第40話 父の過去(後編)
「その後、どうなったのですか?」
メレンケリが恐る恐る尋ねる。父はため息をついた。
「私は恐怖で手が震えた。これが夢であってくれと願った。悪夢であることを何度も心の中で願った。だが変えられない事実だった。友人は転んで立ち上がろうとする姿で、皮肉にも艶めいた白っぽい石になって固まっていた。何度、その子の名前を呼んでもダメなんだ。返事もない。ただ、時が止まった者がそこにいるというだけだった」
「……」
「その後、私は石になった友人をなんとか引きずって家に帰り、私の父でありお前の祖父に事情を話した。すると、酷く恐ろしい声でこう言われたよ。『お前は人殺しだ』とね。メレンケリも知っていると思うが、一度石にしたものは元に戻すことができない。だから、お前の祖父はそう言ったのだろう。
それから私は家の中だけで生活するようになった。家族も外に出すことを許さなかったが、私もそれを望んでいなかった。
暫く私に向けられる周囲の視線が、とても冷めていたからだ。仲良くしてた他の友達も私を遠ざけるようになり、近所のおばさんとも話さなくなった。
人々は、私からどんどん離れていった。
お前の祖父も使っていた力が危険だと思われて、辛い思いをしているようだった。私には一切話さなかったけれど。
あの出来事は、八歳の子供には堪えたよ。数年間、毎日石にした友人の夢を見たくらいだ。今でもたまに見ることがある。
だけど、これで分かった。私の力は使い方を誤ると、人も殺し自分をも殺すことになるのだと。それからだ。手袋をちゃんとかけ、『
ここまで話を聞いて、メレンケリは父が厳しかった理由をようやく理解した。
右手の力を崇拝していたわけではない。それが中心だったのではない。
メレンケリに自分と同じてつを踏まないように、体に叩き込んでいたのだ。外に友人を作らせなかったのも、学校に行かせなかったのも、メレンケリが自分と同じように悲しくて辛い思いをさせないように。
メレンケリはぐっと奥歯を噛み締めた。そうでもしないと、涙が出そうな気がした。
「そうだったんですね……」
ようやく出た言葉だった。だが、父が言いたかったことは、胸に響いた。
「だから『石膏者』という仕事は重要なんだ。お前の力が社会に役に立つということが言える、唯一の場所だからだ。それ故に、嫌だと言っていても一生その仕事を貫かなくてはいけない」
メレンケリが父の言葉はもっともだと思い、頷きかけたとき、ふとある言葉が頭をよぎった。
『君は何か、やりたいこととかないのか?』
(グイファス……)
それは『石膏者』という仕事に嫌気がさしていたメレンケリに、光をくれた人の言葉だった。
そして彼から勇気をもらった。
(そうだ。私はこの力を『今』なんとかするために、父上に会いに来たんだ)
メレンケリはゆっくりと呼吸をすると、父に言った。
「父上の言うことは分かりました。私の右手が人に危害を及ぼすことも。そしてこの存在自体が危険であることも」
「力の使い方を正しくしなくてはいけないということだ」
「分かっています。その上で、父上にお聞きしたいことがあります」
「何だ?」
「この右手を覆い隠す手袋ですが、何故この手袋は石にならないのですか?」
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