第1章 少女の右手に宿る力

1、その盗人の名は「グイファス」

第1話 メレンケリ・アージェの右手

 メレンケリ・アージェの右手には、「触れたものを石にする力」がある。


 この異能力はメレンケリの家系に代々現れる力で、彼女の父も祖父も持っていた。しかし、彼ら以外の人々がその力を持っていたことはない。


 つまり「触れたものを石にしてしまう力」は、この世で唯一アージェ家にだけ与えられた力なのだ。


 そしてこの特別な力を持ったメレンケリは、ジルコ王国の中心街から少し離れたところにある軍事警察署で重宝されていた。なぜなら、その仕事が彼女にしか出来ないものだったからである。

 軍事警察所での彼女の役割。それは、そこに収容された者たちを「脅す」こと。



 ――真実を言わなければ、石にする。



 それが軍事警察署で働く、軍人たちの口癖だった。

 そうやって容疑者を「脅し」、何故その犯行に及んだのか、などについて口を割らせるのだ。


 だが、真実を言わない者は本当に石にされる。

 容疑者の肌がむき出しになっているところに、彼女の右手が一瞬触れただけで、その部分から全身に石化が広がるのだ。その恐怖は想像するにかたくないだろう。


 そして彼女が、石にしたものは決して元には戻らない。誰が何に祈ろうとも、何をどう試みても無駄である。


 メレンケリはこの仕事を十七歳から始めたが、周囲で働く男たちは「少女には過酷な仕事だから、すぐに辞めてしまうのではないか」と思っていた。


 だがそれでも彼女は軍人の指示に黙って従い、何とか仕事をこなしてきた。それも今年で三年目になる。


「父も祖父もしてきたことだもの」

 そう言って、自分の境遇を受け入れようとしていた。

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