第15話「アニマルが師匠②」

先に取得した猫の能力に、リスの能力を得たリオネルは……

雑木林の木々を縦横無尽、素晴らしいスピードと切れで、自由自在に飛び移った。


自信が満ちあふれる。

木の上でも暮らしていけるのではないかと思うくらい自然にふるまえる。

猫とリスの木登り能力のお陰である。


「うお! 木登りに関しては、完全にランクA。猿の能力も得たら万全のランクSだな」


何て余裕の軽口も出る始末だ。

多分『木』以外の断崖の登攀とうはんにも応用がきくに違いない。


後、リオネルには試してみたい事がある。

高所からの落下緩和である。

当然、取得した猫の能力を試すのだ。


猫は落ちたり、飛び降りたりした時、手足を開き落下速度を調節できるという。

もしも頭から落ちたとしても、地面までの距離を計算し、皆さんがご存じのポーズ、

体をねじりながら着地する。

そんなイメージがある。


猫は三半規管で距離を想定し、筋肉と肉球を使い、ショックを和らげて降下するらしいが、リオネルにはそこまで学術的な理解が出来ない。


それに高所からの緩和にも限界がある。

もしも限界を超えた高すぎる距離から落下したら、大けがをしてしまう。


ぼっちの悲しさ。

ダメージを受け、動けなくなったところを敵に襲われたら……

助けてくれる者は居らず、ジ・エンドとなってしまう。


リオネルはやはり用心深い。

無理は絶対に禁物なのだ。

なので、初めて木へ飛び移った時のように低い位置から飛び降りる事にした。


「少しずつ高さを上げていけばいいや。最初は身長より少し高い2mにしよう」


ここで念の為、索敵。

……外敵の気配も姿もない。


「よし!」


リオネルは軽々と木に登り、2mの高さから……ぱらりと飛び降りた。

全然……楽勝だった。

3mからも4mからも5mからも……ぱらりと楽勝で降り立つことが出来た。


さすがに猫のように反転しておりるのは怖くて試せなかった。

とりあえず余力を残したここまでで訓練はOKとする。


と、ここで索敵に『反応』があった。

オークやゴブリンなどの魔物……ではなく、『獣』の気配だ。

他の獣から『獲物えさ』とされるリスは、襲ってくる敵の気配を感じるのが鋭いのかもしれない、

ふとそう思う。


愚図愚図してはいられない。

退避しなければ!


リオネルは急いで木に登った。

15mくらいの高さに陣取る。


やがて一体の『猪』がやって来て、木の下を駆け抜ける。

猪の体毛は茶色で巨大な体躯をしていた。

ぱっと見ても、体長3m、体重は300㎏を楽に超えているであろう。


その猪の後を、5体からなる『灰色狼』の小群が追っかけて来た。


しかし猪はもう決着けりをつけようとばかりに止まり、反転。

唸って狼どもを威嚇した。


対して、狼も一旦、ストップ。

猪を取り囲みつつ、唸っている。


しばしにらみ合ったその時。

いきなり均衡が破れた。


いきなり猪が突進。

体当たりし、唸る狼を軽々と弾き飛ばしたのだ。

続いて、もう一体、更に一体と、猪は体当たりの連チャン。


一方、狼も嚙みつくなど、何度か反撃したが及ばない。


結局、残り一体となった狼は、形勢不利とみて、退却していく。

弾き飛ばされ、『負け犬』ならぬ『負け狼』となった四体も慌てて続いた。


敵を撃退した猪は「ふん!」と大きく鼻を鳴らし、悠々と去って行った。


「うわ、ホント凄かったな、あの猪……」


息と気配を殺し、木の上で見守っていたリオネルへ、


チャララララ、パッパー!!!


心の中で、独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、

内なる声が告げて来る。


チートスキル『見よう見まね』が発動しました。

猪の運動能力を見たので、50%真似られます。

習得しますか?


そして更に、声が響く。


チートスキル『見よう見まね』が発動しました。

狼の運動能力を見たので、50%真似られます。

習得しますか?


「うおっし! やった! 猪と狼の能力か! 遂に小動物オンリーを卒業だ!」


当然「はい!」で猪と狼の能力を習得したリオネルは思わずガッツポーズをしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


猪と狼が去った後……

リオネルは木から降りて、早速習得したばかりの能力を確かめる。


まずは猪……

突進力や押す力は半端ない。

一説によれば70㎏の石を押して動かせるという。


50%習得だから、35㎏を動かせるという単純計算になるが、体重差もある。

古文書の写本には誤差が生じると記されていたし、実際に試してみないと分からない。

という事で、リオネルが試してみたら……

30㎏以上はある土中の岩を引っ張り出し、持ち上げる事が出来た。


「よし! すげ~や!」


何回か、岩の持ち上げを繰り返すが、全く疲れない。

終いには、10m以上、軽く放り投げる。


「猪の持つ能力のおかげで、パワーも相当アップしたか!」


後は狼の能力チェックだ。

犬族は嗅覚もそうだが、特に持久力は秀逸だ。

……つまり狼のスタミナを試してみたい。


「王都まで、走って帰るか!」


狼の走行最高時速は50㎞以上。

また獲物を追う際、時速30㎞で7時間、つまり200㎞以上走る事が可能だと言われている。

能力半分でも、50%の単純計算で……

時速15㎞で100㎞の距離をぶっ続けで7時間以上走る事も、OKかもしれない。


「よっしや! いきなり100㎞は無茶だろうけど、王都までは10㎞少しだ。無理のない速さで試してみよう。疲れたらすぐ休めば良いし! アンセルムさんの言う通り、まずは挑戦だろ!」


リオネルは大きく頷き、王都正門へ向かい走り出した。

念の為、周囲を警戒し、索敵は欠かさない。

彼の想定通り、狼の能力……持久力が威力を発揮した。


リオネルは余裕をもって走ったが……

何とうれしい誤算。

15㎞どころか、王都の正門まで平均時速30㎞以上の速度で駆け抜けた。

息も切らさず楽勝で、約10㎞余りの距離を20分と少しで帰還してしまったのである。

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