第13話「やっぱり俺は甘かった!」

「はあああ! やっぱり俺は甘かった! 世の中そう、うまくはいかないなあ!」


冒険者ギルドを出たリオネルの姿は、射す夕日に赤く染まっていた。


大きなため息を吐くと、苦笑し、大げさに肩をすくめ、歩き出す。

これから宿屋へ帰り、晩飯を食べるのだ。

もしもアンセルムが忙しそうならば、当然手伝うつもりである。


リオネルは今日ず~っと……冒険者ギルドで過ごした。


職員のナタリーへ依頼完遂の報告をして、薬草と毒消し草を納品。

スライム討伐の依頼を受けてから、図書館で習得したスキルの勉強。

その後は、ギルドの闘技場にて、実戦訓練とランク判定試験を観察していた。

あくまで『見学』という形で、真の理由を誰にも告げずに……


「ふっ、愚かな。俺は一回見た技を、自在に使う事が出来るのだ!」

とか、

「残念だが、お前の使う技はもう完全に見切った!」

とか、

そういう『決めセリフ』を吐く名シーンが芝居や小説でたまにある。


『見よう見まね』に関して、古文書にはリアルな厳しい現実が書いてあり、過度な期待は禁物である。


リオネルは己を戒めたが……

やってみなければ分からないという気持ちもあった。


アンセルムから、「トライアルアンドエラー、挑戦をためらうな。失敗を恐れるな。時にはもがくのもありだ」というアドバイスがリフレインもした。


ウサギの能力を得たリオネルは、『見よう見まね』が発動すれば、ギルドで間近に見る戦いのプロ、達人のようになれるかもと、ほ~んの少しだけ期待したのである。


しかしリオネルが嘆いたように、世の中はそう甘くはなかった。

厳しい現実があった。


やはり『見よう見まね』は、全知全能万能ではなかったのだ。


……あくまで低レベルで基礎且つ初歩的な技は、良かった。

『見よう見まね』が思った通り発動。

ウサギの身体能力同様に、最大50%の割合で習得が出来たのである。

だが……古文書にあった完璧な習得の10割、つまり100%には到底及ばなかった。


魔法、武技、スキル等々……

『初級レベル』は最大50%――何とか半分の割合で、心身へ刻む事が出来たのである。


そして拾い物といえる能力の習得もあった。


王都の街中で見かけた犬や猫の動きを見極め、スキル『見よう見まね』が発動。

彼らの能力も「50%習得出来た」のである。


犬には、突出した嗅覚と素晴らしい持久力がある。

猫の能力はキレキレの瞬発力と隠形術的なしなやかな身のこなし、加えて夜目もきく。

両者の能力を得て、リオネルは五感も更に鋭くなったと感じる。


『中級レベル』もバラつきがあって5%~20%の習得率にとどまり、ほんのさわりから方向性習得という程度。


そしてえり抜きのランカー冒険者が見せた、

『上級レベル』の見事な武技、魔法、スキルは、

リオネルが何度、目を皿のようにして観察しても……


残念ながら、習得レベルに到達していません!

と、内なる声が、無情にも習得を却下!したのである。


また風以外の火、水、地の属性魔法も、やはりというか、全く習得出来なかった。

習得出来たのは、風属性魔法の初歩『風矢』と、一般魔法の『身体強化』くらいだ。


「はああ……ウサギの能力を少しだけ覚えていい気になってた。やっぱ、たったレベル7で剣の究極奥義や風の超高位魔法、または激レアなウルトラスキルを習得するって、文字通りチート、めちゃズルイもんなあ……」


リオネルは自問自答し、改めて己を戒め、大きくため息を吐いたが……

思い直した。


「いやいや! 欲張りすぎだ! 贅沢言ったら、バチが当たる。習得した超チートスキル『見よう見まね』を検証出来たと思えば、全然無駄じゃない。まずは良く観察し、深くイメージする事が大事だって分かった」


「やっぱりアンセルムさんの言う通りだ! 命を失うような無謀さは駄目だけど、失敗を恐れずに、ためらわず挑戦あるのみなんだ! そして絶対に最後まで諦めてはいけない!」


リオネルは「すぱっ」と切り替えた。

今回の検証はマイナスがない。

プラスとなった方が著しく多いから!


まず魔法使いとして、『風矢』の魔法が習得出来た。

『身体強化魔法』も習得した。

我流だった剣技を始め、格闘技など、俺が全然知らなかった技法の型を、基礎や初歩レベルだけど、たくさん覚える事が出来た。


加えて、犬と猫の能力を50%取り込めたから、体術も含め、いっぱい訓練や修行してレベルをうんとあげて、また挑戦、地道に繰り返しだな。


よくよく考えれば……

スキルを使った今日だって、真っ当に努力している者達から見ればチートの文字通り、ズルイと糾弾されるやり方だ。


出来る事なら俺だって、ズルイやり方ではなく、本当は師匠についてちゃんと修行したい。


しかし1か月以内にこの王都を出なければならない。

強くなりながら、いろいろな事を勉強し、旅の資金も貯めなくちゃならない。


……俺は与えられた条件下で最大限工夫し、ひたすら努力するしかない。

それで良いんだ!


上を見ればきりがない。

下を見てもきりがない。

自分は自分。

ストレスをためない。

マイペースで行こう。


再び自問自答したリオネルは改めて決意し、元気よく歩いて行った。

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