第26話「どうして?」
「リオネルさん……ゴブリン渓谷に関する依頼はいくつかあります。まず冒険者ギルドからの公式依頼をご説明致します」
「は、はい!」
先ほど、リオネルが10日後には王都オルドルを離れると告げてから……
ナタリーは全く元気がない。
何故? 聞ける雰囲気でもなく、リオネルはしばらく黙って説明を聞く事とする。
ナタリーは深くため息をつく
「ふうう、リオネルさんは……ご存じでしょうが、ゴブリン渓谷は広大です。奴らの巣である深い洞窟は入り組んだものも多く、渓谷の全貌は明らかになってはいません」
「……………」
「推定数、1万体超のゴブリンどもは、長年に亘りこの渓谷を根城としています。奴らは街道まで出て来て、旅人、商人、巡礼者などを襲います……数百もの大群で取り囲み、情け容赦なく、本能のまま無残に喰い殺してしまうのです」
「……………」
「我がソヴァール王国としては、渓谷に巣食うゴブリンどもを徹底的に根絶し、被害を完全になくしたいと本腰を入れ、考えております」
「……………」
アンセルムに……聞いた事がある。
このゴブリン襲撃問題は、ソヴァール王国が長年に亘って冒険者ギルドへ丸投げ、且つ放置状態らしい。
リオネルが記憶をたぐる中、ナタリーの話は続いている。
「それゆえ、ギルド公式の依頼案件なのですが、大元の依頼主はソヴァール王国となります。これを完遂すればお金とともに名誉が手に入ります」
「……………」
「そして依頼内容ですが、渓谷の探索、調査、遭難者の救助、遺品のサルベージです。当然ゴブリンの討伐が主体となるでしょうが、この渓谷の討伐は報奨金も割り増しで1体あたりの討伐料が、通常の銅貨5枚から、倍額の銀貨1枚となります」
「……………」
「遺品を始め、回収物は全てを、一旦冒険者ギルドでお預かり致します。確認の上、所有権がなく、または放棄されているものに関しては、回収及び拾得した者に優先所有権が発生致します」
「……………」
「またゴブリンが奪った貨幣を得た場合は特別なケースを除き、基本探索者の所有権が認められます。遭難者を救助した場合、報奨金はその都度、確認の上で検討して、適宜支払われます」
「……………」
ナタリーの話を聞きながら、見えて来た。
ゴブリン渓谷のゴブリンどもが、何故ず~っと討伐されないのかが。
リオネルには分かるのだ。
ナタリーは王国が本腰だと言うがけしてそうではない。
騎士隊や王国軍を「まともに派遣」すれば、莫大な経費がかかる。
そして、確実に人的な損害も出る。
だから、ギルド所属の冒険者へ「安い討伐料金」で発注し、「お茶をにごしている」のだ。
一方の冒険者も、数百体に囲まれる大きなリスクの割に、全然見合わない仕事だから、進んで引き受ける者も少ない。
そういう……悪循環である。
つらつら考えるリオネルだが……ナタリーの話はなお続いている。
「依頼受諾者は渓谷の入り口の大岩へ魔法水晶が埋め込んでありますから、所属登録証をかざしてください。その時点で依頼の正式受諾がスタートします」
メイン案件の説明は終わったようだ。
「ありがとうございます、ナタリーさん……………概ね理解しました。ぜひその依頼を受けさせてください」
「分かりました。リオネルさんを『受諾』とさせて頂きます。絶対に無理だけはしないでください。危険だと思ったら、必ず引き返してください」
「……………」
「ええっと……それ以外の依頼もお話しさせて頂きます。こちらは、今お話しした依頼のオプションという形です」
「……………」
「ゴブリン渓谷のゴブリンには、通常種以外、上位種が3種類存在します。ゴブリンソルジャー、ゴブリンカーネル、ゴブリンシャーマンの3種です。これらを討伐した場合、報奨金が割り増しとなります」
「……………」
「ゴブリンソルジャーが銀貨5枚、ゴブリンカーネルが金貨1枚、ゴブリンシャーマンが金貨50枚となります。ゴブリンシャーマンがとびきり破格なのは、群れのリーダーであり巣穴の最奥に居る討伐難度によるものです。魔法による攻撃もありますから」
「……………」
「それ以外の単独依頼は採取の依頼です。ゴブリン渓谷には鉱物資源が非常に豊富です。砂金、ガーネット、トパーズ、ヒスイ、水晶などが多いようです」
「……………」
「ゴブリンが大群で跋扈していますので、襲撃を恐れ、採取する者が居らず、鉱石は河原にごろごろ転がっているそうですよ」
「……………」
「ゴブリン渓谷で採取した鉱物はギルドにおいて適正価格で買い取らせて頂きます。ちなみにすべての依頼を完遂しない場合でもペナルティはありません。つまりリミットもなし、無期限です……ゴブリン渓谷における依頼案件は以上ですね」
「……分かりました。依頼は全てお受けします」
「了解しました。受諾手続きを行いますので、リオネルさんの所属登録証を一旦お預かりします」
「お願いします」
「リオネルさんのご無事を、心よりお祈りします」
ナタリーとのやりとりは終わった。
リオネルの安否を心配するのは分かる……
だがリオネルには、ナタリーが暗く沈んでいる理由が分からない。
男としてさえない上、ずっと年下?の自分に恋愛感情を持つなど、全くないはずだし……
そう……
相変わらず暗い表情で、リオネルの所属登録証を受け取ると、ナタリーは依頼受諾の手続きをしたのである。
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