」


「アンセルムさん! あ、ありがとうございます! でも遺言状とか、死ぬなんて縁起でもない。長生きしてくださいよ」


「ははははは! 俺はそう簡単には死なねぇ! ところでよ、大勝利で凱旋したのに、少し元気がなかったじゃねぇか? どうしたんだ?」


アンセルムには見抜かれていた。

こうなったら、もう白状するしかない。


「じ、実は今日、女子に、思い切り振られまして……俺、とんだ勘違いヤローでした……」


「ははははは! 思い切り振られただと? どこの女子だ?」


「あ、あの……内緒にしてくださいよ」


「わ~った。黙っといてやる。それで誰だ?」


「ギルドの職員さんです。な、名前は勘弁してください!」


「ほう、ギルドの? で、どんな子だ?」


「は、はいっ! とても美人で優しくて、スタイルが良くて、俺を励ましてくれて、いろいろ良くしてくれて、心配もしてくれたので……」


「ふむ、高嶺の花、憧れのマドンナって事か。ま、好きになる理由の、良くあるパターンだな」


「お、俺! お、思いっきり、勘違いして……」


「ふむふむ、それで?」


「し、心配したのは俺が! 亡くなった弟さんに似ていたからだって……初恋だったのに、モノ凄くショックです! ううう……」


 ナタリーに振られた辛さがよみがえり、涙をこらえるリオネル。

 そんなリオネルを、アンセルムは笑顔で、力強く励ましてくれた。


「ははははは、良くあるセリフだが、女は星の数ほど居るって言うじゃねえか」


「で、ですが……ショック大きいっす。ダメージでかいっす。振られたのは、俺がダメダメな男だからっすよねぇ……」


「そうか! ならば、リオ! もっと男を磨け! 悔しさを闘志へ変えろ! そんで、もっと良い女とくっつけ! そしてあの時、なぜお前を振ってしまったのだと、その子に思い切り後悔させてやれ!」


「そ、そうっすね! 彼女が後悔するくらい、男を磨くっす!」


「その意気だ! さあ、明日も早い。一緒に市場へ買い出しに行くぞ! もう一杯だけ飲んで寝るか!」


「はいっ!」


カチン!


改めて乾杯したリオネルとアンセルムは……

残り少ない日までの別れを惜しんだのである。

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