第43話
「ここが白三弥山の……」
青森が辺りを見回す。
渉流と猪狩との三人で、美戸裏神社跡地に来ていた。
跡地は綺麗に更地になっており、石ころが転がる補正されていない土と砂の床だけがただ顔を出している。
「渉流君、ここら一帯に悲痛な残留思念が滞っていますよぉ。しかも、それを覆い隠そうとした痕跡がある」
「負の気が強いな、というぐらいしか入ってこなかったです、俺には」
猪狩が重たそうに口を開いた。
「殺されてますよね、何人か……。そんなイメージがする」
確かに渉流にも人の叫びの念が今日は心に飛び込んでくる。以前来た時は恐ろしく自分が鈍感だったかと思えるくらい、ここまでじゃなかったのに。
人為的に、何かされていたということか。目眩ましを。
目隠しの力が弱まっているというのは一体どういうことだろう。
「渉流君は、ここに定児君がいるんではないかと踏んでいるんですねぇ~?」
「はい。恐ろしいぐらいに何も気配がなかったのが、反対に怪しく思えました。定児は必ず来てるはずなので、多少の何かは残っている筈。そちらのほうが自然だ」
青森は背後の山々を見渡して言った。
「見たところ白三弥山に怪しいところは何もない。混乱も、歪みも。なるほど、それが逆に怪しい」
青森は懐から和紙を取り出す。
そして手早く折り鶴を追った。
「教えてください、折り鶴さん。私達に。ここが作られた空間であるなら、本当の姿を」
そして手元から飛ばす。風も吹いていないのに、風の軌道とは全然違う動き方をし、折り鶴は落ちる気配もなくシャボン玉のように飛んでいく。
三人は折り鶴の後を追う。
折り鶴は何もない野山の脇でぽとりと落ちた。
「真の姿を我らに見せよ。五芒の開眼開景!」
青森は空中に五芒星を描いた。すると指で描いた五芒星が緑に光り、焼き付くように飛ばされた。
かと思うと、周囲の景色がいきなりぐにゃと歪む。
「なるほど、私達が見せられているのはやはり誰かが作ったオブジェクト、舞台のカキワリ装置だったようですねぇ~」
真の風景は先ほどの野辺山の風景とさほど大差ない。
だが林の合間に、扉が地面に埋め込まれてあった。
鉄の重そうな扉が、隠されていたのだ。
「どうします。いきなり入って見ますか……」
「金龍和尚に連絡してから、俺だけでも行きますよ」
渉流が答えた。
「罠かもしれないですよ……」
ふと、猪狩がそんなことを口にした。
確かに、目隠しの効力をわざと弱まらせてあるのなら、自分達を誘い込むための罠かもしれない。
渉流は考えた。青森達は待たせ、自分一人で飛び込むほうが得策か。
「なら俺が一人で入ることにしましょう」
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