第25話「どうぞお幸せになってください!」
リオネルの父ジスランが「1か月以内に王都オルドルを出ろ」と切ったリミットまで、あと10日となった。
実家を放逐されて当初、リオネルには不安しかなかった。
王都の中央広場でひとり強がったが、はっきり言って『から元気』である。
だがくじけず、あきらめず、そんなリオネルは立ち直り、
人生のリスタートを切る事が出来た。
……思い起こせば、いろいろな事があった。
まずリオネルが授けられたのは創世神教会の司祭が告げたような屑スキルではなかった。
超劣等生だったリオネルは特異スキルの『フリーズ』を獲得していたのだ。
更にリオネルは、スライムとの戦いに身を投じ、超レアなチートスキル『エヴォリューシオ』『見よう見まね』まで獲得。
このふたつのウルトラチートスキルが、大きな転機となった。
『エヴォリューシオ』により、特異スキル『フリーズ』が、
同じく特異スキル『フリーズハイ』へ進化。
スライムとの戦いが楽になっただけでなく、リオネルに多大な能力の授与をもたらした。
勢いに乗ったリオネルはギフトスキル『スライムハンター』を獲得。
スライムに無双すると同時に、ゴブリンとの戦いに身を投じたのである。
そして、念願で目標の『10』にレベルアップ。
ギフトスキル『ゴブリンハンター』を得るまでにもなった。
片や『見よう見まね』も負けてはいない。
スライムとの戦いの
更に犬、猫、そしてリス、猪、狼の能力も、リオネルを大幅にビルドアップした。
リオネルは、思い立って冒険者ギルドの様々な講座を受け、百戦錬磨の指導教官達から手ほどきを受けた。
『見よう見まね』のフォローもあり、様々な才能が開花を始めたのである。
そして予想外の嬉しい事もあった。
指導教官との模擬戦闘は大きな経験値として反映されたらしい。
リオネルは、『11』へレベルアップしていたのである。
新たなスキルの獲得こそなかったが、身体能力以下、全ての能力が大幅にアップしたのだ。
話を戻せば……
「態勢が整ったリオネル」は、王都を旅立つ前の総仕上げとして……
ゴブリンの巣窟である、『ゴブリン渓谷』の探索攻略にかかろうとしていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルはレベルだけランクアップしたのではなかった。
ある日、講座を受けに来た際、もうお馴染みとなったナタリーから呼ばれたのである。
「おめでとうございます! 既定のポイントに達したので、リオネルさんはランクアップします。ランクEからランクDに昇格します。これでますます依頼案件の選択肢も増えますね♡」
「えええ!? ランクDって?? びっくりです! そ、それって早くないですか? 俺少し前にランクEになったばかりですよ?」
「はい、実は今回は特例です」
「特例?」
「はい、リオネルさんをご指導された各講座の教官の方々から、推薦があったそうです」
「え? 俺を推薦? どういう事ですか?」
「はい、リオネルさんは類まれな才能を持っている。真面目でひたむきだし、ランカーになるのもそう遠くないって」
……ナタリーが言ったランカーとは、ランクB以上の冒険者であり、上級レベルと称されている者達だ。
「いえいえ、そんな事はないですが……ありがたいです」
謙遜するリオネルだが……
ちょうど良いタイミングだとも思う。
「ナタリーさん、ランクDにもなりましたし、俺、ゴブリン渓谷へ挑もうと思います」
「えええ? ゴブリン渓谷ですか? ランクDでも、探索はOKですが、リオネルさんは『ぼっち』。い、いえ、ソロプレーヤーですよね?」
「はい、相変わらずハブられて、ぼっちのソロプレーヤーです」
リオネルが自虐的にきっぱり言うと、ナタリーは反応に困り、
「ええっと……ゴブリン渓谷は、最大一万体のゴブリンが生息すると言われている魔窟です」
「はい、そう認識しています」
「でしたら! お分かりでしょう? ランカーメンバーのクラン所属ならともかく、リオネルさんが単独で挑むのは危険すぎますっ! 危ないですっ! 誰かと組むか、有力クランの助力を得た方が宜しいかと思います!」
「いや、大丈夫です。理由は明かせませんが、ゴブリンなら大丈夫です。毎日討伐していましたし……ナタリーさんは、ご存じですよね?」
「た、確かにそうですが……」
リオネルはこのところ毎日、講座を受ける前に、ナタリーへゴブリン討伐依頼の完遂報告を行っていた。
「という事で、ゴブリンの巣窟を探索し、ひと暴れしたら、心置きなく王都を旅立つ事が出来ますから」
リオネルは満面の笑みを浮かべ、言い放った。
「えええっ!? リオネルさんが王都を旅立つって? そ、それ、どういう事ですか?」
「はい、こちらもめんどくさい理由がありまして、お話は出来ませんが、10日後には、必ず旅立たないといけないんです。悪い事をしたとかじゃないんですけどね」
「必ず旅立つ……そ、そうなんですかあ……」
リオネルが王都を旅立つと聞き、ナタリーはひどくがっかりしていた。
良かった!
少なくとも嫌われてはいなかった!
リオネルは安堵し、言う。
「はい! ナタリーさんには、これまで凄くお世話になりました。当分お会い出来ないと思いますが、どうぞお幸せになってください!」
「は、はい……」
口ごもる、ナタリー。
流れるような金髪、憂いの色を浮かべる碧眼が美しい……
「という事で、ゴブリン渓谷関係の依頼があったら、ぜひ受けたいと思います。当座の旅費も稼ぎたいですし。何卒ご説明と、受諾のご手配を宜しくお願い致しますっ!」
元気に言い放ったリオネルは、にっこりと笑っていたのである。
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