第28話「戦闘開始!」
リオネルは改めて思う。
習得したギフトスキル『ゴブリンハンター』が発揮する、
対ゴブリン戦の威力、効果効能は素晴らしかったと。
まずは攻撃力である。
ゴブリン渓谷手前の『狩場』で実際に戦って判明したが……
攻撃魔法の魔力消費は1/5くらいになった! ……と思う。
そして物理攻撃も、軽くほんのひと当てするだけ。
ゴブリンは呆気なく吹っ飛び、そのまま絶命してしまうのだ
防御力も負けてはいない。
リオネルは敢えて防がずに、ゴブリンどもの『物理攻撃』をわざと受けてみた。
一番最初こそ、勇気は必要だった。
しかし……何という事はなかった。
奴らが身体を張った『体当たり』『噛みつき』『引っかき』などの『物理攻撃』を、あっさりと弾いてしまうのだ。
痛いどころか、かゆいとも感じない。
当然ダメージは『ゼロ』である。
ゴブリンの中には、倒し、喰らった人間から奪い、小さな手斧など武器を使用する個体もある。
さすがに素手や無防備な箇所に受ける事はしなかったが、盾で軽く弾き、革鎧に渾身と思える一撃を受けても、蚊ほども感じなかった。
そして結構な効果をもたらしたのが、『威圧』の効果だ。
接近戦で『フリーズハイ』を発動せずとも、リオネルがひとにらみするだけで、
ゴブリンどもが委縮し、戦意を喪失してしまうのだ。
終いには、リオネルの姿を見ただけで逃げ腰となってしまった。
こうなると、リオネルが単身で……
1万とも言われる個体が跋扈する、ゴブリン渓谷に挑むのは、けして無謀ではない。
『ゴブリンハンター』の無双を始めとした様々な事実の積み上げ、地形を吟味した周到な作戦と立ち回りをじっくりシミュレーションした上で、冷静に判断した。
ちなみに、万が一の場合の退路もしっかりと確保してある。
リオネルが書店で購入した地図と、ギルドへの取材によれば……
渓谷を見下ろす切り立った高さ10mほどの大岩がある。
大岩のてっぺんは平べったく人間ふたりが座れるくらいの広さがあるらしい。
その大岩の近くまで木が生い茂っていると聞いていた。
リオネルは考えた末、この大岩のてっぺんを、『要塞兼作戦本部』にすると決めてある。
「あった!」
リオネルが改めて渓谷をつぶさに見れば……
果たして、地図とギルドの話の通りに渓谷を見下ろす大岩はあった。
改めて大岩を観察する。
やはり高さが10m少しある。
10mより少し高い。
少し余裕をみても、大体12mくらいだろう。
だが!
15mくらいまでならば、リオネルは降下テストをして安全を検証済み。
12mは完全に『許容範囲内』!
なのでOK!
そして、大岩の下は草地である。
だから降下しても、受ける衝撃も少ないと計算する。
大岩のそばには木も何本か生えていた。
木は全て太く、リオネルが登っても、びくともしないだろう。
葉もたくさん茂っており、登る時には身を隠してくれ、目立たない。
一番端の木は林に隣接していた。
更にリオネルはイメージする。
大岩へポジショニングする時は、木に登って飛び移る。
大岩の頂上で身を伏せ、隠れてから、機を見て、ゴブリンどもへ攻撃するのだ。
攻撃方法は……
大岩から特異スキル『フリーズハイ』を行使。
敵の自由を奪ってかく乱した上、風の魔法による遠距離攻撃で数を減らす。
魔法を撃ちまくり、体内魔力量が減った頃合いを見て、一気に降下、白兵戦へ。
白兵戦では、魔力を消費しない『フリーズハイ』をまず行使。
『ゴブリンハンター』の威圧効果も使って、相手の動きを止めながら、剣、シールドバッシュ、格闘技を用いる。
戦いながら、体内魔力の回復をはかる作戦だ。
そして戦況を見ながら、一旦大岩の頂上へ戻り、休息を取る。
状況が不利になった場合は、やはり無理をせず、木登りして、
大岩の頂上へ『一時撤退』する。
頂上で体内魔力の回復をはかってから、再戦する。
これらを繰り返す事で、1万体ともいわれる渓谷のゴブリン個体数を減らして行く。
最悪の場合、『退却』も考えてある。
ゴブリンがそこまで意思統一して襲って来るとは思えないが……
例えば群れのリーダーの指示で、千体以上の大群に大岩を囲まれそうになった場合など、
敢えて……『籠城』せず、あっさり逃げると決めていた。
……大岩へ登るのに使った隣にも同じような木々が何本もある。
木々の先は更に林になり、大きな森へつながっている。
そう!
退却の際も、木登り抜群なリスの能力をフル活用する。
大岩から木々をつたって、林経由で森へ逃げれば、追いすがるゴブリンを振り切れるとイメージする。
そして大群を分断して、『狩場』で戦う。
更に、本当にヤバくなった場合。
『狩場』から森を木伝いで進めば、街道へ隣接した別の森へとつながっている。
そこから街道へ出れば、迷わず王都へ戻る事が出来る。
という事で、全てのシミュレーションは、ばっちりだ。
但しシミュレーションはあくまで予定。
予定は、所詮は未定ともいう。
状況に応じ、臨機応変に戦うとも決めている。
いろいろと戦うシーンを全て思い浮かべ……
満足して笑ったリオネルは、気配を消したまま、大岩そばの木にとりついた。
するすると音もなく木を登り、上部へ。
木の上部と大岩の頂上の間は2mほど離れているが……
リスのジャンプ力を持つリオネルには楽勝だ。
ぱっと飛び移り、そのまま、大岩の頂上へポジショニング。
そのまま待機する。
やがて……
ゴブリン達が現れる。
リオネルは頂上からそっと気付かれぬよう、ゴブリンどもを見下ろした。
ぶぎゃう、ぶぎゃう、ぶぎゃう、ぶぎゃう、ぶぎゃう!
唸り猛り、荒れ狂うゴブリン。
出撃前に気合を入れ直しているという感である。
リオネルの眼下に居るのは……想定していたよりも、遥かに多い!
相当大きな群れで300体は余裕で居るだろう。
ところどころ、ゴブリンサージ、ゴブリンソルジャーなどの上位種も認められる。
但し、ゴブリンシャーマンだけは巣穴の奥に居るらしく見当たらない。
リオネルは現場を見て、あっさりと攻撃手順の変更を決めた。
まさに臨機応変。
攻撃の順番を逆にするのだ。
フリーズハイよりも先に、攻撃魔法『風矢』を連発で放ち、出来るだけ多くの敵を倒す。
ここまで密集していると、群れの真ん中にガンガン撃ち込めば、効率良く倒せると踏んでの事だ。
次に特異スキル『フリーズハイ』で自由を奪いかく乱する。
いきなり多くの仲間が倒された上、自由も奪われば、ゴブリンどもが大混乱するのは……
間違いない。
ここからは予定通りだ。
タイミングを見て、大混乱した敵へ討ち入り、威圧しながら、
剣やシールドバッシュ、格闘技など物理攻撃で殲滅する。
ヤバくなったら逃げる!
先ほどから魔法使い独特の呼吸法を使い……
リオネルの体内魔力は充分高まっていた。
いつでも魔法を撃てる!
よし!
戦闘開始!
ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお!!
いきなりの奇襲!
不気味な音を立てた風の矢は、うごめくゴブリンどもへ容赦なく降り注いだのである。
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