第29話「リオネル無双」

大岩の上に、低い姿勢で陣取ったリオネルは、風の攻撃魔法『風矢』を連射すると、特異スキル『フリーズハイ』を行使した。

そしてまた、『風矢』を連射し続ける。


ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお!!


再び、特異スキル『フリーズハイ』を行使。


予想通り!

ゴブリンの大群は、大混乱に陥っていた。


無理もない。

高速で放たれた、風を切る音だけ。

肉眼では見えぬ大気の矢が群れの中央へ降り注ぎ、バタバタバタと多くの仲間が倒れて行く。


そして行使された特異スキル『フリーズハイ』により、次々と仲間が金縛りとなり、自由が奪われても行くのだ。


ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお!!

ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお!!

ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお!!


リオネルは、風矢の連射を続ける。


物理攻撃が無効化されるとはいえ……

数百体のゴブリンの大群へ、いきなり突っ込む勇気は、リオネルにはない。


まずは魔法による遠距離攻撃で数を一気に減らし、魔力量が減った頃合いを見て白兵戦へ。

特異スキル『フリーズハイ』を行使、更にギフトスキル『ゴブリンハンター』の『威圧』により、相手の動きを止め……


剣、シールドバッシュ、格闘技を用いた多彩な白兵戦を行いながら、魔力の回復をはかる作戦だ。


魔力の約2/3を使ったところで、リオネルが確認すれば……

300体以上居たゴブリンの群れは、100体を切るところまで行っていた。


そもそもゴブリンは夜行性である。

別の群れのいくつかの個体は、リオネルが仲間を討伐する様子を見て、

「ぎゃあぎゃあ」と大騒ぎはしている。

しかし、全体としては動きが鈍く、まだすぐに多くの個体が出て来る様子がない。


「よし、今のうちだ。そろそろ行くか!」


肩の小型盾を手甲位置へ。

剣を抜き放つ。

身体を軽くほぐす。

約100体のゴブリンへ単身で突っ込むのだ。

以前の気弱で線の細いリオネルならば、絶対にやらない信じられない行為である。


しかし今のリオネルは違う。

スキルにより全ての能力が著しくビルドアップした自信。

ギフトスキル『ゴブリンハンター』の威力。

そして数多の実戦経験が、リオネルの勇気を後押ししていた。


大岩からの高さは約12m。

既に降下実験は何回も試している。

全く問題なし!


リオネルは軽く息を吐くと……

大混乱するゴブリンの群れへ向かい、一気に降下したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ぎゃう!?

おうう!?

ひえっ!?

わうお!?


ぱらりと飛び降りたリオネルを見て、ゴブリン達は何が起こったのか、理解が及んでいない。

相変わらず混乱したままだ。

リオネルが見やれば、すぐに『ゴブリンハンター』の『威圧効果』で、ゴブリン達が逃げ腰に。


「ふっ」と、笑ったリオネルは、いきなり右腕で剣を振るい、容赦なく一刀両断にする。


しゅばっ! しゅばっ! しゅばっ! しゅばっっ!


左腕でシールドバッシュを猛連打し、圧倒的に叩きのめす。


ばんっ! ばんっ! ばんっ! ばんっっ!


回し蹴りで思い切りぶっとばす。


どごっ! どごっ! どごっ! どごおっ!


数十体余りを倒したところで、ようやくゴブリンどもはリオネルを敵として認識、

必死となった。


ひゅうおおお!!

きえええおお!!

くわおおおお!!

はあああああ!!


おぞましく咆哮し、殺気を込め、襲い掛かって来る。

上位種のゴブリンソルジャー、ゴブリンサージも何体か、混在していた。


リオネルは、改めて「ぎっ!」とゴブリンを睨む。

『ゴブリンハンター』威圧の効果で、ゴブリンどもは臆し、委縮した。


その間に、リオネルは少しだけギアを上げる。

動きが数段早くなる。

膂力もみなぎる。


しゅばっっ!

ばんっっ!

どごおおっ!


しゅばっっ!

ばんっっ!

どごおおっ!


しゅばっっ!

ばんっっ!

どごおおっ!


しゅばっっ!

ばんっっ!

どごおおっ!


リオネルの剣が自由自在に振られ、動きの鈍くなったゴブリンの肉体を斬りまくる。

リオネルの盾がガンガンとシールドバッシュ、動きの鈍くなったゴブリンの肉体を殴打しまくる。

リオネルの蹴りが、動きの鈍くなったゴブリンの肉体をなぎ倒す。


隙を見たのか、数体のゴブリンがリオネルに飛びつき、引っかく、噛みつく。

しかしリオネルの身体は攻撃を受け付けない。

うるさい! とばかりに、ばん! と弾き飛ばす。


そうこうしているうちに、他の群れがいくつか出現。


おおおおおおおっ!!

きえおおおおおっ!!

うらあああああっ!!


怒りの雄叫びをあげ、リオネルへ迫って来た。

今戦った群れほどではないが、総数は……200体を超えているだろう。


「よし、剣、盾、格闘の熟練度大幅アップ。体内魔力もほぼ回復した。仕切り直しだな!」


リオネルはそう言うと、特異スキル『フリーズハイ』を連射した。

先行して迫った数体のゴブリンが動きを止め、後続が折り重なり、混乱する。


「よし、足止めのテストだ!」


リオネルは防御魔法『風壁』を発動。

肉眼では見えない大気の壁を構築した。


この『風壁』も、魔法学校卒業時には、長さ2m、高さ1mのしょぼい壁が、

今や超バージョンアップ。

長さ20m、高さ10mの巨壁を張り巡らす事が可能となっている。


この『風壁』は、物理的な壁よりだいぶ柔らかいが、高所から飛び降りる際のクッションにも応用出来る。

当然、ゴブリンの侵入を阻むのは朝飯前だ。

継続時間も、魔力は余計に消費するが30分までOKである。


「よし! 上手く行った。風壁もいろいろなシチュエーションで試してみよう!」


『見えない壁』に行く手を遮られ、戸惑うゴブリン達をしり目に、

リオネルはゆうゆうと大岩の頂上へ撤退したのである。

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