誠に僭越ながら 私 アイドルを始めました①

ODN(オーディン)

プロローグ

『拝啓

 西暦2525年の春は失くした華麗なる一時ひとときを徐々に取り戻して参りました。マスター・アイ様におかれましては如何様な時をお過ごしでしょうか。

 この度、私事わたくしごとではございますがマスター・アイ様にお伝えしたいことがあり、こうして筆をしたためている次第です。~~』


 それはマスターに宛てた初めての手紙。

届くはずのないその想いを日記という媒体に書き記す彼女。


すらりとした手足に桃色寄りの紅髪。背中にかかる長髪は一ミクロンの綻びもない髪質を保ち、光を照り返す髪の一線は滑らかで優し気で。整った目鼻口の黄金比は精密に計算され尽くした配置で端麗そのもの。


‥‥なのだが、その端麗な容姿からは想像できないほど筆を進める手は遅く、一文書いては深呼吸‥という流れを繰り返して彼女は懸命にふみつづっていた。



――マスターの付き人として、決して無様な内容の手紙を書いてはならない。


…震える手を抑えながら彼女はこれまでに起きた出来事を時間の許す限り書き記していく。


「いけない。これだけは伝えないと…」


 文の終盤。結びの文章にまで差し掛かったところで背筋を正し、かつてないほどの緊張感を胸に筆を奔らせる。決して間違えないように、言葉を口にしながら…。



「———誠に僭越ながらわたくしアイドルを始めました」


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