第7話「最初のレベルアップ」

翌日……

宿屋で早めの朝食を摂り、リオネルは出発した。

王都の正門を出る際も、ややこしい手続きは不要。

冒険者ギルドの所属登録証を見せれば良いから本当に楽だ。


現在の時間は午前7時過ぎ……


こんな早い時間でも、正門を出入りする者は著しく多い。

旅人、商人は勿論だが、リオネルと同じ冒険者らしき者もたくさん居る。


但し、ここでも大きな格差が生じていた。

天と地と言って良い。

同じ冒険者だといっても、高価そうな装備一式で「びしっ!」と決めた数名から数十名で構成された有力クランが『天』。

そのようなクランのメンバーは冒険者の中でもランカーと呼ばれる強者ぞろい、誰もが堂々と自信に満ちあふれていた。

一方、『地』はリオネルのようにいかにも弱そうな単独行動の『ぼっち冒険者』とにである。


交通手段にも格差は如実に表れていた。

有力クランは頑丈そうな駿馬がけん引する立派な『馬車』へ乗り込み、依頼地へ向かうのに比べ……

リオネルを含めぼっち達は当然『徒歩』なのである。


情けなく、みじめにもなったが、思い直した。


上を見ればきりがない。

下を見てもきりがない。

自分は自分。

マイペースで行こうと。


改めてそう決意したリオネルは、改めて地図を見て場所を確認すると、まっすぐに歩いて行く。


生まれてからこれまで、超が付く怖がりのリオネルは王都から出る事は滅多になかった。

魔物と戦って、レベルを上げた事など皆無に等しい。

魔法学校の模擬戦闘で戦った事が1回か、2回あるだけだ。

それゆえ、本格的なバトルは初体験……といって良い。


昨日の冒険者ギルド講習で、人家のない原野における治安の悪さは徹底して教えられた。

人間を捕食する魔物や獣だけでない。

同族の人間や他種族の賊も脅威の存在であると。


余計、怖ろしくなったが、もう後戻りは出来ない。

勇気を出し、一歩踏み出すしかないのだ。


リオネルは改めて周囲を見た。

そして魔法使い特有の魔力を読む索敵を使ってみた。

周囲には……自分へ敵意を向けて来る者は居ない。


ひどくうとまれながらも……

今までは父と兄達により、自分は世間から守られていたと、リオネルは思う。


でもこれからは自分たったひとり。

生き抜く為には、用心しすぎて困るとか、まずいということはない。


戦い方の作戦も立ててある。

自分の魔法と剣、授かったスキルを組み合わせバランス良く戦うしかない。


「よし! 行くぞ! 今日は記念すべき冒険者生活の第一歩だ! 薬草の採取をばっちりやって、バトルにも挑戦! 屑と言われたスキルもガンガン使ってみよう!」


内なる声も「それで良い」と言ってくれた。


大きく頷いたリオネルは、力強く歩いて行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


目的地の草原に到着し……

改めて警戒し、視認と魔力感知で索敵を行ったリオネル。

敵が居ない事を確認、用心しながら回復と毒消し用の薬草採取を始めた。


薬草採取は父から命じられ、自宅の庭で幼い子供の頃から行った魔法使いの下積み作業。

なので、手慣れたもの。

さくさくと抜いて、袋へと放り込んでいく。

袋は、あっという間にいっぱいとなった。

しかし、袋いっぱい採取しても、ギルドの買取価格は銀貨1枚くらいにしかならない。


割が合わないその為か、広大な草原で他に人影はなく、リオネルただひとりであった。


ひゅううううと、寂しげに風が吹いた……


あ~あ。

どこから、どこまでもぼっちかよ……

リオネルは苦笑する。


しかしリオネルは満足であった。

腹をくくり、開き直ったのだ。


俺は自由だ。

大空をひとり高く高く飛ぶ鳥のようだ。

この自由は何物にも代えがたい。

のびのびと思い通りに仕事が出来る。


「がみがみ」怒る父は居ない。

「バカだ」「愚かだ」と罵倒する兄達も居ない。

余計なストレスなど皆無なんだ。


……孤独感からホームシックとなり、昨夜はひどく寂しかった。

けれど、リオネルは気が付いたのである。

誰にも束縛されない『自由』という名の甘美な果実の味を。 


しかし自由という『権利を得る為』には、日々の生活の糧を得るという『己の義務』を果たさねばならない。


とりあえず袋いっぱいに薬草は採取した。

隣接する森は、ギルドの地図によれば、熊、狼どもが出現する危険地帯である。

レベル5の戦闘未経験、ぼっちの激弱魔法使いが立ち入って良いエリアではない。 


一方、草原に出現するのは……

スライムと、ウサギくらいなのである。

リオネルのような低レベルの駆け出しでも、注意さえすれば比較的安全である。


リオネルは注意深く草原を歩く。

すると!

10m先に魔物が現れた。


みゅみゅみゅみゅみゅ!!


独特な鳴き声?とともに現れたのは、ゼリーのような形状のスライム1体である。

スライムは透明に近い水色をしていた。

大きさは左右の体長が30㎝くらい、体高は20㎝くらいだろう。


敵に飛びついて窒息させ、体液で溶かして吸収するという見かけによらず危険な魔物である。


「よし! 早速スキル行使だ! フリーズ!」


攻撃される前に、リオネルはスキル『フリーズ』を使った。

詠唱で発動させる魔法より、スキルは便利である。

魔力消費はゼロだし、スキル名を無詠唱で念じるか、短く言葉にするだけで、効果が表れる。


スキル『フリーズ』の効果により、現れたスライムは3秒間硬直し、動けなくなる。


瞬間!

リオネルはダッシュ!


「今だ! ビナー、ゲブラー、風弾!」


至近距離から使い慣れた風弾を放ち、更に剣も突き刺すと、スライムは呆気なく四散する。


「やった!」


同時に内なる声が告げて来る。


経験値1獲得!


「うん! まずは地道にコイツらを倒し、とりあえずレベル6、高い目標かもしれないけど、王都を出るまで1か月間で、並みの卒業生レベル10を目指そう!」


リオネルは極めて冷静である。

周囲の状況をしっかり見ており、先読みする想像力も豊かだ。


ここで……

もしも誰かギャラリーが居れば……

経験値1しかない最弱なスライムを、一体一体ちまちま倒すなど、揶揄やゆされ、思い切り馬鹿にされていたかもしれない。

加えてスキルも知られたら、大笑いされていただろう。


だが、今のリオネルはぼっちのひとり。

あれこれ言われる心配はない。


気分を良くしたリオネルは……

その後、30分ごとにスキルを使用。

スキルなしでも、剣と風の攻撃魔法を多く使い、暗くなる寸前まで、コツコツとスライムを倒していった。


戦闘に不慣れなリオネルは、おっかなびっくりで、スライムから反撃も喰らった。

軽く傷も負い、焦ってひっくり返り、10か所以上打ち身で青あざも作った。


そんなこんなで……


チャララララ、パッパー!!!


心の中で、独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、内なる声が告げて来た。


リオネル・ロートレックは、レベル6に到達しました。


やったああああ!

レ、レベル6になったぞ!

バトルで初めてレベルを上げたあ!


勉強や訓練では、今までレベルは全く上がらなかったのに……

散々馬鹿にされた俺でも……やれば出来る!

やれば出来るんだあ!!


今まで、やれなかっただけ……だ。

否! 俺は勇気が出なくて、やらなかっただけなんだ!


スライムをトータル105体倒し、経験値105を獲得。

リオネルは、ようやくレベルをひとつだけアップ、『6』としていたのである。

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