「遊郭って何?」って聞かれてもないのに

 某大人気アニメの新作が「遊郭編」と公式発表されたとき、「遊郭が何か、子供にどう説明したら良いんだ!」というクレームが保護者からあったらしい。(アニメの放送は終わっている。放送決定が発表されたのは2021年2月ごろ)

 私個人の意見はとりあえず置いといて、じゃあ児童書は遊郭をどう説明しているのか、図書館で調べてみることにした。

 そう、保護者の皆さん! こういうときは図書館を利用しましょう!

 

 さて、「ゆったりしているけど本が古い」我が町の図書館に行って参りました。こちらの図書館は児童書コーナーと一般書コーナーがフロアで分かれているから、今回は児童書コーナーで本を探してみた。


 まったく「遊郭」を知らないという体で調べるので、基本の「総合百科事典ポプラディア」で検索。ここはさすがポプラディアというべきか、しっかり項目がありました。以下引用です。


遊郭 遊女を住まわせた場所。「くるわ」「遊里」「いろまち」などともいう。長崎の丸山、大坂(阪)の新町、京都の島原、江戸の吉原などが知られる。都市の周辺部におかれ、わまりを溝や塀でかこみ、出入り口は1か所にして門などをもうけた。江戸幕府はこうして遊女のとりしまりや治安維持を強化するほかに、生活空間とはことなる特別な区域をつくった。井原西鶴や近松門左衛門などの作品から遊郭のようすがうかがえる。(総合百科事典ポプラディア11新訂版p59)


 勉強面では問題は無いかもしれないが、Whatの問いにこのアンサーで子供たちは納得するのだろうか。閉鎖された非日常な場所で、遊女がいる、と言うことしか分からない。

 さらに掘り下げるために「遊女」を検索。が、無い! 「遊女」の項目がない! 別の項目で使ってるのにそんなことあるか? と、近くにあった児童用の国語事典など数冊めくってみたが「遊女」いない。 

 ポプラディア情報館シリーズに『衣食住の歴史』『仕事・職業』という便利な図鑑もあるがこちらには「遊郭」も「遊女」も記述はない。

 

 と、なるともう百科事典や辞書に頼って良い段階ではないのかもしれない。そう、人類に必要なのは知識ではなく経験なのだ。ではポプラディアを参考に、いざ、新町へ(最寄り)! という訳ではなく、図書館らしい経験をしよう。

 実は児童書、比較的何でもある。児童向けの井原西鶴も近松門左衛門も読み物として存在するのだ。

 残念ながら『好色一代男』の児童書はなかったが、『曾根崎心中』はフロアでざっとさがして2冊、検索したら書庫にも持っているようだった。


 ここまで書いてて何だが、最初のポプラディアの時点からもう小学校低学年の子は置いてけぼりである。普通に考えて「説明できない!」というのは「性的な部分をどう伝えれば良いんだ!」という話なのだ。それに加え、遊郭は時代背景も関係する。

 だから「遊郭って何?」という問いに、私なら「もうちょっと大きくなったら教えるから、とりあえず今はアニメ見ときな」と答える。保留、それで良いんじゃないかなと。

 

 そもそも自分が「遊郭」「遊女」をいつ知ったのか思い出せないし、親に聞いた覚えもない。ただドラマで「暴れん坊将軍」や「遠山の金さん」、たまにNHKの大河ドラマを子供の頃から見ていたので、気付いたら「そういうものが昔あった」という知識はあった。

 それで遊郭のシステムや、遊女の仕事の知識を得られたのは『吉原手引草』(松井 今朝子/著)という小説を読んでからだ。

 この小説の軸は吉原一の花魁葛城が失踪した事件の謎を追う物語だが、読んでいるうちに遊郭や遊女に詳しくなってしまう。現に私がこの小説を読んだ後、遊郭が出てくる落語を聞いたらすらすらと頭に入ってきた(英会話の教材みたいだな)。


 もしかしたら保護者の中でも「遊郭」「遊女」に関する正しい知識を持っている人は少ないかもしれない。性的なイメージの場所だから、子供に説明しない、したくない、と考える人もいるだろう。しかし「そういえばイメージはあるけどよく知らないな」という方は上記『吉原手引草』の他『花宵道中』(宮木あや子/著)なんかもおすすめだ。もちろん古典を読むのも良いだろう。

 

 話を図書館に戻そう。

 以前、図書館で小学校低学年くらいの男の子が児童書を見ながら、日本と外国の軍事について父親に質問していた。父親は言葉を選びながら慎重に答えていた。

 複雑な問題は、子供にどのように、どこまで、どんなふうに答えるか、それは親の裁量による。が、一人で悩まず、子供と一緒に図書館に調べに行くのもありかもしれない。本を広げ一緒に答えを探すという方法も一案として頭の隅に置いておいてほしい。

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