私の最初で最後の恋に恋をした人は最悪な敵だった

雛倉弥生

第1話 彼にとっては運命の相手だった

ああ、失恋したんだ。そう、初めに思った。


何十年も一人の男に恋をし続けた。想い続けて


来た。何度結ばれて幸せな未来を思い浮かべた


だろうか。何度好きだと思っただろうか。


それも今、この瞬間で終わってしまうなんて。


二度と彼には会えない。嫌われるだろうか。許して


くれるだろうか。初めから許してもらうつもり


なんて鼻から無いけれど。と、彼の事を思いながら


今までの出来事を思い出していた。







深夜、東京。


ローファーのヒールが地面に響く。灰の色の長い髪


を持った少女、卯榴千璃(うりゅうちあき)は


深夜にも関わらず制服姿で道を歩いていた。


まだ成人していない為、学生という立場にあるが、


裏の顔は、『ブラン』という政府直轄の組織の


一員。彼女等は一度滅びた世界で再び文明が開花


した直後、超能力に目覚めた。


『ノワール』と呼ばれる反社会組織の者達もまた


同じだ。だが、一つ違う点は彼等がその能力を


悪用し、悪行を続けているという事。彼等を恐れた


各国の政府は対抗できる組織を作った。それが、


『ブラン』だ。謂わば『ノワール』を倒せば


彼女等は用無しというわけだ。


千璃は一つ息を吐いた。疲れも含まれている。


(休みあるけど割りに合わないし。両立難しいん


だから学生なんてやりたく無かったのに。義務教育


終わったんだから通わなくても良くない?)


と、心中で愚痴を吐いている。学生という立場上


あまりこんな事はしたくないが、これも人類の為


なのだ。目を瞑って欲しい。急いで家路に着いて


いるのは『ブラン』は世間にあまり公にされて


いない。だからだ。こんな姿を誰かに見られたり


でもしたら一貫の終わり。


(だから、学生なんてせずに自由に動きたい


んだけど)


黒のリュックを背負い、早歩きで道を進む。


すると、突然体が動かなくなった。


(何、動かない。どういう事、襲撃?)


冷静に思考を動かしている彼女の背後で声がした。


「あれ、大人しいんだね。もっと、『ブラン』の


奴等って馬鹿が多いかと思ったよ」


驚いた様な、笑っている様な、様々な感情がその


声から、言葉から滲み出ていた。


千璃は、背後に顔を向けた。直後、愕然とした。


そこにいたのは紛れもなく、自分達の敵である…


「…梓葉遙舞(しばはるま)」


声が震えていた。恐怖からなのだろうか。それとも


別の何かなのだろうか。それすら考える余裕は今の


千璃には無かった。


「覚えててくれたんだね、嬉しいな」


興奮しているのか、顔が赤い。


「…『ノワール』の、頭領なんだから覚えてるに


決まっているでしょ」


そう、彼。梓葉遙舞こそが『ノワール』の頭領で


あった。


「警戒するなよ。戦う意思は無い。ただちょっと


聞きたい事があっただけ」


「何」


「この近くで病院ってある?」


「は…?」


千璃は、遙舞の身体を注意深く観察した。すると、


黒ずくめの服で見落とす様な場所が僅かに色が変色


していた。


「…やられたの、あんた」


「油断しててね、多勢に無勢だったから。それで、


あるの、無いの?」


「残念ながらあんたの期待には応えられないわよ。


もう少し行かないと病院行ってなんて無い。そこで


出血死すれば?」


「酷いなぁ。わざわざ頑張って此処まで来たって


いうのに」


わざわざ、こんな所まで?こんな馬鹿な奴、本当に


現実にいたんだなと感心した。


「ちょっと、感心しないでよ!」


ぎゃーぎゃー、喚く遙舞に痺れを切らした千璃は


彼を睨み、襟足を掴み、引き摺った。


「仕方ないわね。私の家で手当てしてやる。優しく


してやるのはこれっきりよ」


彼女なりの照れ隠しなのだろう。引き摺る力が


緩いのは。優しい少女の姿に青年はクスリと


笑った。


(ありがとう、"千璃")








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私の最初で最後の恋に恋をした人は最悪な敵だった 雛倉弥生 @Yuzuha331

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