第6話「大逆襲の決意!」
中央広場を出たリオネルは、宿屋街へ行き、当面の『ねぐら』となるべき宿屋を探した。
父から与えられた手持ちの金はけして多くない。
無駄使いしたら、あっという間に無くなる。
それゆえ、稼げるまで出来る限り節約しなければならない。
個室、2食付きで1泊2日で銀貨2枚。
宿屋街で何軒か回り、少し奥へ入った、格安且つ清潔な宿屋を見つけ……
とりあえず2週間の予約をし、まとめて前払いをした。
延泊も可能だというので、父から切られた1か月のリミットぎりぎりまで滞在する可能性が大だ。
その後に王都から出る事となるだろう。
『ねぐら』が決まったリオネルは、次に冒険者ギルドへ行く事にした。
ギルドの所属登録証は、王国以外にも各国共通の身分証明書になる。
魔法によりランクも記載され、ランクアップする度に自動更新されるから励みにもなるだろう。
冒険者ギルドでは、事前にもてる能力の申請を求められ、職員へ告げた。
2時間の講習を受け、魔法と剣の実技試験も行った。
だが、『スキルは最後の切り札となる。とりあえず隠しておけ』という内なる声に従い、
リオネルは実技試験の際、授かったスキル『フリーズ』を使わなかった。
試験官に知られて、笑われるのが嫌だったし、念の為、『切り札』として秘しておこうと考えたのである。
となると、判定された結果は……やはり最低ランクの『F』であった。
剣がそこそこ使えると評価され、もう少し頑張ればランク『E』になれると試験官に励まされた。
こうして……
リオネル・ロートレック名義の冒険者ギルド所属登録証を受け取り、リオネルは安どした。
これで大丈夫。
もしも不審な根暗男として、職務質問されたとしても堂々「カタギです」と、
身元を明かす事が出来る。
さてさて!
晴れて冒険者となったリオネルだが……
ランクFの魔法使いなど当然、クランからのスカウトはなく、「仲間になろう」との誘いも皆無であった。
当面は、ぼっち冒険者確定である。
仕方なく、依頼案件を問い合わせしたら……
ランクF且つ単独で受諾可能なのは、薬草、鉱石採取くらいしか仕事がない。
幸い、薬草、鉱石採取は時間的なリミットなし、無期限の仕事なので、受諾して宿屋へ戻る事にした。
回復用、毒消し用の薬草も少々購入する。
様々な依頼や案内が張り出されているギルドの依頼掲示板は気になったが……
心身ともに疲弊したリオネルはもう気力が残っていない。
重い身体を引きずるようにして、宿屋へ戻った。
宿屋はちょうど夕飯の時間だった。
あまり食欲はなかったが、無理やり腹へ詰め込む。
今日は激動の一日だった。
夕食後、部屋に戻ったリオネルは、「ごろり」とベッドに寝転がり、ため息を吐く。
「今朝までウチのベッドで寝ていたのに……もう二度と帰る事はないんだな」
レベル30以上になるまで戻って来るな!
父の叱責が心の中でリフレインする。
多分、一生忘れる事がない『血を流し続けるえぐられた傷』を負わされたのだ。
くそ!
俺は3歳から15年間も修行して、学校へも行ったのに、たったレベル5なんだぞ!
上位レベルへ行くほど、レベルアップはたくさんの経験値が必要で難しい。
時間もかかる。
6倍のレベル30以上になれなんて……絶対ムリゲーじゃないか!
それにもし戻ったとしても、あの家にもはや俺の居場所はない。
ふっきったつもりなのに……
そう考えると涙がにじむ。
「畜生! 畜生! 畜生! 畜生ぉぉぉ! あんなに馬鹿にされて! く、悔しいぃぃよぉおお! ううううううう……」
ベッドで悶え泣きながらリオネルは思う。
いつか、いつか!
自分を見捨てた、非情な父と兄たちを見返してやりたい!
勘当、否、追放した事を「しまったあ!!」と心の底から後悔させてやりたいのだ。
だが父は王国魔法使いのトップたる宮廷魔法使い、兄たちは王国のエリート官僚。
片や自分は勘当され、天涯孤独。
その日暮らしの、最底辺レベルの冒険者……
道は険しく、目的までは限りなく遠い。
「うううう、いくら泣いても悲しんでも状況は何も変わらない……思考停止しても、駄目なんだ……それにいつまでも怖がっていちゃダメだ。勇気を出すんだ、勇気を……」
自問自答したリオネルは、反省をしつつ、己を叱咤激励する。
「努力は、自分なりにしたつもりだった。だが、やはり足りなかったのだ。自分は甘ったれていたんだ!」という自戒の念を込めながら……
「負けないぞ俺! 無理やりでも笑って前を向かなきゃ! 絶対に大逆襲してやる! だから一歩一歩着実に、前へ前へ進んで行くんだ!」
泣きながら苦笑したリオネルは、王都郊外の地図を取り出した。
その地図は冒険者用の魔法地図であり、ギルドで結構な金を支払い購入したものである。
単に地形だけでなく、出現する魔物に獣、採取出来る薬草と鉱石も記載されていた。
「よし! ここだな!」
リオネルが目的地にしたのは、王都から10Kmほど離れた広大な草原である。
ところどころ、雑木林が混在していた。
「この草原なら回復用の薬草と毒消し草が採取出来る。出現する魔物はスライムのみ! 一番弱い『レベル1のスライム』なら! さすがにレベル5で、『ぼっち』の俺でも戦える。まず目標のレベルは10だ!」
目標は立てたが……リオネルの心を不安が染める。
「俺は幼い頃からの修行……そして魔法学校の勉強や実践では、全然レベルが上がらなかった。だから……もうバトルで……戦ってレベルアップするしかない! 怖いけれど、勇気を出して、戦うしかない、進む道は、それしかないんだ!」
明日の予定は決まった。
いよいよ冒険者デビュー。
死ぬ気で頑張るしかない!
決意を新たにしたリオネルは、毛布をかぶり、眠りへ落ちたのである。
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